彼女と僕と白い雲Ⅱ
希世【大学3年生】
・防災に関しての研究を行い、身内が受けた被害が再び起きた時に対応できるデータを取ろうと
研究をし続けている。藍澤と同級だが研究をするために1年休学したのち復学している。
東島航大【大学2年生】
・希世の行った臨床試験に参加した学生の一人。希世が試験の中に出てきた少女と似ているため
現実の希世との違いに戸惑いながらも惹かれている。試験中の記憶がほぼない。
藍澤隆大【大学院生】
・弟が母親と同じ原因不明の呼吸器障害を抱えていて治療に役立つ知識を日々学習し取り入れている。引き取ってくれた母親の兄(伯父さん)には素直になれないが心から感謝している。
東島とカフェで話してからまた数日過ぎたころ、研究室で希世は資料と睨み合っていた。臨床試験を経てから何か得られたものと言えば机に広げている十数枚の資料と打ち込まれたパソコンへの文字列にまとめられているのだが、やはり納得できない部分は見直しても見当たらない。
作っている技術で叶えられる防災への取り組みの中で、自身の幼少期に合わせた設定部分を見直していた時だった。
ガララ…と勢いよく研究室の扉が開けられた。
「よォ!邪魔するぜェ」
ド派手な赤髪に特徴的な話し方の彼は、しばらく見ていなかった藍澤だった。
「もう少し静かに開けられないのかしら、藍澤くん」
「わりィな、急いでたもんで勢いついちまった」
いつもの事ながら気のいい彼は希世が遠慮なく話すことのできる同級である。気の置けない仲間がいるのは希世にとって貴重な存在だった。
「なに急ぎの用事って」
「あァ、オレの弟がこの大学に入るんだ。多分顔合わせるのはゼミとか被らねェかぎり無いと思うが仲良くしてやってくれな」
「弟思いのあなたがそれを言うためにわざわざ私のところに来るのは珍しくないけれど…もしかして何か気になることでもあるの?」
「さすが察しは相変わらずいいんだなァ…この間の俺が参加したお前の研究臨床試験なんだけどよォ」
「えぇ」
「俺の弟…参加したりしてねえよなァ」
「え?あなたの弟?」
臨床試験データの中に藍澤が付く名字の、というより大学内でしか募集はしていないはずだ。参加しているわけがないと思いつつ、一応パソコンに打ち込まれている名簿を見てみることにした。
「その日がオープンキャンパスだったら可能性はあるかしら」
「そんな時期じゃねェだろうが、臨時に開いた一般向けの講義参加者ならあり得るかもしれねェ」
「それもそうね…あ、藍澤くん。案外勘がいいのかもね」
「なに?」
「いたわ、フルネームではない参加者が一人」
「名前はァ?」
「……ゆうた、平仮名でしか記入がなかったみたい」
どうしてフルネームで確認をしなかったのか、疑問しか浮かばないが、藍澤は確認不足した担当が誰だったか調べるよりも、弟が参加した意味を知りたいようだった。
「気になるわね」
「どうしたって持病があるから一人で来られる距離でもねェ、誰かに連れてこられたとしか…」
「教授やゼミ顧問の先生ならあり得るかもしれないわ」
「何で優太がお前の研究に…?防災に関しては確かに気にしてた素振りはあったがなァ」
「本人に聞いてみたの?」
「何も言わねェんだ、大学選んだ時もおふくろの兄貴(伯父さん)には話してたみたいだが」
「そう、」
藍澤の家族については詳しく知らないものの、母親が数年前に亡くなり父親とは離縁状態。母親の兄である親戚の家族にお世話になっていた。大学を受験するにあたって一人暮らしをするようになったと何かの交流会で藍澤と席が近くなった時に聞いた。その後は院に進学し、医学系の専門知識を増やす分野へと進んでいると。医学に関しては弟の持病が遺伝的なものでその要因を調べるもののようだったが。
「航大からお前が悩んでるって聞いたもんだからよ、もしかして弟がお前に何か伝えて…」
「優太くんが私に何か伝えたいなら参加なんて回りくどいことやるかしら?」
「…試験の中身に何かヒントが?」
「どちらにしても参加してるのが確定しない限りなんとも言えないわね。私の試験に参加することで何かの情報を得たならまだしも、何も収穫が得られないのなら意義なんてないだろうし」
「何でもはっきり言うんだなァそこも相変わらずってか」
「私には研究の中身から優太くんの何かを読み解くのは正直難しいわ。何か知りたいのならあなたにも再び試験に協力してもらうことになるわよ」
「分かった。しばらくこの研究室と往復すりゃァ分かることなのか今の段階じゃ分からねェが…どうか協力頼む」
そうして、藍澤も東島と希世と共に試験の中に隠された意図を汲み取る”チーム”を結成するのだった。




