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限界の先にある世界(旧名、限界異世界)  作者: 棹中三馬
第一章 転移、そして成長
9/10

008 どうやら月日が経ったらしい

2019/09/05 投稿

限界異世界をお読みいただきありがとうございます!


 アーク夫妻の宿屋に居候させて貰ってから一ヶ月程の時間が流れた。

 最初は一日だけ泊まらせて貰い、翌日には旅立つつもりだったんだけど。

 ちゃんとした理由があるとはいえ、俺達図々しいにもほどがあるよなぁ。



 どうしてこうなったのかと言うと、朝食を食べている時にアークさんが「お前さん達はまだまだレベルが低すぎる。ワシがお前さん達をしっかり鍛えてやるから、もう暫くこの村に留まってはどうかのぅ?」と言ったのがきっかけだ。



 別に急いで他の町に行く理由も特に無かったし、この先何があるか分からない過酷なファンタジーの世界を生き延びるにはレベルが高い事に越したことはない。

 俺達は満場一致でアークさんの誘いに乗っかり、一ヶ月近くにも及ぶ特訓生活がスタートした。



 といっても別に物凄く過酷な特訓をした訳ではなく、遠吠えの森や周辺のダンジョンにアークさん同行で潜入し、モンスターを倒しまくってレベルを地道に上げるというシンプルなものだ。

 つまり、RPGで言うところのレベリングだった。



 その間も俺達を無料で居候させてくれた事には本当に感謝しているし、俺達もアーク夫妻に少しでも恩返しをしようと家事や掃除、宿屋の仕事を率先してやった。



 だが、この一ヶ月の間は毎日ここで暮らしていたにも関わらず、俺達以外のお客さんを見た人は両手で数えれる程しかいなかった。

 本当にこの宿屋の経営事情が不安になってくる。

 この心配をアークさんに話してみたところ、若い頃からずっとモンスターを狩りまくっているお陰で、お金(メイン)にはそんなに困ってはいないから大丈夫らしい。



 ……と言ってもいつまでも恩人のアークさんの年金で養って貰うわけにもいかない。

 俺達はもういい大人なんだから、自立できる所を見せてやるんだ!



 と改めて自分の心に言い聞かせながら、スクランブルエッグを頬張る。

 俺達とアーク夫妻との朝食タイムも今日で何回目だろうか。



 因みに朝食は会長と西原が担当なのだが、会長が卵焼きを作ろうとするとどういう訳だかいつもスクランブルエッグになってしまう。

 でも料理に慣れている西原の親切な指導のお陰からか、最初の頃と比べたら味は格段に上がっている。 



 「ふむ。お前さん達も最初の頃と比べて大分逞しくなったのう。では、今日の特訓を無事に突破できたら晴れて免許皆伝じゃ。ワシが教えてやれる事はもう何もない」



 一番先に食べ終わったアークさんがとても誇らしげに、そしてどこか悲しげに言った。

 一ヶ月のレベリング修行のお陰で俺達はレベル40代にまで成長していた。

 転移一ヶ月にしてここまでレベルをあげている冒険者はアークさん曰くそう多くはないらしく、この周辺のダンジョンなら余裕で攻略できるレベルだと言う。



 いつの間にやらロックされていたスキルがアンノックされており、解放スキルを修得した俺達の戦力は格段に上がっていた。

 アークさんがここで踏ん切りをつける理由も納得だった。

 


 「マジか! ようやく次の町に行けるぜ! 飯を食ったら早速旅支度だ……ごほごほ!」


 「気が早いぞ西原。まずは特訓をクリアできたらってじいさんが言ったばっかじゃねーか」



 大急ぎで口に残りのロールパンを一気に頬っては勝手に噎せてた西原。

 隣の席でデザートの林檎を食べ終わった佐藤が呆れながら彼女のコップに水を注ぐと、すぐ様西原は「わりい」と一言だけ告げて水を一気に飲み下した。



 「チカちゃん大丈夫? あなた本当に良いんですか?」



 アークさんの奥さんであるメイル・レイモンドさんが自分の食事を一旦中断して、西原を心配そうに見つめる。

 夫の独断とはいえ俺達が一ヶ月も泊まっていたにも関わらず、文句も言わずに俺達にこの世界の知識を教えてくれた優しいお婆ちゃんだ。

 冒険者のアークさんとは違い生まれも育ちもこの集落であり、純粋なこの異世界の住人である。

 


