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わたしの可愛い悪役令嬢  作者: くん
88/97

88・心配

 わたしが部屋から出ると、扉の側でずっと心配で控えていたらしいレイラが、ハッと顔を上げた。



「レイラ、アイラはもう大丈夫だから……少し寝かせてあげて」

「……ありがとうございます。クルーディス様」

 大丈夫という言葉で少しレイラの表情が和らいだ。



 レイラはまるでアイラのお姉さんの様だ。大事な妹を大切に守っているとてもしっかりしたお姉さん。

 中身はわたしの方が全然上なのにその立場からなのか、本当に頼りになる女性で、わたしの中の女性だった部分が彼女を尊敬と憧れの対象としている。

 女性だった時わたしはこんな風に真剣に誰か一人を思いやった事が無かったからか少し、ほんの少しだけアイラの事を大切に守っているレイラの事が羨ましいのかもしれない。



「クルーディス様は……大丈夫なのですか?」

「僕は平気だよ」

「それなら良いのですが……」


 レイラはこういう所も凄いと思う。細やかな気遣いがレイラの根幹にはあるんだろうな。まあ、わたしが取り乱していたのをずっと見られていた訳だから、レイラだって心配しちゃうか。

 もう少ししっかりしなきゃダメだな。

 


「あの、クルーディス様」

「なに?」

「少々お時間宜しいでしょうか」

「うん」

 レイラの言葉に頷くと、わたしはそのまま別の部屋に案内された。そこは使用人が使っている応接室だと言う事で余り主張のないシンプルで落ち着いた部屋だった。



「あのさ……座って欲しいんだけどな」

 レイラはわたしを椅子に座らせお茶を淹れると、少し離れたところに立った。

 ねぇレイラ?それじゃ話もしづらいんですけど。

「いえ、こちらの事はお構いなく」

「いや構うでしょ。アイラの話なんでしょ?それなら尚更ちゃんと聞きたいし、ちゃんと話したいから座って?」

 そう言うとレイラは渋々だが了承し、わたしの前に腰掛けた。

「で、何だろう。何か聞きたいのかな。それとも話したいのかな」

「どちらもですわ。クルーディス様」

 レイラはにっこりと笑顔でわたしに言った。



 う……さっきの事怒られるのかな。結果としてはわたしがアイラの体調を崩すきっかけを作ったんだもんね。

 じわじわと笑顔で来るところが何だかシュラフと近しいものを感じる。怒られるなら甘んじて受け入れなければいけないよね。

 わたしは少しどきどきしながらレイラの言葉を待った。




「お嬢様は先程のサイモン様に対してとても怯えていらっしゃいました……あの方は『サイモン・ナリタリア』様でいらっしゃいますよね」

 あ、その事か。そういえばさっきは敢えて名乗っていなかったからな。怒られる訳では無かった事に少しホッとしてしまった。

 なも、こんな風に決め打ちでこられてしまうと隠す事も出来ない。レイラもレイラなりに侍女として色々貴族社会についてチェックを入れているのだろう。後々の事を考えるとレイラには知っておいてもらった方がいいのかもしれない。

「うん。あれはナリタリア公爵様のご子息のサイモン様だよ。彼がランディスと王宮のパーティーで友達になった人なんだ」

「やっぱり……そうでしたか……」

 やっぱりレイラはサイモンの事を知っていたのか。それを今まで口に出さなかったのはわたしが口止めしたからだよね。レイラのその気遣いには本当に感心してしまう。


「クルーディス様、何故お嬢様はあんなに彼の方を怖がっておいでかご存じでいらっしゃいますか」

 事情を知らない人にとってはアイラのあの怯え方は尋常じゃなかったかもしれない。アイラはそれを出さない様に堪えていたけど、レイラにはアイラの心の内なんて、すぐにわかっちゃうんだろうな。

 レイラはアイラの事を本当に心配しているんだ。いつもと違い、レイラはその気持ちを隠そうともしないでわたしに答えを求めてきた。




「……前にアイラはレイラに夢の話をしたと思うんだけど……その夢でアイラに酷い事をしたのが僕と、モーリタスとサイモンなんだよね……だからアイラはサイモンが苦手なんだと思う」

「ああ、そうでしたわ。以前はクルーディス様の事も避けておられましたものね」

 くすりと笑うレイラにわたしも苦笑してしまった。そうだった。初めてわたしと会った時も倒れちゃいそうな位怯えていたっけ。

 きっとレイラも同じ事を思い出しているのだろう。くすくすと笑いが溢れていた。アイラの怖がっていた理由が夢のせいだとわかって安堵したのかもしれない。

「でも今はクルーディス様はお嬢様にとって掛け替えのないお方ですわ」

 そう言ってレイラはこちらに笑顔を向けた。

 アイラはわたしにとっても掛け替えのない大事な人になった。わたしだって避けられて嫌われてもおかしくないのにアイラはわたしを選んでくれた。それがどんなに凄い事なのか。

 この出会いにはもう感謝しかなかった。


「クルーディス様がありのままのお嬢様の事を大事に思って下さるのを私は有り難く思っています」

 そう言ってレイラは深く頭を下げた。

「それはこっちの方が有り難いと思っている事だから……だからレイラ、頭をあげて」

 わたしは慌ててそれを止めようとしたが、レイラは長い時間頭を下げたままだった。

 暫くして頭をあげたレイラの目にはうっすら涙が滲んでいるように見えた。




「少し……お話を聞いていただけますか」


 思い詰めたような声を出すレイラにわたしは頷いた。





読んでいただきましてありがとうございます。

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