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わたしの可愛い悪役令嬢  作者: くん
87/97

87・そして

 レイラと二人、ふらついているアイラを支えながら彼女の部屋に入った。初めて入ったその部屋は余り飾り気もなく、シンプルだけど柔らかい雰囲気がした。

「クルーディス様、こちらの部屋までお願い出来ますか」

「あ、うん」

 言われるままアイラを寝室に運ぶと、レイラはアイラをベッドに寝かせカーテンを閉めて部屋を暗くした。

 てきぱきとアイラの世話をするレイラを横目にわたしはただアイラの側に立っていた。

 アイラはまだわたしの袖口を掴んだままで、わたしはその小さいアイラの手を見つめながら先程の自分の失態を思い出していた。



 どうしたってこの状況は、わたしの発言が招いた事だ。

 大事にしたいかとか守りたいとか考えていた自分がお粗末過ぎて情けない。自分でそれを反故にしているこの状況は本当に洒落にもならない。

 今後、わたしはアイラの側にいてもいいのだろうか。

 本当に将来何かあった時に守る事が出来るのだろうか。




 アイラが袖口を引っ張った事で、我に返った。

 いつの間にかアイラの枕元に用意された椅子に座っていて、さっきまでいたはずのレイラは、もうここにはいなかった。

「クルーディスの方が倒れそうだよ」

「……え?」

「真っ青だ」

「……そう」

「さっきの気にすんなよ?」

 自分の顔がどれ程青いのかわからないが、そう言うアイラはやっぱりまだ顔色が悪かった。

 気にするな、なんて無理な話だ。こうなったのはわたしのせいなのに。




「ごめんなさいアイラ……わたしが不用意な事言っちゃったからこんな事に……」




 本当にごめんなさい。

 アイラが断罪を怖がっている事を一番理解していなきゃいけないわたしがアイラを苦しめてしまったなんて……。一番やっちゃいけない事なのに。本当にわたしは最悪だ。

「違うよクルーディス……」

 そう言って起き上がろうとするアイラをわたしは慌てて止めた。

「駄目だよ少し寝てなくちゃ。まだ顔も青いじゃない!」

「いいの、ちょっと起きたい」

「駄目」

 わたしはアイラの願いを受け入れずにそのまま肩を押さえつけた。

「う……それじゃ、このままでいいからぎゅってして」

 漸く袖から手を離したアイラは両手をわたしに向けて広げてねだった。

 普段ならきっと照れ臭いし、恥ずかしくてそんな事は出来ないだろうけど、今はとても苦しくて、切なくなってわたしは言われたまま、アイラをそっと抱きしめた。



「アイラ……怖かったよね、ごめんね。わたしが余計な事を言わなかったら苦しまなかったよね」

 本当にごめんなさい。

「違うよ。だって本当なら、サイモンの前でこうなっちゃったかもしれないんだよ?」

 それはそうかもしれないけど……。

「俺はあれ以上サイモンに触られたくなかったからこれで良かったんだよ。……クルーディスに教えてもらってこうなっちゃったけど、今はそれが少しラッキーって思うよ」

 そう優しく言ってアイラはわたしの首に回した手に少し力を込めてきた。

 わたしもそれに答える様に抱き締めた腕に力を込めた。



「アイラ……わたしを見捨てないで」



 誰かをこんなに好きになって大事に思ったのは初めてだった。わたしはもうアイラがいなきゃ駄目になる。それなのにわたし自身がアイラを苦しめてしまった。アイラがどんなに苦しんでいたのか知っていたのに。

「バカだなクルーディスは」

 首に回した手をほどいてアイラはわたしの頬に両手で触れた。

「俺はそんな事しないし出来ないよ」

「うそだ……」

「お前ってほんとバカ」

 くすりと笑ったアイラは知らないうちに泣いていたわたしの涙を指で拭った。

「……どーせバカだもん」

「うん。知ってる……」

 そう言ってアイラは微笑んだ。そして頭を少し上げてわたしに顔を近づけ、その唇をわたしの唇に重ねた。






 頭が一瞬真っ白になった。

 何が起こってる?

