僕と彼女と宝物Ⅰ
「ちょっと待ってどうすりゃいいのさ~!」
ボクは自分の家の様子を見に行くといった三人の帰りを待っていた。喫茶店の中で秘密基地みたいに隠れる場所を航大くんと藍澤に作ってもらって、その中に藍澤の弟、優太くんを寝かせてその隣で大人しく待っていた。途中眠くなっちゃったけど、幸い明るい時間帯だから、太陽の日差しが店内を明るくしてくれる。布自体が厚くないから苦しくないし、それ見つけた希世ちゃんナイス!て喜んだ。
ジャリ、と足元の小石が踏まれた時の音がした。
初めは三人が帰ってきたのかと思って、外に出ようとしたんだけど、まだ30分も過ぎてないと思うし。そして気にしないようにしていた左手首の時計がないことに落胆する。…やっぱりお気に入りの腕時計取られたの悔しい。とか思いながら布から目だけで外の様子と耳で誰の足音か探ってみることにした。
割れた窓からどうにか目を凝らして見てみる。無理だったけど!
「まだこちらには来てないようですね…」
何か独り言いってるけど全然聞こえない。なに?白衣着てるじゃん…
「あっ!!」
思わず声が漏れた。
「誰かいるのですか?」
あわてて口を押さえる。どうしよう。まだ3人帰ってきてないのに!
ここで慌ててどうするまひる…落ちつけ…落ち着けボクの心臓!!
白衣の男は細い眼鏡のレンズを光らせて喫茶店の傾いた扉を開ける。カランコロン、と乾いた音を立てながら中へ入ってきた。
「…」
壊れていない座席の椅子を何個か並べた簡易寝床にいる弟くんは幸いまだ起きていない。
ボクが静かにここを乗り切れば…
物置みたいに積み重ねた箱の上に掛けた布を取られなければ大丈夫、なはず。
「完全なる不法侵入ですが許してくださいねー」
誰かがいることに気付いているのか白衣の男はどんどん近づいてくる。
大丈夫、学校で授業の内容についていけない時に気配を消して当てられないようにするのはお茶のこさいさいだ。今がその経験を生かす時!(注意:よい子はマネしないでね)
「ん…」
えっ!今!!目覚めるの?嘘でしょ!!
身じろいだ弟くんはギシリと音を立ててあろうことか寝返りを打ってしまう。
「ここですかね、」
セーフ、まだ近づいては来ているけど!まだボクたちがいるところまでは感づいてないみたい!
ほっとした矢先、目の前が急に明るくなる。
「なんて、気づかないとでも思いました?」
ニッコリと笑った悪魔がボクたちの隠れている布を一気にはぎ取った。
「君は確か小日向まひるさん…ですね」
「ひ、人違いです!」
「横になっている方は…あぁ、藍澤くんの弟さんの優太くんですね」
「違います―!」
必死に首を振りながら、優太くんの前に出る。横になったままの彼に何かあったらボクのメンツが潰れてしまう…!!
何としてでも優太くんを守らなきゃ、でもどうやって…?
「何のつもりですか?」
「こ、この子には指一本触れさせないよ!」
「随分強気ですが、私が何かするのか不安で仕方ないと顔に表れていますよ」
「何しにここへ来たの!」
息をまともに吸えない。荒く吐くだけ、ボクの周りの空気だけが薄くなってる気がする。
「先ほど、広大くん達を見つけて説得を試みたんですが、ダメでした」
「説得?またボクたちを捕まえて何か企んでるの?」
「それを今あなたに言う義理もメリットも露ほどないので。とりあえず地下へ戻りましょうか」
腕時計をはめていた側の腕を取られて、たやすく腕をまとめられた。
「痛っ!」
「抵抗しなければ痛い思いはしなくて済むんですよ。大人しくしてくださいね」
冷静な話し方をするコイツの名前…確かボクが入ってた容器の近くで誰かが話してた気がする。
「くさか…」
「何ですか」
「ボク耳は良いんだよ、あんたくさかって言うんだ」
「それが何か?」
「ボクが通ってた学校の理科担当が久坂将司先生って言うの。懐かしくて」
「父を知っているのか!?」
今まで冷静だった久坂はまとめていたボクの腕を今までより強く締め上げてくる。