19ページ目 合わせてぴょこぴょこ
パンサーに連れられやって来た三跳々高校。
校門の横の壁に埋め込まれた板に書いてある学校名を見て愕然とした。初めて名前知った。転校したい。
「…………ねえサカテ、この板は銘板って言うんだよ」
「今その絶妙に役に立つ雑学はいらねえ!! なんだこの名前!? カエルの高校でもこの校名は敬遠するわ!!」
「ちなみにこの高校の生徒は成績が良ければ繰り上げで六跳々大学に進学できるらしいで! くぅ~、オレも頑張らな!」
「『くぅ~』じゃねえよ!! 恥ずかしくて履歴書に書けねえよそんな汚歴!!」
このクソ天使、わざとこの高校に俺を入れやがったな…………!
何でなの? そうまでして俺に恥をかかせたいの? だってお前もここに通うことになるんだよ? お前だって恥ずかしい思いするんだから意味なくない? 骨を切らせて骨を断ってない?
できればこの門は潜りたくない。
が、どうやら俺とヒメラの昨日の行いは、この三跳々高校の生徒たちに凄まじいインパクトを与えたらしく。
「あなたたちが噂の黒炎兄妹ですか!? 私、新聞部の者なんですけど! よろしければ昨日の件についてお話を聞かせてください!」
「わたしはオカルト研究会の部長よ!! 昨日、そちらの女の子が羽を生やして飛んでいるのを見たんだけど!! いったいどういうことなの!?」
「わたしは今しゃべった二人とおおかた同じようなことを疑問に抱いている帰宅部だよ!!」
正門を潜ったとたん、目をキラキラと輝かせた好奇心の権化たちが波のように押し寄せてくる。三人目は何で他を押し退けて発言できたの?
紙とペンを持っていたり、スマホカメラをこちらに向けていたりと様々。校庭は大パニックだ。
「あーーーー!! なになになに!? ピンくんとヒメちゃんったら、転校早々に人気者じゃん!! ワセミーもまーぜーてーーー!!!」
うわっ、歩く混ぜるな危険が来た。
「くぉらお前ら!! 何だこの騒ぎは!! そいつらの件は全校集会でじっくり話し合うから、早く体育館にいけえええええ!!!」
例の舌打ち男性教師が来た。何気に出番多くない?
まぁあの人には全て言い訳……もとい誤解の解消は済んでいるから、ここは任せよう。
しかし全校集会か。目立つのは嫌なんだけどな。
「待て!! お前らがいると話がややこしくなるから、二人で職員室で待機しとれ!!」
体育館へとキビキビと歩き出した俺とヒメラは、さっそく舌打ちティーチャー…………シタティーの検問に引っ掛かった。
シタティー、やたらと俺らに目をつけてくるよな。まあ主にヒメラに対してだけど。
確かにコイツを集会に立ち会わせると、どんな爆弾発言をぶっ放すか分からんしな。英断っちゃ英断かも。
「だってさ。どうするサカテ?」
「どうするって…………もう波風を立てんのはゴメンだ。俺はサーファーじゃないからな。ここは大人しく従っとこう」
俺とヒメラは担任の真景先生に連れられ、職員室に直行した。
「『俺はサーファーじゃないからな』ってなに? ウィットに富んでるっぽく言ってたけど富めてないよ? 富み損ねてるよ?」
「いやだから、波風を立ててもサーファーじゃないから上手く波には乗れないんだ…………って解説させるな。赤面しちゃうだろ」
職員室に到着。
真景先生も体育館へ向かい、俺とヒメラが広い職員室に二人、ポツンと取り残された。
コイツと二人になるのは教会だけで充分なんだがな……。
「それはお互い様だよ。まだ私、汁物対決の結果に納得してないからね」
「さいですか。まあ実質、味噌汁の方が上だしな。納得しないのもムリはなかろうて」
「は? けんちん汁のコールド勝ちなんだけど」
「温かいけんちん汁がコールドとは、なかなかにユーモラスだな。がっはっは」
「つまんなすぎる。閻魔様まで産地直送されてほしい」
「俺も今のはつまんなかったと思う」
職員室で交わされる何気ない会話。
今ごろ体育館でどんな話がされてるのかなぁ。想像するのも嫌だなぁ。
「だいたい、アンタは何でそんなに味噌汁にこだわるの?」
「こっちのセリフすぎるわ。お前のその執拗なけんちん汁推しなんなの? 料理のさしすせそも言えなさそうなお前が」
「いっ、言えるし。えっと…………ケチャッ」
「さしすせそっつってんだろボケなめこ!!」
「あーもう、暇すぎて眠くなってきた。私ちょっと寝るから、アンタは速やかに退出してよ。ボケなめこ…………?」
「いやいや、ここで待っとけって言われたじゃん。退出なんてダメに決まっ」
「くぅ…………くぅ…………」
就寝。
二秒くらいで寝やがったぞコイツ。
ったく、寝顔だけ見たらまさに天使みたいなんだがね。意識を宿したら途端に悪魔になるから困る。
しゃあねえ……まだこの学校のことよく分かってないし、ちょろっと探検とシャレこもうか。
立ち上がり、腰を数回ポンポン叩く。
昨日の疲れは取れ切ってない。年は取りたくないもんだ。
そのまま足取り重く、俺は職員室を後にした。




