僕と彼女と衝突Ⅲ
「希世…」
僕は希世の眼差しが初めに会った時よりもかなり不安げに揺れていることに酷く動揺した。
「航大君ごめんなさい、全てを話せずに巻き込んだりして」
「ううん、それよりもまだ分からない事があるんだ」
「俺もだ、」
「ボクも!」
不思議と三人は同じ気持ちだったみたいだ。
「要はこの親父さんをぶっとばしゃァ良いんだよなァ?」
「隆大くん手とか怪我しない程度にね!」
「藍澤やっちゃえー!!」
ハッとした希世は慌てて僕の腕を掴んだ。
「あの航大君、何を…」
「僕は目が覚めてから何度も希世に助けてもらった。今度は僕が希世の力になりたい、ただそれだけだよ」
どんなことにも興味がなかった僕が、荒れ果てた街で初めて会った希世に自然と信頼を寄せたのは偶然ではなかったみたいだ。
こういう時にこそ、人には口が付いている。
「先ほどから何なんだ、私の娘に何を吹き込んだ」
「あ、希世のお父さん…は長いので名前聞いてもいいですか?」
「何故私が名乗らねばならんのか」
「十四郎よ」
「希世!」
ぼそりと希世が教えてくれた。娘に叱責の言葉を投げつけようとして十四郎さんは長椅子から勢いよく立ち上がる。
「十四郎さん!」
僕はそれを踏ん張って座り直させた。
「放せ、私が話すことはもうない。さっさと出ていってくれたまえ」
組んでいた腕であしらうように手のひらを空へ払う素振りをした。
この人は他人と話すのが苦手なのか、僕も昔からそうだった。
(…昔っていつからだ?)
ふと浮かんだ疑問を胸に浮かべながら、再び立ち上がろうとする十四郎さんの肩を掴んで座らせた。
「僕は希世に命を助けられました!目の前が瓦礫だらけでこれからどうしていいか分からない時、手を取ってくれたのが希世でした」
「それがなんだ、」
「僕は希世が悩んでるのに、何もしない家族であるあなたが許せません!」
「言っただろう、こいつは私の研究に役立ちさえすればあとはどうだっていい」
ついに黙っていた隆大くんが、僕が踏ん張って座らせていた十四郎さんの胸倉を掴んで揺さぶり投げ飛ばした。
「そんな風に言うんじゃねェよ!それでも親か!?てめェは!!」
「何をする!!」
「うるせェ!」
隆大くんの太い腕にしがみ付いてそれ以上十四郎さんを殴らせないように引き留める。ほとんど叶わない腕力の差ではどうしようもない。固く掴んだ手の爪が思わず食い込むぐらい、力が入ってしまう。
「隆大君…」
僕の後ろで希世が俯いて、ぎゅっと握りしめた拳を胸のあたりで祈るように重ねた。
「俺の親父は働きすぎて過労で倒れた!優太が入院してる時もほとんど顔も合わせてねェのにいつも心配してくれてた。かろうじて生きてた間もほとんど顔もやつれちまって記憶もどんどん忘れちまってる…それでも親父は死ぬ間際まで俺たちの事考えてくれてたんだ。」
隆大くんは握りしめてた拳を振り上げたまま十四郎さんに思いをぶつける。
「すべての家族がそうだとは言い切れねェし、いろんな事情があるのは百も承知だ。だがな、自分の子供に言っていいことと悪いことがあるくらいてめェ自身が教えなくて誰が教えんだよ!!」
隆大くんの横から引き留めた腕をそのままに、僕も十四郎さんに投げかけた。
「僕はただの通りすがりの巻き込まれた男で、細かく言えば何の特技もないつまんないやつで隆大くんみたいに大きくてカッコいいわけでも、まひるさんみたいに眼鏡が似合って可愛いわけでもない…」
「航大くんそれ自虐にしかなってない!」
途中でまひるさんが軌道修正の突っ込みを入れる。ハッとして僕は傾きかけていた思考をリセットさせた。
「そんな僕を希世は助けてくれたんですよ、なぜか分かりますか?」
まっすぐ十四郎さんを見つめると居心地悪そうに視線を外した。
「…」
十四郎さんは無言なまま希世のいる方を見て、首を傾げると横に何度か首を振った。
「誰でも力になってくれる人を見つけたかった…十四郎さん、あなたが研究を止めてくれるように」
「………」
十四郎さんは力なく希世を見つめた。
その視線から逃げることなく、僕がずっと頼りにしてきた希世の瞳にゆるぎない力が宿った。




