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限界の先にある世界(旧名、限界異世界)  作者: 棹中三馬
序章 卒業を目前にして ~last day ordinary~
1/10

プロローグ どうやら会長は夢を見たらしい

2019/08/26 投稿

2019/09/01 更新※本文を加筆しました

限界異世界をお読みいただきありがとうございますヾ(*>∇<*)ノ

プロローグは異世界転移前のストーリーとなっています。


 学校法人若葉(じゃくよう)学園。

 俺の在学している国立高等学校の正式名称だ。



 東京都再開発計画の教育改革の一貫として、近年新たに創立されたばかりの新参校ではあるが、最先端の教育設備、徹底された教育プログラム、生徒一人一人への懇切丁寧な教育サポート、等の点が高く評価されている進学校だ。



 そのため、創立から間もなく若葉学園は都内有数の有名校として全国区にしれわたり、遠方から遙々この学校に通うためだけに上京してくる生徒も少なくない人気校にまで登り詰めた。



 ……さて、暇潰しに母校の自己紹介をしている間に、俺こと如月敏也(きさらぎとしや)は目的地に辿り着いた。



 生徒会室。

 学校生活の充実を図るための活動、文化祭や体育祭等のイベント活動を行う組織、生徒会執行部に与えられた部室だ。



 当然ながらどこぞの学園ものラノベの様に、学校組織を影で操ってる実質的支配者……何て馬鹿げた事は更々なく、どこの学校にもありふれているごくごく普通の生徒会だ。



 そう。こう見えても俺はこの学校の生徒会副会長なのだ。

 と言っても副会長の肩書きは名ばかりで、実際に俺がやっていることは殆ど会長の雑用係である。

 今日も会長に頼まれて、生徒達に配る学校通信「わかば通信」を100部程刷り、職員室から遙々とここまで運んできた所だった。



 それだと言うのにも、無情にも部室のドアは閉められていて入る事はできない。

 一度荷物を何処かに置いてドアを開ける手段もあるが、汚れが付きまくってる床に折角刷ったばかりのわかば通信を置いてわざわざ汚す訳にもいかない。



 因みに他の書記、庶務、会計のメンバー達は、部活やら進学塾やらで多忙な為に、緊急の生徒会会議でも無い限り、滅多にこの部屋の扉を開けることはない。

 故にこの場所はいまや会長の自室となりつつあり、俺は彼女のパシリとして上手いように使われる羽目になっている訳だ。



「会長。ドアを開けて貰えませんか? 両手が塞がって手が使えないんですよ」


「えー。めんどくさーい。足で開ければ良いでしょー」


「いやいや行儀悪いでしょ。と言うか顧問にでもバレたら絶対に俺が吊し上げられますよ」


「大丈夫。その時は会長の一存で守ってあげるから」



 ドアの向こうからスマホのゲームの音がピコピコと聴こえる時点で、そんな事を言われても信用できる訳がなかった。



「……はあ。元々会長がやる筈だったコピーを全部俺に押し付けたんですよね? だったらそれくらいやってくれても良いじゃないですか」


「ははは……、そうだったね。ちょっと待ってて」



 扉の向こうからゲームアプリの電子音がしなくなり、暫くするとスライド式のドアがガラリと開かれた。


 青色ストライプのリボンをつけた紺色ブレザーとチェック柄スカート姿の会長の姿が俺の目に映る。


 因みに男子の制服はスカートがスラックスに、リボンがネクタイになるだけで、デザイン自体に大きな違いはない。


 三年生にも関わらず子供っぽい印象を与える彼女は、満面の笑みで俺を出迎えてくれた。



「お帰りとっしー。一枚一枚が薄いとは言っても100部は流石に重かったでしょう」


「まあ会長よりは遥かに軽いですけどね」


「ちょっとー。女子の前で体重の話するなんて失礼だよ」


「ははは。わかば通信はそこの机に置いておきますね」


「お願いね。……あっ、そうそう。さっき愛理ちゃんから美味しそうなクッキーを貰ったから、ここで一緒にお茶しない? 私が入れてあげるから」



 因みにクッキーの提供元である愛理さんとは、俺らと同じく生徒会のメンバーで会計の綿苗愛理(わたなえあいり)だ。


 生徒会と兼任して普段は調理部の部長を務めているため、たまに余った料理やおかしをここに持ってきてくれる女子力の高い二年の後輩である。



