表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

15ページ目 水切りごっこ


 くそっ、不審者(アイツ)のせいで余計な時間くっちまった…………!


「おーいリネア!! どこにいるんだぁ!?」


 闇雲に叫んでみるも返事はなし。


 それもそのはず、ここは鬱蒼(うっそう)とした森の中。


 さっきの地図でだいたいの地形は分かっているが、明確にリネアの位置を突き止めることはできない。


「困った…………アイツ、モップがないと電気出せないのか? いやでも、さっきは技を使って教会から出てったし……」


 もし出せるなら電気を高く打ち上げて居場所を知らせてくれればいいんだが……。


 バリバリバリ、と大きな雷鳴。


 音のする方に注目。


 見えたのは、遠くの方で木々を大きく揺らす、水色の電流。



「狙ってやってるわけじゃなさそうだけど、都合のいい展開だこと……」



 リネアの場所までもう少し。


 しかも電気が見えたってことは、現在進行形で戦闘中だ。


 サカテくんの足、最後まで頑張ってくれればいいけど…………。





「はぁ…………はぁ…………ひゅう…………ひゅう…………」


 俺が到着したとき、リネアは濡れた地面に片膝をつき、肩で息をしていた。


「リネアッ!!」


「なっ…………テメエ、何で来たですか…………テメエみたいなヘボ男が来たって戦局は変わらねえですよ…………」


「良かった。俺に悪態を吐けるようなら、まだ余裕があるってこったな。ほれっ、速達だ。受け取りなチビメイド」


 ここまで必死に運んできたモップをリネアに手渡す。


「さすがのお前でも、武器がなきゃあ厳しいだろ?これで一発逆転してやってくれよ」


「わっ…………わたしだってそうしたいですけど…………ダメなんですよ…………!」


「ダメ? ダメってどういうことだ?」


「それは…………っ!!」


 リネアが何かを言おうとしたのを邪魔するように、地面から水が物凄いスピードで溢れ出し、瞬く間に俺とリネアの腰ぐらいまでを浸してしまった。


「は!? なんだよこれ!?」


「来るです、避けてっ!!」


 リネアの命令で咄嗟に体を右にひねる。


 直後、ゴツゴツとした巨大な岩が軽快にピョンピョンと跳ねながら、俺のすぐ隣を通りすぎていった。


 あんなの食らってたら、マジでひとたまりもなかったぞ…………。


「ちょっとチビっちゃったんだけど、水中だからいいよね?」


「小学生男子の理論やめろです!! はあ…………ここに来たってことは、地図に移怪が二体いたのも確認済みですよね?」


「ああ…………二つの点が一緒に行動してたな」


「です。そんでそれぞれの能力は…………説明しなくても今の攻撃で分かるですかね?」


「まあな。おおかた、一体が水を作り出して、もう一体が大きな石を投げて水上に弾ませる…………いわゆる"水切り"みてえな攻撃を、二体で作り出してるんだろ?」



「そのとおリ! へへっ、バカそうな顔してるクセによく見破ったナ! 褒めてやるヨ!」


「バカそうな顔なのにナァ!」



 やんちゃな子どものような高い声とやや低い声が続けて聞こえた。二人でバカそうな顔って言うな!!


「ニイチャンが水を作っテ、ボクが石を投げル! この水切り攻撃デ、オマエらなんか一瞬でぶっ殺してやるヨ!」


「二人で攻撃ダァ!」


 なんか色々と解説してくれているが、姿は見えない。ニイチャン…………ってことは、敵は兄弟か?


「水切りかかくれんぼかハッキリしてくんねえかな? サカテくん燃費が悪いから、二つ同時なんて付き合ってやれねえぞ?」


「ずいぶんと余裕だナ! 自分の状況を分かってるのカ? 水中じゃあそっちの女のスピードは制限されル! しかも電気も出せなイ!」


「攻撃できないゾォ!」


 さっきから弟くんばっかり大事なこと喋っててお兄ちゃんのセリフ薄っぺらくない?



