彼女と僕と始まりの場所Ⅱ
「久坂、お前はその気配を消す癖をやめないか」
「室長…私はいつも意識して気配を消しているわけではないんですが」
まるで困っていない顔をしながら矛盾した言葉を発する久坂はやはり不気味だ。
「何かをしかねないあなたの人となりが問題なんじゃないの?」
その様子に希世がちくりと一言話すとより一層冷たい空気感となり、滑り落ちかけた椅子から何とか戻ると、東島は改めて希世に視線を投げかけた。このままじゃ論争が始まりそうで何とかしたかったが勇気をもってしても、今この3人の中では自分が声を発するにはやや心もとない。
「私のまとめたレポートに何か、」
ふと久坂が壁のスクリーンに映された内容に気づくと、十四郎に向かって首をやや傾げた。
「本題に戻るわね。母が巻き込まれた災害についてのデータが見当たらないの。何か知っているかしら」
少し考えた素振りを見せながら久坂は、自身の左胸ポケットに入っていた小さな液晶端末を取り出した。そこには研究室の資料の貸し借り記録が入ったデータベースを閲覧できる端末だった。それを確認してみると、ここ最近の記録がすっぽり抜けているようだ。
「ここしばらく大学へ見学に来ている学生が多いのですが、説明会を開いた日に鞄を教室に置き忘れた子がいたんですよ。」
何を話しだしたかと思えば、その学生が何か気になるというのだ。
「私が話した内容に質問のメモをしていたようで、その書かれたメモがわざと見えるように鞄から出ているように見えました。…その時はただ研究に対して意欲的な子だと思ったんですが」
「その子がどうかしたの」
「東島くん、何か心当たりはありませんか」
「えぇ?!?」
まさかの自分に矛先が向いたので落ちかけていた椅子はすでに役割を成していなかった。
ガタガタッと全力で滑り落ちてしまった。
尻もちをついてしまった東島に希世は背中に手を掛けながら起き上がる手助けした。だだ勢いよく床へへたり込んでしまったためなかなか立ちあがるまでにならない。
「大丈夫?ねぇ東島君に何、言いがかり?」
「動揺なのか天然の反応かますます興味深いですね…まあその時の記憶で正しければ、質問メモの書かれた用紙は配布したものではなく、東島くんがご自分で持ってきたものでしたがそちらへの注意力を引かせるものなのだったかもしれませんね」
「今のところ詳細を君に確認していいものなのか分からないが、疑いがあったままでは気分を悪くするだろう。久坂、急に東島君を巻き込むんじゃない」
あくまで冷静な十四郎に久坂は一度首を横に振ると、改めて東島に投げかけた。
「私が知る限り、初めましてで間違ってはいないだろう。改めて記憶をたどる必要がありそうだな…もう一度臨床試験に参加してみないか」
曖昧な記憶を正しく辿るためには早道なのかもしれない。
再び、あの仮想空間へ足を踏み入れることになるとは、東島自身思ってもみなかった。正直怖さと不安の方が勝っている気もするが、分からないことへの探求心が強いのは否めなかった。
「分かりました、正直久坂さんが僕を疑っているのは分からないんですが…記憶がはっきりしない今よりは確実に前に進めると思うので」
「…過酷な記憶かもしれないわ、本当に大丈夫なの…?」
希世が深刻な顔を浮かべながら支えてくれている背にあてた手をさすってくれる。
「怖いのも本当だけどね、このモヤモヤが何なのか知りたいんだ」
仮想空間で起きた事実は、澄み渡る空へ疑問を浮かばせた。ただその真実は、今の彼らでははかり知ることが出来なかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。作者の小鳥遊です。
一度ここで『澄み渡る空に僕と彼女が目指すもの』ー邂逅篇ーが
終了となります。
閲覧数・ランキングが2025年6月にトップ20以内に入ったこと
とても嬉しく思います。
続きとして7月以内に『澄み渡る空に僕と彼女が目指すもの』ー真実篇ー
を連載していきますので、ぜひそちらも楽しんで頂けますと幸いです。
2025.7.2 了。 小鳥遊箕生