 理解するまでに時間がかかった。漸く理解出来た時にはアイラの唇は離れ、その瞳はわたしだけを映したままで微笑んでいた。



「ふはっ、真っ赤」

「あ、の……」

「面白い顔」

「え?」

「ほら、もう泣くなって」

 今何された!?驚き過ぎて涙だって引っ込んじゃうよ!

 アイラの瞳の中には驚いて真っ赤になったわたしの顔が映っている。

「俺はクルーディスとずっと一緒にいるから」

 わたしはもう頭が混乱してしまっていた。自分のした事が申し訳ないやら、アイラがそう言ってくれた事が嬉しいやら。

「知ってる?クルーディスに拒否権はないんだからね?」



 そう言ってアイラは笑うけど、アイラから離れて行く事だってあるじゃない。そんな事を考えてしまうとわたしはとても怖くなる。

「もう、考え過ぎは悪い癖だよ」

「だって……」

「だってじゃない」

 アイラは笑ってわたしの鼻をきゅっとつまんだ。

「ぶ」

「しっかりしなよ。クルーディスはずっと俺の事守ってくれるんでしょ?」

「それは勿論」

「俺もずっと守ってあげるからさ。ほら、泣き止みなって」

 アイラは今度はわたしの顔を引き寄せてもう一度口づけた。

 アイラとわたし、どっちが男の子なのやらどっちが年上だったのやら……考えたら何だか可笑しくなってしまった。



「なんだかアイラの方が頼りになる……」

「そりゃ元・男ですから」

「わたしの方が元々年上なんだけど……」

「精神年齢はそう変わんないと思うけど?」

 う……そうかも。否定できるものが何もない。

「そんなのどうでもいいじゃん。今はたった1つしか違わないんだしさ」



 そうだね、そんなのどうでもいいのかもしれない。

 今のアイラはとても頼もしい。さっきまで真っ青になってふらついていたなんて思えない。でもわたしだって頼るだけなんてしたくない。これからはわたしもちゃんとアイラに頼られる存在になりたいと思う。

「うん。そうだよね」

 わたしがそう言って笑うとアイラも笑顔になった。

「復活した?」

「ごめん、ありがとう……もう大丈夫」

 アイラの看病をするはずが逆に慰められて心配かけてしまった。これからはもう少し大人にならなきゃな……って、あれ?わたし大人だったハズなんだけどな……おかしいなぁ。




「アイラこそ大丈夫?辛くない?」

「折角だから少し休むよ。部屋から出てもまだ皆いそうだし……今はあんまりサイモンには会いたくない。あいつ何か怖い」

「ん。わかった」

 きっと皆も心配してるだろう。

「それじゃ、皆にはもう休んだって言っておくよ」

「うん、お願いします」

 微笑むアイラの頬を撫でて体温を確かめる。さっきよりは血の気も戻ったかな。すると触れていたわたしの手にアイラは自分の手を重ねた。

「クルーディスに触られてると何か安心する」

 気持ち良さそうに目を閉じてアイラはそんな事を言う。そんな彼女に愛しさが込み上げてきた。

「僕もアイラに触れてると安心するよ」

 わたしはそう言って目を閉じているアイラの唇に自分のそれを重ねた。

 驚いたアイラは勢いよく目を開けてわたしを見た。

「お返しだよ、アイラ」

 にっこりと笑顔でそう言うとアイラは真っ赤になってしまった。

「なっ……!」

「あれ?さっきまであんなに積極的だったのに」

 ぷっとわたしが吹き出すと、アイラは頬を膨らませた。

「するのとされるのは違うし!」

 真っ赤になったままアイラは勢いよく毛布を被ってしまった。あらら、恥ずかしがってる顔も可愛いのに隠しちゃった。残念。



「それじゃおやすみ、アイラ」

 辛うじて毛布から出ていた頭を撫でてわたしは立ち上がった。するとアイラは毛布から赤い顔を少し出してわたしにおやすみと小さく言った。





読んでいただきましてありがとうございます。

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