 「可愛い子には旅をさせよ……って言うじゃろうばあさん? いつまでもここで宿の仕事をさせていてもこの子達の為にはならんわい」


 「でっ……ですが……」


 「大丈夫だぜメイルさん。どんなモンスターが来ようが、俺のこの拳でぶっ飛ばすまでだぜ」



 戦闘職の西原千夏の解放スキルは《鉄拳制裁》。

 パンチ系統の攻撃に限り攻撃力が十倍に上昇するという、いかにも拳で殴り合うのが得意な彼女に相応しい身体強化系スキルだ。

 俺達のパーティの中でも単発の物理火力においてはダントツの1位である。



 「その凶腕人には絶対に振るうなよな。アークのじいさんだろうがまともにコレ喰らったら死ぬぞ?」


 「心配すんな。全力で俺がぶん殴れるのは佐藤だけだ」


 「いや全然嬉しくねえし」



 因みに、防御職の佐藤圭介の解放スキルは《守護法衣》。

 モンスターからの披ダメージを常に3割抑えられて、なによりも凄いのはモンスター以外……例えば冒険者から物理攻撃を受けても絶対にダメージを受けない。



 対人戦では一見無敵ともいえる、上級永続防御スキルの一つだと言う。

 と言っても魔術師による魔法攻撃は普通に喰らうし、武器で攻撃されたら傷がつく。

 あくまで素手と素手の殴り合いと言う環境下でのみ、無敵効果を発揮する。



 「そう言って嬉しいくせに、このこの~」



 「じゃれあってる風に装ってグーパンチ連打してんじゃねーよ! オレじゃなかったら死んでるから! と言うかオレお前にそこまで嫌われることしたか!?」



 「うーん。色々ありすぎて忘れたから取り合えず憂さ晴らしに殴らせろ♪」



 「理不尽だぁ!」

 


 はたから見るといちゃこらしているバカップルにしかみえない佐藤と西原。

 一見凸凹コンビではあるけど仲が良いよなぁこの二人……とぼんやりと思いながら、会長が入れた食後の紅茶を飲んでいた俺。



 「会長。そう言えば会長のスキルって……」


 「とっしー。てっきり忘れる所だったんだけどさ、本来だったら卒業式はとっくに終わっていて、今の私はもう若葉学園の生徒会会長ではないんだけど……」


 「「「ああ、すっかり忘れてた」」」



 事前合わせもしていないのに、偶数合唱の如くハモった俺と佐藤と西原。

 と言うか上手いように話を誤魔化されてしまった気もする。



 「ちょっと! 卒業生なのに自分の卒業式を忘れてるってどう言うことなのよ!」



 会長として学校行事に疎い俺達を叱っているつもりなんだろう。

 だが、一ヶ月近くも今の生活を続けていたら前の生活なんてぶっちゃけどうでも良くなってくる。



 「と言うか今更浅倉さんって言うのも変でしょう? それに会長だってずっと俺の事をとっしーって言ってるからお互い様です」



 痛いところをつかれた様で頬をひきつらせた会長。

 別に如月君って言えば良いだけの話なのに何で言わないんだろ。



 それはさておき、回復職の浅倉来未会長の解放スキルなのだが、どういう訳か俺達にも頑なに教えてくれず、聞いてもさっきみたいに話をはぐらかされてしまう。

 一応その気になれば俺の鑑定スキルを使えば無理矢理ステータス確認が出来るのだが、会長の知られたくない秘密を覗き込んでいるみたいなので、この手段はまだ使った事がない。



 それに会長は十分過ぎるほどに回復職として役に立っている。

 会長が最下級回復魔法を一発撃っただけで、瀕死状態からほぼ全快にまで回復してしまうと言う、チートじみた回復魔法力を持っていたのだ。

 その代わりのバランス調整というかの如く、他のステータスが絶望的に低かったが。



 あるいは、この異常とも言える回復力が会長が隠している解放スキルとなにかしら関係があるのだろうか。

 まあ俺の考えすぎか。



 そして俺こと如月敏也が新たに修得した解放スキルは……特になかった。

 レベル一からあった鑑定だけだった。

 様々な状況で役に経った便利スキル……それは認めよう。

 ……だけど皆何かしらのチート級のスキルを新たに修得したのに……俺にはこの鑑定しかなかった。


 落ち込んだ気を牧割らすためにアークさんに話を振ってみる。



 「そう言えばアークさん。今日の試練とはなんなんですか?」


 「そうか。そう言えばまだいってなかったのぅ」



 失敬失敬と言いながらアークさんは惚けたように笑い、こほんと咳払いをする。

 俺達全員が彼の言葉を聞き逃すまいと会話を中断した。



 「遠吠えの森の主、クイン・サングリーをワシの助けを頼りにせずにお前さん達だけで倒す。それだけじゃ」


 

 転移初日に俺達を襲ったあの大猪を俺達の手だけで倒せ。

 それは、過去のトラウマ……弱い自分を乗り越えろと言う、まさしく卒業試験に相応しい内容の試練だった。

最後までお読みいただきありがとうございました(* ´ ▽ ` *)ノ

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