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僕と彼女とカウンターの奥

(あれからどれくらい時間が経ったんだ…)

瓦礫の山をいくつも越えて、外観がかろうじて残っている喫茶店に足を踏み入れてから時刻を知るすべは、かすかに覗く西日が沈んでいった事だった。

カウンターの奥に消えた彼女はしばらく姿を見せない。

店内も暗くなってきて、足元に散らばる欠片が余計に見づらくなってくる。

緊張と不安で既にいっぱいいっぱいだった僕は入り口からすぐに転がっていた椅子に躓き、それを直しつつ、カウンターの一部を押し上げた。やや重たいそれは彼女が持ち上げるには少しだけ大変だっただろうと今さらながらに思う。屈んだ状態のまま、ゆっくり進むと奥へと通じる暗がりがある。明かりがないか左胸ポケットとジーパンの後ろを探ってみたものの、やはりない。自分で不安要素を拡大しながらゆっくりと奥へ進んでいく。

彼女の気配を必死で探して、やっと見つけられたのは五円玉サイズのボタンだった。

(いかにも怪しいボタン…だけどもう悩んでる余裕がない!)

進んでいった先、突き当りに怖くて屈んだままの姿勢が辛くなってきたタイミングで見つけたため、危ない予感しかしないがもう他にない。追い詰められた僕はそのボタンに思いっきり握りしめた拳をそれ以上に思いきりたたきつけた。

その瞬間、けたたましい非常ベルが爆音で鳴り響いた。地面が割れ落ち、押したボタン上下が縦に鋭い速さでヒビが入る。

「こっちよ!急いで!!」

探していたはずの彼女がヒビの間からこちらへ手を伸ばし、僕の震える腕を掴みあげて引っ張ってくれた。

崩れる地面から足が浮き上がりいやな浮遊感が襲う。

「うわわ……!!」

「早くつかまりなさい!」

彼女の腕力がとてつもなく強くて、僕の浮いた足ごとヒビ割れた壁へダイブした。

「死ぬかと…思った…」

壁の向こうには一本道が続いていて、彼女は地面に横たわったまま息を整えてる僕を置いて、進んで行ってしまう。

「ちょ、待って…」

飲み物を用意してくれるんじゃ…と声に出さず呟きながら、僕は彼女を追いかける。彼女はずっと迷いなく進む。一本道でも周囲が暗すぎてどう進んでいけばいいか分からない。そんな中、彼女は勝手知ったる風に進んでいく。

「本当は、まだ誰にも見つかる予定はなかったの」

「…?」

進むスピードに遮られて何を言ったのかよく聞き取れなかった。彼女は言葉を単語としてしか発しない。『会話』が義務化されたような、『こたえ』を求めていないのだ。

「ここはあなたと私の共有地と決めたわ」

「ごめん、全く分からないからもう少し分かるように説明してくれないかな…」

きょとん、とした顔。お互いが首を傾げる。僕の質問が届いていないのか…?

「あなたは選ばれたのよ、チームに」

「チーム?」

ほとんど、というか全く心当たりが浮かんでこない。まず彼女が誰なのか、僕は何で街が荒れ果てたのかとかの方が気になる。

「まだ名前すら言ってなかったわね」

「あ、僕も…」

そうだ、よく昔から人に聞く前に自分から名乗れとかいう決まり文句があったな。

希世きせい、呼び捨てで構わないわ」

「僕は東島航大とうじま・こうだい。呼び方はなんでも…」

「東島君ね、よろしく」


こうして僕と彼女のカウンター奥からの秘密が始まった。




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