僕と彼女と追跡者Ⅱ
「弟くん担ぐの代わろうか?」
「ッハ、俺より体力ねェ奴に大事な弟任せられるか!」
かなりの距離を歩いてきたけど、藍澤くんはさすがの体力だ。容器の並ぶ部屋からレバーを引いて開けた扉からしばらく長く続いた廊下を歩き、部屋から部屋へ移動する。希世の選ぶルートはこの場所の詳細を知らないと通れないような道順だった。いや、知らない僕らからすると、だけども。
「ねぇーボクまだ足おぼつかないんだけどさーまだ歩くのー?」
「一度入り口の喫茶店へ戻りましょう。地上の方がここにいる時より少しは落ち着いて話ができるかもしれない」
いつどんな時でも落ち着いている希世が静かに言葉を繋ぐ。まひるさんは少し不服そうに口を尖らせたけど、多分根が素直な性格だからその言葉に小さく頷いた。
「おいしょっと、優太がこのまま目覚めないなんてねェよな?」
歩きながら優太くんを担ぎなおして、希世に問う藍澤くんは不安そうな顔をしている。
「体が弱いんだったかしら?」
「小さい頃はすぐ風邪ひいててな、中学生になった今でも風邪ひくと治りが遅いんだ。」
「恐らく連れてこられた時に薬か何かで眠らされているのだと思うわ、」
「確かになかなか起きないねー。起こしたら歩くの楽になるんじゃない?」
「バーカ、これから何が起きるかわかんないって時に怖いもん見しちまったら優太がびっくりして腰抜かしちまうかもだろ!」
「どんだけ過保護なんだよー?」
「うるせェチビッ子!」
「なんだとー?!ねー二人とも今の聞いた?!」
「それだけ元気なら歩けるわね。もう少しで着くはずよ。入口へのリフトへ続く扉が…」
二人の賑やかなやり取りを聞きながら僕は一人考えていた。
希世が僕と初めて会ったときに言った”チーム”になることが今の僕たちに当てはまるのなら何か聞いとかなきゃいけない気がするんだけど、何から聞いてまとめればいいのやら優先順位が付けられない。とりあえず、優太くんが目覚めるには安静にできる場所へ行く必要がある。これは希世の言う喫茶店(半壊)に行ければ解決する。次にまひるさんが言っていた研究員たちがいつ何の目的のために僕たちをあの容器へ入れて、いったい何をするつもりだったのか?
希世は何となく知っていたのか?
考えれば頭が痛くなる。ボーっとするのは考えない普段が普通の僕には結構大変だという何よりの確証だ。
「広大くん?」
金髪の髪をサイドに下ろすとまた雰囲気が変わるんだなーとちらりと思いつつ、お得意の愛想笑いをついしてしまった。
「何でもないよ。良かった、来るときみたいにダイナミックじゃなくて」
「それは君が勝手に付いてきたから…」
「うん、そう僕の自業自得だったね」
「なーに二人も言い合い?ボクも加勢しよっか?」
「「いい、必要ない」よ」
「すごーい、息ピッタリ!」
希世と思わず顔を見合わせる。途端にどちらからともなく吹き出してしまう。
「はは、希世も笑うんだね!」
「なによ、失礼な」
「ごめんごめん」
「なんだ二人で笑いあったりして。この先にあるんだろ?リフト?とか言うやつが」
藍澤くんが話を戻してくれる。
「もうすぐなはずよ」
やっと年相応な顔をしたと思ったらすぐに希世はいつもの凛とした希世に戻った。
そうして無事にリフトを見つけ、地上へ戻ることが出来た僕たちは朝日が昇るのを待った。ある水と少しのお菓子で空いたお腹をごまかしながら目を閉じる。
先に目が覚めていた藍澤くんが家の様子を知りたいと言ってきたので半壊の喫茶店の裏口から近くの瓦礫を避けながら出来るだけ平坦な道を探しつつ、そばにあるという藍澤くんの家へ向かうことにした。歩きながら向かっている間に希世に尋ねた。
「希世、前に話してたチームなんだけど…」
「そうね、話途中だったわね」
喫茶店にまひるさんと優太くんを建物の外から見えないように木の板と椅子を駆使して防護壁を作ってきたから、おそらく大丈夫だと思う。そわそわしながら進む藍澤くんも希世の話に耳を傾ける。