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僕と彼女と懐かしき日々Ⅲ

テレビでバンドの人たちが演奏しているところを見たことはあるけど、近くでライブというものを見たことがない僕にとっては、ライブハウスは未知の領域だった。

入ったところから少し進み暗がりの中で目を凝らすと、腰くらいの高い位置にステージがあった。ステージの天井に照明がいくつか吊り上げられていて、客席との間に柵があるのがうっすらと見える。今は照明が下に落ちて粉々になってしまっているのもある。

それを遠目に見てから、辺りをぐるりと見渡す。

「めずらしいかしら?」

低めな声でいきなり話しかけられてビクリとしながら、何回か頷いた。

「フフ、そうよね。アタシも初めて来たときから衝撃だった。ビリビリ響くバンドのサウンドに心奪われたわ~」

「へ、へぇ~」

肩よりやや長めなピンクの髪が非常用のランプに照らされて、違う髪色に見えてさっきより落ち着いて話せそうだ。入口のカウンターとそこから続く受付と書かれている台に置いてあるランプはライブハウスを暗闇から少しだけ解放している。

「突然話しかけてごめんなさいね。アタシはヒロのバイト先のココ、ライブハウス〔フラワームーン〕を経営してるヨーコよ。ヒロ、紹介なさい。この子たちは?」

「あ、あァ…こっちは俺の弟を助けてくれた東島航大。恩人だ。そんで、そいつが希世。理由あって今話を聞こうとしてんのがこいつの親父の話。」

藍澤くんが大きな体を使って女性(仮)からやや離しながら紹介してくれた。身の危険を感じていたのを察してくれたのかもしれない。

「ありがと。取って食いやしないんだからそんなに警戒しなくても大丈夫よ♪」

希世は目線をしっかり合わせながらも一瞬だけ眉をひそめた。

「葉介さん、ゴホンヨーコさん、俺たち弟を喫茶店に置いてきたんだ。だから事情を話すのはその後でもいいか?」

藍澤くんが恐らくヨーコさんの本名を口にしたとたんジロリとするどい眼光が突き刺さる。慌ててごまかす様に言い直すと何事もなくにっこりと表情が変わった。

「どおりで一緒にいないわけね、分かったわ。ただし辺りの建物には十分に気を付けるのよ。アイツがまだつけてきている可能性もあるのよね?」

「そうなんです、えと、ヨーコさん?と呼んでもいいですか、」

呼びなれない名前で口がまごついてしまう。

「いいわよ、東島くん…だったかしら」

「はい、あの…喫茶店に行く前に聞きたいことがあるんですが」

「なあに?」

低い声がさらにワントーン下がる。威嚇、ではない警戒、しているようなスローペースでの返事。

「元カレって誰の事ですか…?」

「フフ、喫茶店からここまで無事に戻ってこれたら教えてあげるわ。アタシの話は長いから。」

そういうと悲し気に微笑むヨーコさん。

「分かりました。僕たちの事、匿ってくださってありがとうございます」

軽く頭を下げて入ってきた入口へ戻る僕と希世に聞こえないように、ヨーコさんは藍澤くんにこそりと耳打ちした。

「ヒロ、無事に全員連れてきなさい。途中でアイツに会っても勝手に暴れないこと。いいわね?」

「あいついけすかねェやつだぜ?ヨーコさんあんな奴趣味だったのかよ」

「事情を知らない子がでしゃばるとこじゃないんだ、気をつけていけよ」

いきなり男言葉になると本来の皆口葉介みなぐち・ようすけの部分が出る。体格のいい藍澤くんの頭一つ分大きいヨーコさんは、細いけど大きくみえるので藍澤くんからすると見上げて話す数少ない人物である。

軽く嘆息して、藍澤くんは扉を力づくで開けてくれる。(僕と希世じゃ開かなかった。)

「あんたが此処にいてくれてよかった、また来る」

微かな光が漏れている外へ歩き出す。目的地は、喫茶店だ。


「ここにしかアタシの場所はないのよ。…怪我したら承知しねーぞヒロ、」

三人を送り出しカウンターの椅子に座る。ヨーコ、もとい葉介は胸元の隠しポケットからある写真を取り出す。

「懐かしいわね、ここから何が変わっていったのかしら…ね、琉」

写真に写っているのは酒を片手に笑っている二人。撮った場所は今座っている席だった。思い出がふと蘇りそうになると目頭が熱くなる。もとから感動ものには弱かった葉介はよく友人にからかわれた。久坂流は笑わずに受け止めてくれた変わった友人だった。











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