僕と彼女と親友Ⅲ
携帯電話をブチりと切った後、琉さんは小さくボソリと呟いた。
「どうして君なんかに父は話しかけたのかな」
まただ。琉さんはひどく沈んだ眼で、ボクを見てきた。
「似た者同士、だからかな」
喫茶店の空気が淀んでいる。ボクの後ろに裾を掴んだ優太くんがいる。絶対に気づかれないで逃げ出す方法を考えているけど、まったく手が浮かばない。
焦った声が出ないように、必死に呼吸でごまかすけど、無駄な気がする。
「父と君が?全く似ているどころか、月とすっぽん以下だろうに」
「なにそれ!?失礼すぎるでしょ!?」
「事実を言ったまで。」
「なにそれ~?」
ダメだムカつく!だけど確かに何で先生はボクなんかに話しかけたりしたんだろう。
もう、答えを聞くことはできない。―――もう、会うことも。
改めての事実に鼻の奥がツンと痛くなる。
「なぜ泣いているんですか」
ハっとした。
「…泣いてない!」
ずれた眼鏡を掛けなおす。微かに震える指をごまかす様に、優太くんの掴んできた手首に後ろ手でそっと握り返した。
「別に君が泣こうが関係ないのですが、父の話ができるとは思ってなかった私にとって…君は今までの人間と違うようですね。」
「どういうこと?琉さん」
「その問いに答える気はありません、」
「何で」
はぁ、と小さく息を吐くと、沈んでいた琉さんの眼が少しだけ明るくなったように見える。
「そこで聞いているんでしょう?東島君とその一味」
ドアの向こうから声が聞こえる。皆来てくれたんだ!
「俺たちゃァ海賊じゃねェぞ」
藍澤の声だ!
カランコロン…
乾いたベルの音がいつもより控えめに鳴りながら、それを聞いてボクは心からの安堵を実感する。
「まひるさん無事?!」
「航大くーーーーん!」
後ろで掴んでた優太くんの手ごと引き上げて広大くんのいる出口の方に向かって投げ飛ばした。
「わぁ!!」
「ちょ、まひるさん!!」
「てめェ俺の弟、雑に扱うんじゃねェ!!」
「非常事態につき!!!」
「途中で終わらすなァ!!!」
「っフフ、何ですかこの茶番は」
優太くんは無事に広大くんの元へ飛び込んだ。
受け止めきれなくて後ろの藍澤に支えてもらってたけど。これで優太くんは何とかなった。
「琉さん!ボクお願いがあるんだけど」
「聞きませんよ、どうせろくでもないのでしょう」
「久坂、父に明日会うと伝えて」
希世ちゃんが食い気味に出てきた。ボクと琉さんの間で金色のポニーテールが揺れる。
「嫌です。私はあなたの父親の部下ですよ」
「えぇ、分かっているわ」
「分かってないです。簡単に覆るような人ではないこと、あなたが一番知っているはずでは?」
「分かっているからこそ、あなたに頼みたいの」
今までのどのため息よりも大きく息を吐き、琉さんは掛けていた眼鏡を外し目頭を一度揉んだ。
「小さな頃からあなたを見ておりましたが…変わりましたね」
「そういう久坂は変わってないわね、」
琉さんは着ていた白衣を脱ぐと、腕に掛けて持つ。
「東島君、彼女と居るには相当の覚悟が必要になりますよ」
ゆっくりと、落ち着いた声で眼鏡を掛けながらボソリと呟いた。
「僕は彼女のおかげで、ここにいる皆と会えました。生き残ることで何かやれるなら、僕なんかでも役に立つことができるなら頑張ってみようかと」
そういって広大くんは受け止めていた優太くんを藍澤に預けると、希世ちゃんと目を合わせた。
「優太!無事か!?」
「兄ちゃん…」
「ごめんな怖かったろォ?」
「ううん、あのお姉さんが手を握っててくれたからね、大丈夫!」
「あいつが?そうかァ…」
藍澤はお兄ちゃんらしく、優しく優太くんの頭を撫でてから抱きしめた。ボクにはどこか腑に落ちない顔で睨んできた。
「伝えても、叶わなかったとしても。諦めずに話しますか?」
「勿論よ、私はあきらめが悪いんだから」
「…本当に、変わりましたね」
腰につけていた通信機器を手に取ると、琉さんは咳払いをして声を発する。