「のんきに突っ込んでる場合じゃねぇですよ。アイツらの言った通り、水中で電気なんか出したら感電してオシマイです」


「え? でもお前は感電なんか平気じゃないの?」


「わたしはね。モップも来たことですし、これで全力で戦えるです。でも、テメエはどうなるです?」


「…………まさかお前、俺のことを心配してくれてるのか?」


 リネアの顔がボオッと赤みを帯びる。恥ずかしさと怒りが半々ってところかな。


「ちっ、ちげえです!! ちげえですけど…………一応テメエはこうしてモップを持ってわたしを助けに来てくれたです。モップがなかったら苦戦してたと思うですし…………巻き込みたくないだけ、です!!」


「何にも違わないじゃんか。ありがとな、リネア」


「うるさいですっ!! まださっきのこと、怒ってるですからね!! テメエなんか今すぐにでも練り殺してやりたいですっ!!」


 殺されるにしても、もっと平和に死にてえなぁ。


 さっきのことって、俺は間違ったこと言ってなかったのに……。


 そうこうしてるうちに、水がどんどんと引いていく。


「おいおい、ボクたちをほうっておいてイチャイチャするなヨ! なんの打開策も見付けられてないっていうのニ、本当にマイペースな奴らだナ!」


 またこの展開か。そんなに俺は天使とイチャイチャしてるように見えるかね?


「…………………マイペースな奴らだナァ!」


 お兄ちゃんそれさっき弟くんが言った!! セリフの配分もっと均等にしてあげればいいのに……。


「ホントならモップを受け取ったらすぐ逃がしてやりたかったですが…………アイツらもう、テメエを見逃す気ねえですよ。どうするですか?」


「俺も戦う意欲はあるし、刀はこうして出せるんだけどさ…………炎が出てこないんよ」


 ちょいと念じればこの通り、刀は楽々取り出せる。


 だが、黒歴史パワーとやらがなければそれはただの鉄の塊。


 移怪を倒すのはおろか、傷を負わせることすら難しそうだ……。


「それに、仮に炎が出てきたとしても、相手は水使い。相性は最悪だろ」


 俺がモップを運んできたおかげでリネアの力が最大になったまではいいが、今度は俺がいるせいでリネアはその力を出し切れなくなった。


 俺が逃げれば済む話だが、それも出来そうにない。ここまでの疲れも重なって、移怪二体を撒けるほど早く走れそうもない。


「参ったね……八方塞がりじゃねえか…………」


 無力な俺を嘲笑うかのように、水が再び、腹くらいまで満ちていく。先程よりもやや深く、動きにくさが増した。


「ヒャハハッ!! カッコよく登場しといて何の策もないノ!? じゃあさっさと終わらせてあげるヨ!!」


「……………………………そうだそうダァ!!」


 お兄ちゃんっ!! もはや弟くんの子分みたいに!!


「だから突っ込んでる場合じゃないです! 避けるですよ!!」


 前方から鋭利な小石が次から次へと向かってくる。


 リネアは持ち前のスピードを生かして、電気を出さないようにそれらをかわしていく。


 俺は取り出した刀で石をギリギリで受け止め、やりすごすことしかできない。


 完全に足、引っ張っちまってるな…………。


「うぐっ…………!!」


 リネアが苦しそうな声を出す。小さな右肩から真っ赤な血が流れ出ていた。


 防戦一方だ。このままじゃ体力の限界が来て、俺もリネアもやられちまう。



「考えても考えても、いいアイデアが出てこないカ!! 勝負あったナ! じゃあ、冥土の土産にボクたちの姿を見せてやるヨ!!」


 そしてまた、水がどんどんとなくなっていく。


 完全に相手のペースだ。お兄ちゃんついに喋らなくなった。



 待てよ?



