僕と彼女と眠る人々Ⅲ
ひとまず優太くんを容器から出した時と同じように、容器の側へ寄る。違和感は後で片付けよう。今はどうしてここへ連れられてきている人がいるのかを知りたい。
「どうしていけすかねえ奴を助けなきゃいけねェんだ」
「藍澤くん!今はそうも言ってられないよ。弟くん、助けたいし。」
「…お前がいなきゃ俺はこんな奴ほっぽり出して優太を…」
「全部聞こえてるんですけどー?ボクだって好きで捕まったわけじゃないし!」
「はは、ごめんねーもうすぐで取れる、ハズだから…」
話を聞きつつ、藍澤くんと両サイドから容器の端を持ち上げようとするが、先ほどのように上手くいかない。
「…取れないね。」
「なんかさっきより頑丈に取り付けられてねえか?」
「なにそれー?どういうこと、」
「うん、確かにさっきはなかったネジが上の管と留めてあるね?」
不思議だと思いながら後ろの壁側へも行ってみる。
「…?!何だこれ…?」
何重にも張り巡らされた管が容器の後ろから伸びている。それが床や天井、壁へと伸びて蔦のように長い。まるで心臓の周りの血管みたいに細い管と太い管が入り組んでいるような。弟くんのを含めて周りの容器はこんな風になっていなかった。藍澤くんと視線を交わすと彼も言葉にならない気持ち悪さを感じているようだった。
「なにー?ボク後ろの方はこの壁透けてないから見えないんだけど」
「なんかね、スゴいことになってるよ」
「それじゃわかんないよー!はっきり言ってよ、」
「う、うーん…」
なんて伝えよう。女の子だし、集合体が苦手な人もいるって何かのニュースでやってたっけ。
「その容器、心臓みたいでしょう」
凛と涼やかな声が聞こえる。久しぶりに聞いた声に安心感とともにため息が出た。
「希世!!」
僕たちが入ってきた方向とは別のほうから希世が近づいてくる。
「いつまでたっても来ないから先回りして待っていたのに。この子は?」
金色の高く結わえた髪がさらりと揺れる。まひるさんの方をしばらく見つめると、少し考え込むように視線を泳がせた。
「俺たちが通ってきた道が最短じゃねえのかよ」
「誰も最短だなんて言ってないわ。誰にも会わないルートを案内したのよ」
言葉をしばらく発さなかった藍澤くんが希世には話しかけた。ほっ、よかった。ん?誰にも会わないルート?
「ボクはまひる。ここに好きで捕まっているわけじゃないからね!」
「当り前よ、ここは好きで来るようなところじゃないもの。藍澤くんだったかしら、外せないようになっているのよ。このキーがなきゃ、」
希世は僕の腕の輪っかに視線を移す。僕はまじまじと手首の輪っかを見るけど、さっきみたいな呪文が利くとは思わないし、…そうだ!合言葉!!
「ねぇ希世、さっきここへ入るときに合言葉とか言われて焦ったんだけど!」
「そうだぞ!航大が盛大に間違えて行く術を失っちまうところだったんだ!」
ちょっとその言い方僕少し傷つくよー?藍澤くん。確かに変な自信で乗り越えようと決断したのは僕だけれどもね!もう少しあるでしょう?オブラートにさ、ねえ?
「教えてないもの、焦って当然よ。よく間違えなかったわね」
そこで感心されてもなー…。
「…ねえボクのこと忘れてない?」
「あ、ごめん、まひるさん。ねえこの手首の輪っかって何なの?ネコ型ロボットでも出てこなかったよこんなキー」
「それはここの施設を管理するマスターキーのコピーよ」
「えぇ!!?」
「だから変な侵入者や招かれざる者たちがここの施設へ入ってしまったときに知らせてくれるの。あなたが目覚めたときに鳴って光っていたのは自然災害にも通じるから」
「なんだァそりゃァ」
一番目の疑問が頭上に浮かぶ。…初めてここへ来るはずの僕がなぜそこのマスターキーのコピーを持っているのか?
二番目の疑問。…希世はなぜそのことを知っているのか。
三番目の疑問。先ほど起きた瓦礫を作ってしまうほどの地震を僕が知らないのはなぜか。
さらに希世は言葉をつづけているが、ますます疑問は増えるばかり。
「希世、君は何者なんだ?」
少しの間を置いて、希世はここで初めて微かな笑みを零した。
「…あなたたちと一緒よ、《生存者》。」
僕はまた意識がガクリと落ちた。考えすぎたり驚いてしまうと出る僕の悪い癖だ。