僕と彼女と衝突Ⅰ
久坂さんが喫茶店を後にしてから僕たちは希世の話を聞くために置きなおした半壊の家具たちをどうにか避けて座り場所を確保した。
「東島君たち、水しかないけれど飲む?」
「そういえば何も口にしてなかったもんね!ボク飲みたい!」
まひるさんと優太くんはすっかり同じ年代のように話せるみたいだ。
打ち解ける速さとコミュニケーション能力が高いのが羨ましい。
希世と初めて会った時を思い出しながら、僕もカウンターの奥へ人数分を持つのを手伝いへ行く。
「ここにあったんだ、水」
カウンターをくぐると、五円玉サイズのボタンがあった扉の手前の棚に木の箱が置いてある。
「そう、あの時はこちらにあるのを切らしてしまっていて」
「怖かったなぁいきなり床が崩れるし希世が居なくなるし」
「それは君が入口のボタンを押すからいけないのよ」
「それもそうなんだけど…ははッ」
「笑ってどうしたの?」
あの時は不安の方が強くて、これからどうすればいいのか分からなかった。
正直今も明日もどうなるか分からないところではあるけど、
「こんなに同じ境遇の子たちと会えると思ってなかったなぁって」
「…そうね、私が君をチームに誘ったのはね。ただ行き当たりばったりな訳ではないの」
「何か理由が?」
「えぇ、」
人数分の水を持ちながらみんなの元へ向かう。
「ようやく分かっていることの推測だから当たっている確証は残念ながら無い。それを念頭において話を聞いてもらいたいの」
「分かった。優太は疲れたよな?寝てても良いんだぞ」
隆大くんは胡坐をかきながらその上に座らせている優太くんの頭を撫でつつ言う。
「ううん、ぼくも聞きたい。難しいこと分からないけど、ぼくが誰に連れてこられたのか気になるし!」
「そうだな、でももし少しでも嫌な気分になったら無理しねェでちゃんと言えよォ?」
「うん!お兄ちゃん」
微笑ましい兄弟にほっこりしつつ皆に水を渡した。
「さて、順番を違えないように話すわね」
一口水を飲んでから希世は僕たちに希世なりの考えを話してくれた。
「それってかなり信頼していいのか迷うね…」
僕は思わず嘆息した。確かな自信がないとこのまま会う希世のお父さんにどう話を切り出すのか、道筋を立てられない。
「まさかじゃん!自分のお父さん疑うって希世ちゃんしんどさマックスじゃない?大丈夫?」
「ありがとうまひるさん。でも家族のことをみんなに話すのなんてしたことないから」
希世は寂しそうに微笑んだ。
少しでも希世の気持ちに寄り添えるようにとまひるさんは希世と一緒に毛布をくるまりながらこそこそと話をしている。
少ない毛布を男三人で分けるにはサイズが小さい。優太くんをくるませて寝かせることに同意した僕は、明日に備えて目を閉じる。
「航大、」
隆大くんがすでに眠っている優太くんに添い寝しながらその隣に座る僕を呼んだ。
「なに?」
「明日は優太を連れて行くのは止めようと思ってる」
「そうだね、でも優太くんは行きたがりそうだ」
「あァ、だからお前に頼みたい。優太の手を離さないでいてくれェ」
「それは隆大くんが握っておかないとダメなんじゃ…」
「俺の手じゃ優太の小さい手をケガさせちまうんだ。力加減がヘタクソでなァ」
さっきはあんなに優しく頭を撫でていたのに。
弟がいない僕には分からないけど、隆大くんは優しすぎるのかもしれない。
「僕じゃだめだよ」
「あ?」
「僕じゃ優太くんの安心を保証できないもの。お兄ちゃんが隆大くんだから、今もこうして慕ってくれているんじゃないかな」
「でもなァ、俺は…」
「今だから言うけど、初めて会った時の隆大くんめちゃめちゃ怖かった」
「ああ?」
「でも今は違うよ。お兄ちゃんていいなって思う」
「なんだよそりゃァ」
眠気の勝ったような声音で呟くと、隆大くんは眠りに入った。
どう話せば希世のお父さんと上手くやり取りができるんだろう。
なかなか目を閉じても明確な答えがないまま、その時が来てしまった。
「入りたまえ」
威圧感しかないその声とイメージしていた顔がマッチしている。
研究に身も心もすべて投じた彼は応接室の、長椅子へ座りながら僕たちを出迎えた。