 何で水を出したり、引っ込めたりする必要がある?


 出しっぱなしにして、俺たちの動きを封じ続けた方が、アイツらにとって有利のはずだ。


 思えばここに来たときも、地面が濡れていただけで、水なんてなかった。


「…………腐れインゲン豆のくせにいい着眼点じゃねえですか。ちょっとだけ感心したですよ」


 リネアが右肩に包帯のようなものを巻きつけながら、静かに笑った。



 今の俺にインゲン豆っぽい所作あったか……?



 二体の移怪が物陰から姿を表し、空中にプカプカと浮かんでいる。


 一匹は垂れた目を細めて、口をニンマリとさせて上機嫌そうに笑っている。


 両手に大きな石を掲げていることから察するに、弟くんだろう。


 そんでお兄ちゃん。つり上がった目と"へ"の字の口。弟くんと反対にご機嫌ななめフェイス。


 もともとそういう顔なのか、セリフ少ないからキレてるのかは分からないけど……。


 そして二人とも、昼間の嫉妬野郎と同じく黒いモヤモヤで構成された、啼雲だ。


「テメエも知っての通り、アイツらは移怪の中で最弱な啼雲です。でもヒメラ様のおっしゃった通り、啼雲にしちゃあ少しばかり強いです」


「啼雲が強化されてるって話は本当だったのか……」


「でも、所詮は啼雲です。テメエの疑問はいいセンついてたですよ。ずっと水を出しとけばいいのになぜ引っ込めるのか…………答えは簡単。それができないからです」


 リネアが得意気に断言した後、お兄ちゃん啼雲を見据える。


「あんなにたくさんの水を出すには、それ相応の力が必要です。強くなったとはいえ啼雲。そんなに長いこと、巨大な力を垂れ流しには出来ないですよ」


「じゃあ、今みたいに水が引っ込んでて、俺への感電のおそれがないタイミングにお前の電気をぶっかましてやれば……」


「逆ですよ。アイツらが水を出し、石を投げた瞬間を狙うです」


「ほにゃっ!? 何で!? 水があるのに電気なんか出せないじゃん!!」


 リネアは自信満々の様子。なにを考えてるのか分からん。


 第一、天使は俺の心を読めるのに俺は天使の何の気持ちも分からないなんて不公平では?


 モヤモヤしてるうちに何度目かの浸水。


 啼雲たちは今回は隠れることなく、上空から余裕の面構えで俺たちを見下ろしている。


 弟がさっきから掲げていた、とてつもなく大きな岩を振りかぶり、勢いよく放り投げた。


 俺の10倍近くあるその岩は、物理法則を完全に無視して、俺たちのもとへ一目散に跳ねてくる。


「何してるですか! ボーッとするなです!!」


「ちょっ…………あんなんどうしたらいいんだよ…………!!」


 リネアは素早く遠くに移動するが、服の重さやら体力の限界やらで逃げ遅れた俺は、やぶれかぶれで刀を構えた。


 やべえ…………こんなの止められねえわ…………!!



「ちょっとまったなのーーーーー!!!」



 聞いているだけで全細胞が拒絶反応を起こし、寒気を催す幼女の声が、俺の視界の外から聞こえた。



 おいおい…………まさかだよな? まさか来ないよな?



 願わくば本当の幼女であってほしい願わくば本当の幼女であってほしい願わくば本当の幼女であってほしい願わくば本当の幼女であってほしい…………

 


「おにいちゃんたちをイジめるわるいバケモノさんは、ワタシがゆるさないの!! そらにバケモノさんがプカプカしてるのがみえたから、たすけにきたの!!」



 おっ、これホンモノじゃね? ちょっと正義感強めの、ホンモノの幼女じゃね? だってセリフから全然ヘンタイっぽさが感じられな



「まだ猥語が43個のこってるけど、たすけにきたの!!」



 あーあ………………戯壇挫さんだ………………。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