006 どうやらお年寄り程有利な異世界らしい
2019/08/31 更新
限界異世界をお読みいただきありがとうございます♪
突如と現れた弓使いのお爺さんが放った強烈な一撃を食らって、虫の息だったクイン・サングリーが遂に息を途絶え、メインとアイテムを遺して跡形もなく消えてしまった。
もしかしたら俺達に戦利品を猫ババされるのを恐れているのか、一目散にアイテムの方に駆け寄って戦利品を回収していくお爺さん。
当然彼が助けてくれなければ、今頃俺達は皆仲良くアイツの餌食にされていただろう。
だが、どうして面識もない俺達を助けてくれたんだろう?
「ふむ。今日の稼ぎはまずまずかの……」
「あの……。俺達を助けてくれてありがとうございました」
弓使いのお爺さんに向かって深く一礼する俺に続いて、会長達も続いて頭をさげる。
正直な感想、彼の弓さばきは素人の俺が見ても凄いと思った。
アイテム回収を終わらせた彼は改めて俺達の方を向き直し、あっけらかんとした表情で言葉を紡ぐ。
「ふぁっふぁ。別にワシはお前さん達を助けるつもりはさらさら無かったぞ? 日課のモンスター狩りをしていたら、やつの強大なオーラに勘づいてここへ来てみたら、お前さん達がやつと一緒におっただけの話よ」
「それでも結果的には俺達は救われました」
「サンキューおっさん。危うく死ぬとこだったぜ」
「あざっすおじいさん。この年で弓を持てるなんて元気だなー」
「おじいちゃんありがとう♪」
「ふぁふぁ。ワシの名はアーク・レイモンドじゃ。アークと読んでくれたまえ」
案外満更でも無さそうに、立派なあごひげを撫でて頬を緩ませるアークさん。
モンスターを相手にしていた時とは随分と雰囲気が違うなぁ。
さっきのアークさんはなんか……、取っつきにくいと言うか……、中二病ぽいと言うか……、危険な人と言うか……。
もしかしたら弓を構えると人格が変わっちゃう人なのかもしれない。
けれど、少なくとも今のアークさんは近所にいる優しいおじいちゃん、ってイメージが良く似合う温厚な人だ。
「へー。この世界の人ってアークおじいちゃんみたいに、みーんなモンスターを倒して暮らしているの?」
会長が興味津々と言わんばかりに聞いてきた。
確かに、メイプルの世界の住民から情報を聞ける絶好のチャンスだ。
アークさんは少し照れ臭そうに会長の質問に答えてくれた。
「いやいや。ワシがちーとばかし変わり者なだけよ。集落の仲間達は皆ワシみたいな年配者じゃが、ワシ以外の物達は狩りが出来ぬから、代わりに農業を営んで生計を立てておるのじゃ」
「それってつまり、アークさんは冒険者なんですか?」
「そうじゃよ。ワシら冒険者とは違い、この世界の者達がモンスターに殺されても二度と蘇らない。じゃから異世界から来たワシみたいな者は、この年でも心置きなくモンスターを狩って生計を立てていけるのじゃ」
「なるほど。農業だとすぐにはお金になりませんもんね」
「それに、もし仮にもワシらがモンスターに殺られたにしても、持っていたメインが半減されるだけじゃしの。じゃからと言って易々と死んではならぬぞ? 金が勿体無いじゃろう?」
やっぱりこの世界のシステムってドラクエと酷似しすぎだろ。
と心の中で突っ込んでいる間に、ジャンプ大好き馬鹿こと佐藤がどうでも良いようでどうでも良くない質問を投げ掛けてきた。
「と言うかさ、どうしてアークのじいさんはこんなに強いんだよ? やっぱりチートスキルで無双してんのか?」
「チート? ワシのスキルは千里眼と百発百中だけじゃが?」
「なんか……強そう」
「と言ってもこの世界の数多あるスキルからすれば、ワシのはごくありふれたスキルでしかない」
「じゃあ、どうしてクイン・サングリーを一人だけで倒せたんですか?」
「ふむ……、お前さん達は年功序列と言う言葉は知っておるかの?」
ネンコウジョレツ?
