僕と彼女と冷たい器Ⅳ
今までに何度か失った意識が戻るまでにどれくらいかかったのか。数日、数時間で済んだのか、時間の経過が曖昧になってきて、今が朝なのか夕方か、もしかしたら深夜になっているのか。そんな気持ちがもやもやしたまま現実、もはや夢なのか。
透明な異空間に僕は立っていた。
「ここは…」
まるで水の中にいるようだ。耳がくぐもった感じがしてはっきりと周りの音を拾えない。
「あら、どうしたのこんな所で」
凛とした女性の声が聞こえる。今までこもっていた筈の音が急にクリアになった。
「すみません、僕迷ってしまったみたいで…ここどこだか分かりますか…?」
「ふふ、なあにそれ。ここは私の住んでいるところよ」
おかしそうに笑うその女性はどことなく希世に似ている。何故か直感的にそう思えた。
「えと、僕は地上から来たんですが…」
金髪の輝きや長さは違うけど、さらりと舞う肩までの長さの髪が希世の高く結わえたポニーテールに似ている。白く長いワンピースを彼女のすらりとした長い手足がふわりと纏っている。
「あらやっぱり貴方”外”から来たのねぇ」
のんびりと話すのは似ていないけど、こちらを安心させてくれるような声の優しいトーン。
足元が地面に着地できていないまま、しばらく周りを見てみると、希世に似たその人は僕の腕の輪っかを指さした。
「それがここへの入り口なのよ。久しぶりに人と話せて嬉しかったわ」
「この腕輪が入口…?…これは僕の腕からずっと離れなくて…」
「あらそうなの。じゃあ貴方は選ばれたのね希世に」
「希世を知っているんですか?!」
あまりの衝撃にふわりとした足元がぐらついた。
「ふふ、知っているも何もあの子の母親だもの。まあ今は会えなくなってしまっているけれど」
どういうことなんだろう。
ここの透明な空間は死後の世界?それにしては生きているときの感覚がそのまま何も変わってないように感じる。
「ここへの入り口ならここから出ていくための鍵もこれになるんですか?」
「ふふ、それは使ってみてからのお楽しみよ~希世は元気にしているかしら?」
「すごく助けてもらっています…外の瓦礫だらけの中、僕に話しかけてきてくれて…」
「優しいあの子らしいわね。良かった」
希世のお母さん、と名乗った女性はふわりとよく笑う。
十四郎さんがやろうとしていることに何か関係しているんだろうか?
「あの、聞きたいことがありすぎてどれから聞けばいいのか分からないんですが…」
「少し休憩してもいいかしら?また来た時に話すわ」
「っ!!!」
まばゆい光を突然発せられ、目の前が真っ白になった。
「…――くん!!航大君!!」
「…あれ…ここは…」
「ったくよォー何度も倒れんじゃねェよ…心臓に悪いっつーの」
「希世…、隆大くん…?」
白く高い天井が見える。それに希世と隆大くんも。
「庭に来てそのあと…確か腕の輪っかを翳したはず…痛…」
ズキリと後頭部から右耳側にかけてが鈍く痛む。
「そこで急に倒れられたんですよ。仕方なく庭のベンチへ藍澤くんが運んだんです…何かあったんですか?」
久坂さんがやや距離を取ったところで腕組みをしながらこちらを気にしている。
希世のお母さんに会ったのは僕だけだったのか、じゃあこの腕輪は本当にキーも兼ねているんだ。
少しずつ分かってきた。




