僕と彼女と生存者Ⅱ
「なんだア?お前ら、」
荒々しくも響く掠れたその声は辺りの空気を震わせた。僕は足の震えがとまらなくてその場から動き出すことが出来ない。そんな中、希世は僕と話すときのように静かに聞いた。
「私たち以外の生存者は初めてよ。いつからここに?」
「ハッ、何でてめェにそんなこと言わなきゃなんねェんだよ」
僕だって初めて会った時の人に警戒が無かった訳ではない。それでもどこか安心したんだ。自分以外がいるこの空間に普段とは違う心が落ち着く感覚。その気持ちは目の前にいる真っ赤な男が見事にぶち壊してきた。
「大きな音がしたから、システムに異常が起きたのかと思って来てみたの。随分物を荒らしてくれたようね。私は希世、こちらは…」
「勝手に名乗ってんじゃねェよ、俺は自分の目的を果たすために来たんだ。関係ねェお前らに何も話す義理もねェ。じゃあな」
「せ、せっかく!!会ったんだ!!から話して、くれないかな??」
情けない。声が震えまくっているし、足もおぼつかない。欠片ほどの勇気を振り絞って僕は一歩彼の前へ踏み出した。
「だから何で、……お前!あの時の!?」
「え??」
突然胸倉をつかまれて前後に揺らされる。視界がぐわんぐわんと揺れて、あと数分で胃の中のもの(と言ってもさっき飲み干した水分しかないんだけど)を吐き出しそうになって胸倉のいかつい手を力なく放そうとする、がそんな程度じゃ全く意味を成さない。
「何でてめェもここにいるんだよ!?…選ばれたのか?」
「??ごめん、全く状況が分からないんだけど…希世、どういうこと?」
「顔見知り、のようね。あなたと」
「見覚えすらないんだけど…」
「…覚えてなくても無理はねェ。でもおかげで弟は命を救われたんだ。感謝してる」
…弟?顔見知りだったらこんな特徴的な髪色を忘れるわけないと思うんだけどなぁ…真っ赤な髪の男は胸倉を掴んでいた手を離すと、大きな体をこちらへ向けて深く頭を下げた。突然の態度の変わりように僕はあたふたしてしまう。
「あちらのテーブルへ移動しましょう。話す気になったようだし」
「おい、俺は…」
「喉痛めてるのは分かってるのよ、そのせいで声が掠れているのも」
そのせいだったのか、と僕は一人で納得した。
不本意だと眉間に皺を寄せながら、髪が真っ赤な男は『藍澤隆大』と名乗り、僕たちは先ほど見かけたテーブルがある広場へ向かった。