えーと、同じ会社で長く働くほど給料が増える……って感じのやつだったけ。
正直言って、バイトすらせずに親の脛をかじっていた親不孝な俺には、縁もゆかりもない言葉だった。
「ピンと来ていないようじゃのう……」
「ごめんなさい。完全に勉強不足です」
「まあいいわい。要するにこの世界は年功序列の世界なのじゃ。ここに連れてこられた冒険者達は、全能神カタクトフ神のご加護によって世界滞在年数に応じてステータスにプラス補整がかかる素晴らしい仕組みでのぉ。若い頃では全く歯が立たず返り討ちにされたモンスターも、ワシぐらいの年にもなれば赤子の手を捻る様に楽勝に倒せる……と言う訳じゃ」
と言っても、お前さん達がワシみたいに強くなるには、あと60年は生きなきゃいけないがのぅ……と冗談めかして笑うアークさん。
それにしても、意外な所でカタクトフの名前が出たな。
異世界もののラノベの神様なんて、主人公を異世界へ送り込む最初のシーンでしか出番が無いもんだと思っていたが。
それもあのクソジジイはメイプルの全能神様と崇められているらしい。
「正直言って、俺にはお爺ちゃんになるまでこの世界で生き延びれる自信がありませんが……」
「と言うかさ、そんな変なシステムを採用してるからさ、この世界は高齢者ばっかじゃないのか……。限界異世界って言うのに指定されちまう程に」
中西が呆れ気味に呟いた。
そうか、俺達を召喚したあの神様はそのシステムについては言ってなかったな。
多分異世界に来たばかりの俺達に説明しても意味がないから省いたんだろう。
だが、良く良く考えてみればこの世界が『限界異世界』とやらに指定されたのも、全てはこのシステムを作ったあのじいさんのせいじゃないか。
本当に何処まで迷惑をかければ気が済むんだあのクソジジイは。
「限界異世界……。そうか、ついになってしまったのか。ワシがお前さん達くらいの年に、神様とかほざくやる気の無さそうなじいさんから聞いた……様な気がするのぅ」
「そしてこの状態が続くと、いずれはこの世界は『消滅異世界』に認定されて、この世界が跡形もなく消されてしまう……って、ついさっきカタクトフ様に言われました」
「はっ?」と言いたげに目を点にしたアークさん。
そりゃこの世界の全能神であるカタクトフ様が、実際は上位神達にペコペコ頭を下げる昼寝お爺さんだなんて誰も信じないわな。
出来ればこの異世界もずっと存在してくれれば万々歳なんだけど、一見ふざけてはいるけど、軽々しく嘘をつくような神には見えなかったんだよな。
案外、消滅異世界になるのはもうすぐそこなのかもしれないし……。
「まあ良いじゃん。神様のお陰でアークお爺ちゃんが今も元気なんだから。どんよりした気分なんて私達らしくないよ皆」
「嬉しいことを言ってくれるのう、ピンクのお嬢ちゃん」
「確かに髪はピンク髪だけど……。私の名前は浅倉来未だよ」
「クルミお嬢ちゃんか。良い名前じゃのう」
会長の子供らしい純粋な性格と低身長なのも相まって、アークさんと話している会長の姿はまるでお爺ちゃんと孫娘みたいだった。
「そうじゃ。ここであったのも何かの縁。お前さん達をワシの集落に案内してやろう。この森を抜けたすぐ先じゃ。後についてきたまえ」
「本当ですか‼ 丁度俺達はそこの集落に行くつもりだったんです!」
「将来この世界が消えるとか重っ苦しい話は今後は無しじゃ。お前さん達はまだまだ若いんじゃから、今はこの素晴らしい世界を存分に堪能するが良いぞ。この12の国家からなる広大なるメイプル合衆国にようこそ」
俺達に背を向けながら背中でそう語るアークさんはとても頼もしかった。
ここまで読んで下さりありがとうございますヾ(*>∇<*)ノ
アークさん元気なお爺ちゃんですねw