「良いんですか? じゃあお言葉に甘えて」


「じゃあ先に座っといてね」



 仕事を終えた俺は自分の席に腰掛け、会長は立ち上がって部屋の隅に置いてある電気ケトルの方へと向かった。


 既に電気ケトルのお湯は沸いていたので、予め準備をしてくれていたのだろう。

 紅茶の茶葉をポットに入れてケトルのお湯を注ぐと、茶葉の仄かな良い香りが生徒会室中を包み込む。



「へー、ダージリンですか。結構いいの置いてあるんですねここ」


「へー、匂いだけで分かっちゃうんだ! と言ってもこれは学校のじゃなくて、私が家からこっそり持ってきた物だけど、顧問に見つかると怒られちゃうから今日の事は二人だけの秘密ね」



 そう言って会長は悪戯っ子みたいな無邪気な笑みを浮かべ、お盆に乗せたティーカップ二杯とクッキーをテーブルへと次々に並べる。



 ここの顧問はよりによってあのアホメガネだからな。

 学園への授業と関係ない私物の持ち込みは立派な校則違反だから、彼に見つかると俺も会長も説教は免れないだろう。



「了解です。一家揃って紅茶を良く飲む家庭なんで、ほんの少しだけ分かるんです」


「意外だねぇ。……はい、クルミブレンド一丁上がり♪」


「茶葉を一種類入れただけで別にブレンドではないでしょうに」


「細かいことは気にしない気にしない。じゃあ早速頂きまーす」


「では俺も頂きます」



 ダージリンの良い香りと絶妙な湯加減。

 クッキーのしつこすぎない甘味と程よい塩加減。

 会長の紅茶と綿苗さんのクッキーを心置きなく堪能する。

 


「そう言えばさ、最近変な夢を見るんだよね。それもここ一週間くらいずーと同じ夢を見るの」


「夢ですか……。怖い夢でも観たんですか?」


「ううん。別に怖くはなかった。と言うか楽しい夢だったよ。私がおおっきなとりさんになって、とっしーを私の背中に乗せて一緒に空をお散歩してる夢だった」



 と言うか何故会長の夢に俺が出てるんですか。

 まあ今の生徒会が発足してからずっと、俺は会長の雑用をしてたからなぁ。

 無意識に俺が夢に出てきても可笑しくはないのか。



「へえ。会長はメルヘンチックですね。会長が怪鳥になる夢をみるなんて」


「……あのね、いくらなんでも怪鳥はやめてよ。怪鳥は全然メルヘンチックじゃあないよ」


「でも語呂は良いですよ?」


「……まあ、確かに座布団一枚はあげたくなるけどさ」



 他愛ない会話を繰り広げるうちに、紅茶もクッキーもあっという間に食べ終わってしまった。

 本当に楽しい時間はあっという間に終わる物だよな。



「ふぅ、とても美味しかったです会長。後片付けは俺がやっておきます」


「じゃあお願いしちゃおうかな。紅茶の入れ方だけには自信があるんだよね。昔おばあちゃんにしっかり教え込まれたから」



 部室の隅に置かれてある小さいシンクの蛇口を捻り、2組のティーカップセットを洗いながら俺は言う。



「でも、どうせなら料理もこの紅茶くらいに上手くなってくれたら、尚更良いんですけどね。この前の調理実習で手打ち蕎麦を作った時は、会長のやつまるでバブルスライムみたいにベチャベチャしてましたし」


「うっ……、うるさいうるさいうるさい! 料理は大の苦手なんだから仕方ないでしょ!」



 図書室に置いてあったあるラノベのヒロインみたいな怒り方だ、会長あんまり本を読まないイメージだけどラノベとか読むのかな……、とかどうでも良いことを考えながら、俺はティーカップセットをタオルで丁寧に拭き取っていた。



 今や彼女との生徒会室での他愛ないやり取りは最早毎日の日課になりつつある。

 だけどこの生活もいつまでも続く訳もない。

 だって今月は2月。

 三年生が若葉学園を卒業するまでもう一ヶ月をきっているのだから。



 俺が副会長でいられるのも、会長が会長でいられるのも残り後僅かなのだ。

ここまで読んで頂きありがとうございました!

一つは若葉学園の世界観をもっと知ってほしかったと言うのもあるし、メインヒロインが遅れて登場する変わったシナリオなので、この話で「限界異世界」のメインヒロインは会長って一目で分かって貰える様にしました。

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