003 どうやら会長が帰ってきたらしい
ここまでお読み下さりありがとうございますヾ(*>∇<*)ノ
それでは、限界異世界第三~始め~♪
全くあの自分勝手なクソジジイめ……
元にいた俺らの世界に戻る方法を、全員でミンチにして聞き出そうとか思っていたが、実行する前に天界とやらに蜻蛉返りしやがった。
突然俺達にもたらされた異世界生活……
そして強奪されてしまった学生生活……
身も心もまだ未熟な未成年にはそのショックはあまりに大きかった……
特に、教室から一人だけ遅れて入ってきて、今までの出来事を伝言で一通り聞かされた会長の精神的ダメージはとてつもなく甚大だった。
「で? 私達これからどうするの? さっきの神様が言ってたのが本当だったら、この異世界はそのうち消えちゃうって事なの? 私達も一緒に死んでしまうって事なの……? ……うわぁぁぁん‼」
駄々をこねた子供の様に泣き崩れたのは浅倉来未会長だった。
……うん。こんな泣き虫がこの若葉高校の生徒会長である。
ついでに俺らの3年B組のクラス委員長でもあったりする。
早く彼女に泣き止んで貰わないと出発の準備とか五月蝿くてろくに出来そうにない。
試しに「どうにかしろよ」とアイサインを西原に送ってみるも、「お前がやれよ」と器用に返事されてしまった。
アホメガネはまだ気絶したままだし、佐藤もまだ電気ショックから回復していない。
……はあ。やっぱり俺が何とかするしか無いのか。
「泣かないでくださいよ会長。この世界が消滅するっていってもまだまだ先の話で、最も速くても五十年後だってクソジジ……いや、カタクトフさんだって言ってたじゃないですか」
彼女の鮮やかなピンク色の髪を優しく掻き撫でる。
彼女が泣いている時はこうすると少しだけ彼女の気が落ち着くんだ。
生徒会副会長として1年間彼女と共に、文化祭や体育祭等の生徒会活動の準備をしていた俺には、散々彼女の泣き虫に翻弄されてきた俺には、彼女との接し方が手に取るように分かる。
……うわー。
他の生徒からの目線が滅茶苦茶痛い。
だから俺は動きたくなかったのに。
「……ぐぅ、でもでも! 五十年後だって私達まだ生きてるかもしれないじゃん! 私、還暦のおばあちゃんになって、日向ぼっこで幸せな気分になってる途中に、世界消滅なんて絶対やだよー‼」
「それ以前に俺らがそこまで生き延びれるかどうかも怪しいですよ。モンスターに殺されたらそれまでですから。ゲームみたいに死んでも生き返れたら良いんですがね……」
……うわーー。
どっかから小声で「リア充滅べ糞が」とか聞こえたんですけどー。
俺達はただの生徒会の会長と副会長の関係でしかないし、当然付き合ってる訳でもないのに。
「如月。良い感じなのを邪魔するのは心苦しいんだが、ちょっとこれを見てくれないか」
「西原? どうしたんだこの本?」
西原がこれ見よがしに俺に見せてきたのは一部の薄っぺらい冊子だった。
サイズはスーパーとかによく置いてある求人冊子みたいな大きさだ。
会長の頭から手を離して冊子を受け取ってみる。
タイトルは……『初心者冒険者のための異世界マニュアル』?
「凄いだろ! この異世界の地図とか戦闘の心得とかがこの冊子に詳しく書いてあるんだぜ! 例えばこの『Q.ゲームみたいに死んでも蘇れるんですか?』って項目を見てみろ!」
どれどれ……
A.モンスターとの戦闘で死んでしまった場合は蘇れる場合があります。死体となった冒険者は霧となって消えてしまいますが、冒険者の本体は霊魂となって天界に一時的に保護されます。蘇らせるには町の教会の神父にお布施を払ってお祈りをして貰うことで、神様の力によって死亡した冒険者を健康体として蘇らせる事ができます。
……なんかドラクエみたいなシステムだな。
ん? まだなんか書いてあるぞ。
……ただし、霊魂となった瞬間から24時間経過以上した場合、冒険者の本体である霊魂が完全に消滅してしまうため、二度と蘇らせる事はできません。なおモンスターとの戦闘以外での死因(自殺、他殺、自然現象等による死亡)については、如何なる理由が有ろうとも絶対に蘇らせる事は出来ません。
……なんか事務的と言うか、機械的と言うか、少なくとも自分勝手でも情には厚そうなあのじいさんが書いた文字とは思えねーな。
もしやカタクトフのやつ、自分がぐうたらお昼寝している間に、神様の仕事を全部部下に丸投げしているのかもしれない。
「なるほど。要するに仲間がモンスターに殺されたらすぐに町の教会に行け! それ以外は現実みたいに死んじまうから自分の命は自分で護れ! ……と言う事か」
「おっ、そう言われると解りやすいな。メモメモっと」
すかさず胸ポケットから取り出した生徒手帳の白紙ページに、シンプルながら達筆な文字を書き加えていく西原。
今すぐ生徒会執行部の書記に採用したいくらい有能だが、俺の一存ではどうにもできないし、そもそも書記には他の人がいるんだ。
残念ながら彼女みたいに有能じゃないけど。
「……で? この便利なガイドブックは何処から持ってきたんだ?」
「ああ。あのじいさんが俺らの教室に出現する前に、転移された人全員分の冊子を職員室に置いてったらしいぜ。それをさっき浅倉から貰った」
へぇー。意外に気がきくじゃねーかあのじいさん。
まあ全ての元凶はクソジジイなんだから、これくらいのアフターフォローで全部チャラにしたと思ったら大間違いだが。
「そうか。さっきまで教室に会長の姿が無かったのって、職員室から冊子を一人で運んでくれていたんですね」
「そうだよ。クラス30人分をぜーんぶ! 私がひとーりで持ってきたんだよ!」
「そりゃお疲れ様です会長。いくら薄っぺらい冊子とはいえ、身長146センチで30部は流石に重かったですよね」
「こらとっしー! 私のコンプレックスを晒さないでよー! うわぁぁぁん‼」
あ、労うつもりが折角元気になった会長をまた泣かせてしまった。
どうやら俺達が異世界へ旅立つにはもう少し時間がかかりそうだ。