僕と彼女と衝突Ⅱ
「希世、ようやく顔を見せたと思ったら…」
吐き出したため息で威圧感で辺りの空気が震えているのが分かる。
「お父さん、話がしたいの。」
「は、今更何の話をするんだ。勝手に出て行ったくせに、そんな者たち連れてきて何になる?」
扉から部屋へ入ってすぐに希世のお父さんが長椅子へ座っていた。
雑然と書類やファイルがいくつも積まれた棚が壁すべてにひしめき合っている。
「は、初めまして。希世…さんのお父さん」
「君にお父さんと呼ばれるいわれはない、」
「人の話を聞こうとしないからよ、彼は東島航大君。その後ろにいる眼鏡を掛けた彼女がまひるさん、背が高い彼が藍澤隆大君。そのすぐ後ろに隠れているのが弟の優太くん」
「誰が紹介しろと言った?」
希世が昨日僕たちに話してくれたあくまでも推測の域を出ない話と前置きした、希世のお父さんがわざと設備を破壊して災害を起こす。巻き込まれた人の反応や感情、体感を小さなチップに記憶させ人体に埋め込み、埋め込まれた人は廃人になるか、狂気にまみれた人型の悪魔的存在になるというもの。
今、目の前にいるこの人がそんな恐ろしい実験をしているなんて未だに信じられない。
まだ推測の域と言っても。まひるさんや優太くんがここへ連れられてきたのがその実験体にされるということなら断固としてそんな実験は止めさせなくちゃならない。
一言発するごとに今まで感じてこなかったプレッシャーが圧し掛かってきた。
毅然としているけど希世の声が緊張で強張っているのが鈍感な僕でも分かる。
「久坂がお前を連れ戻しに行ったきり連絡をやっと寄越してきたかと思えば…」
「久坂はもうここに戻って来ないわ」
「なに?」
「お父さんの言いなりになってちゃいけないってね。」
冷静なふりして言葉を紡ぐ希世の額から汗が流れる。
「あいつが久坂の息子だから情けで私のそばに居させてやったんだ。感謝されこそすれ、恩を仇で返すつもりか」
「お父さんがやろうとしていることは、誰も望んではいないのよ。まして人を攫ってまでやることじゃないわ」
「うるさい、お前の母親がこの世から去ったのはあの日の災害のせいだ。私は」
「あの!!!」
激しいやり取りにいたたまれなくなった僕は、思わず大声で話しかけてしまった。
「僕が言うのもおこがましいんですが!もっと平和的に話しませんか!?」
「航大、今は口を挟めるとこじゃねェぞ」
隆大くんが、しまった!という顔をしている僕に冷静に突っ込む。
「だって!希世がこんなに話しかけることに緊張してるの見てられないよ!」
「そうだよ!ボクももう希世ちんが泣くの見たくない!」
「まひるさん!希世泣いたの!?」
「昨日二人で寝る前に話したとき、涙は流れなかったけどボクには泣いてるように見えたよ…」
元気なまひるさんにしては珍しく小声になっていく。
心なしか今まひるさんの目が潤んでいるように見える。
「まひるさんそれは今言わないでください…」
希世がたじたじというようにへたり込みそうになるのを隆大くんが片腕で支えた。
「よっと、…希世の親父さん。アンタがやろうとしてることが俺たちを攫って成し遂げたとしても、アンタの娘が嫌がってるのにホントに実行できるのか?」
「私は私の意志で全てを行なってきた。誰になんと言われようが構わない。誰にも邪魔はさせんよ…久坂の父親はよくやってくれた。成し遂げられずに死んだがな。最後まで完成させてから死ねばいいものを…」
「酷い…」
優太くんが隆大君の後ろからぽそりと呟いた。
「何が酷い。私はすべてをそこにつぎ込んできたんだ。時間、労力のすべてを。他人のことなどどうなろうが構いはしないのだ」
「お父さんは他人の命を軽く見すぎてる!自分の目的のためなら何しても良いわけないのよ」
「お前はただ私の目的のために生きているに過ぎない。黙って従っていろ」
「ふざけないで!!私はお父さんの奴隷じゃない!」
切実な希世の叫びが部屋に響き渡った。




