僕と彼女と疑惑の瞳Ⅱ
ここへ来るのは初めてになる。
ただいつしか監視カメラの向こうから、地下への入り口を何度か出入りする懐かしい体躯の男を見かけていた。その男がオーナーをしているという店を調べてみようと何度か試みたが、止めた。唯一の心の拠り所としたかったのか、ただの気分だったのか、今はもう判らないが…今初めて足を踏み入れている。
もう辺りも暗くなってきている中、足元の視界の悪さは一層酷くなる。
ギイィ…
軋む扉に苦戦しながら、何とか隙間を開けて、中へ入ることが出来た。
「…。」
何と声を発していいのか悩みながら、結局何も言わず、久坂は旧友の元へ来た。
中も暗いが、カウンターから続いた先に、テーブルへ突っ伏している姿が薄っすらと見える。
「寝ているんですか」
自分でも思ったより淡々とした声で話しかけた…まぁいつも通りと言えばそれまでなのだが。
近くの椅子は壊れていて、腕に掛けていた白衣は瓦礫で引っかけたせいで破れてしまっている。
話しかけた相手は起きる気配がない。かと言って、起こして何を話せばいいのかも分からない。なぜ自分がここへ足を踏み入れたのか、誰か代わりに説明してもらえないか、とさえ思っている。
「出よう、」
来た意味などない。それなら帰っても一緒だと思い直し、来た道を戻ろうとしたとき、ガタガタと何かが落ちた音がした。
「琉…!?」
「違います、」
しまった。思わず嘘をついてしまった。
「アタシまだ夢見てるのかしら…?」
「そうかもしれませんね」
あの時と変わらないこちらが見上げるほどの高身長で、暗がりでもわかる派手な衣装を身をまとった
同級生の男、『皆口 葉介』。
「夢でいいわ、もう…いきなり来るなんてどういう風の吹き回し?」
「別に、何も意味は無いんですが」
「なあに、それ…アタシに会いに来たって言えばいいのに」
「そう、かもしれませんね」
突っ伏していたカウンターの台に掛けていた肘を離すと、こちらへ歩み寄ってくる。
「何が目的?ここに来た理由は?」
「えぇ、私も不思議なんです。少し、疲れたので」
縁のない普段は磨き上げている眼鏡も今は曇っているような気さえする。
「今のアンタはアタシの知ってる琉?それとも一研究員の久坂 琉?」
「…ただの、久坂琉です」
力が抜けたのか、その場に膝から崩れてしまう。とっさに葉介、もといヨーコは難なくキャッチした。
「…ったく、しょうがないわね」
前にもこんなことがあったなと古い記憶を思い返しながら、ヨーコは久坂の力抜けた身体を肩に担ぐと、奥の部屋へ連れていった。
あれは久坂が高校へ上がったばかりの頃、身体が弱かったため体育の途中、保健室で休むことになった日だった。




