彼女と僕と白い雲Ⅲ
「久しぶり、航大くん、希世さん」
数年ぶりに再会した優太は細身でありながら身長が伸びていた。大学にほど近いファミレスで希世と東島、そして藍澤兄弟と臨床試験の事について話すことになった。本来では学部が違ければ、棟も異なるため会える回数は少ないのだが、気になった試験でのことについて時間を合わせて話す場を設けることにした。
「僕が希世さんの試験に参加したかどうか?それってなにか問題あったのかな」
「あの日何か一般向けの講義なんてあったかしら。入学前のオープンキャンパス以外で大学に行く用事なんて、と思ったのだけれど」
変に回りくどく聞くことはしたくなかった。その方が優太にとっても答えを出しやすい上、気になる点についての応答が早くなる気がした希世は少し眼差しをファミレスの外へチラリと向けた。
「呼ばれたんです、室長に」
「父さんに…?」
希世のいる研究室は希世の父、齋田十四郎が室長を務めている。普段は講義などで忙しいが希世が取り組んでいる試験やデータ解析の時には顔を出して何かと声を掛けてくれるみたいだ。希世が何度目かの”助言”に辟易しているのだと他の研究員に東島は聞いたことがあった。
「もともと僕が災害に関して自然方面から学びたいなって思った時に、希世さんのいる研究室を知ったんです。オープンキャンパスも来たんですけどその時に齋田室長に声を掛けられて…」
「何で俺に何も言わねえんだろうなって…そういうことだったんだなァ。伯父さんに話してんならいいと思ってたけどよォ」
「優太くんのこと、何で室長は知っていたのかな」
東島はふと疑問を口にする。藍澤兄が家族の事について誰かに話していたとしても、学部の違う学生の情報なんて気にしてみるものなのだろうか。
「そこは僕もよく…”この日に自然災害に関する臨床試験をやるから都合が合えば来てほしい”と言われたので、伯父さんに連れてきてもらったんです」
優太がテーブルに置いてあるメニューを開きながら一度希世の方を見ると、続けて兄を見てこの件を話さなかったことに罪悪感のような困り顔を向けた。
「父さんが何を考えているのか分かったことの方が少ないわ。昔からそう、」
「希世のお父さんは少し気難しい所もあるけれど、希世が言うほど悪い人ではないと思うけどね」と思いながらも東島は言えないでいた。100%以上の文句も込めた反論が来ることが分かっているからだ。
「まァ腹が減っては何とやらだ。何にする?」
ファミレス自体になかなか来たことのない藍澤兄弟は心なしかきらきらとした目でメニューを開き、美味しそうな写真を眺めている。そんなかわいい二人を前に少しほっとした気持ちで希世もメニューを開きだした。
端末から注文するシステムが世の中に普及し始めてしばらく経つが、ここのファミレスはその端末が故障していることが多く、今回もそうだった。時折店員さんが見回っている時を狙って注文しようと声を掛けると奥のカウンターから小柄な影がこちらへ駆けてきた。。
「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
「・・・」
驚いた。臨床試験の記憶があまり定かでない。そのことは自分でもよく分かっている東島にとって確実かどうか不安が無いといえば噓になる、がこれは間違いなく確信の無言だった。
「先日は試験に協力ありがとうございました。小日向さん」
「希世さん知り合いだったんですか…?」
「小日向さんは研究室のOGなのよ。人員が足りない時にお手伝いをお願いするときもあるの」
確か試験の終盤の方で施設で会って一緒に逃げようとした小日向まひる。
「わぁ来てくれたんだね希世ちん!こちらこそ~久しぶりに興味のある経験させてくれてありがとうね!」
小柄なところや明るい印象は変わらず、年齢が上なのが不思議なほど幼い顔立ちもそのままだった。




