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わたしの可愛い悪役令嬢  作者: くん
85/97

85・腹立ち

「あのねクルーディス、今からランディスに会いに行きたいんだけど……一緒に来てくれる?」

 ああそっか、我が家の馬車で行きたいのか。サイモンも色々考えているのね。それならサイモンの素性もバレないもんね。

「構いませんよ。セルシュも一緒なら」

「えっ?」

「俺も?」

 二人はわたしの言葉に驚いて固まる。二人ともランディスを介した方が素直になれると思うんだよね。だからこれは強制です。



 馬車の中では二人はやっぱり微妙な空気のままだった。それをなんとかしたくて珍しく饒舌にランディスの事とか、その友達で弟子仲間のモーリタス達の事とかをサイモンに話した。

 流石にセルシュはわたしの努力に気付いたらしく、コートナー家に着く頃にはわたしに申し訳なさそうな顔を向けていた。




 コートナー邸に着くとレイラがいつもの様に出迎えに出てくれた。一緒に来たサイモンにレイラは表情には出さなかったけど驚いていたみたいだった。もしかしたらレイラはサイモンの顔を知っているのかもしれないな。

 わたしがサイモンに気付かれない様にそっと人差し指を口許に立てるとレイラは心得ましたとばかりに小さく頷き、追求もせずに応接室に通してくれた。本当にレイラって凄い。




「ここにランディスが住んでるんだね」

 サイモンは物珍しそうにきょろきょろと見て回る。部屋の中を見たり、庭を見たり。それだけでもサイモンはとても楽しそうだ。

 わたしはセルシュと二人、部屋の奥にあるテーブルを挟み、楽しそうにしているサイモンを見ていた。そわそわしてて何だか可愛いな。

 そんな事をしていたら部屋の扉を叩く音がした。



「えっ?サイモンじゃないですか!」

「来ちゃったよ、ランディス」

 扉を開けたランディスはそこにいた笑顔のサイモンにとても驚いたけれどすぐに嬉しそうに駆け寄った。そんなランディスにサイモンもとても嬉しそうだ。

「レイラが『師匠達がお友達を連れてきた』って言うから誰かと思いましたよ!サイモン、来てくれて嬉しいです」

「僕も来れて嬉しいよ、ランディス」

 二人は久しぶりの再会が本当に嬉しそうだ。

 セルシュは二人を見て本当に仲がいいと驚きながらも納得した様だ。そうだよね、セルシュもセルシュなりにランディスの事を心配してたのよね。彼らはこんなですよ。最初から仲良しなんですよ。

 

「あ、そうだ」

「どうしたの?ランディス」

「折角来ていただいたのですから私の妹にも会って下さい」

 ランディスのその言葉にわたしの中に緊張が走った。

 アイラにサイモンを会わせるのはどうなんだろう。わたしは『きっと大丈夫』とは伝えたけれど、それをアイラがどう受け止めているのかはわからない。

「へえ、妹がいるの?」

「はい。とってもしっかりしていてとっても可愛いのです」

 わたしの動揺を知らないランディスはレイラにアイラを呼びに行かせて、また二人で話を始めた。



 アイラは急にサイモンと会うなんて思ってもいないだろう。大丈夫だろうか。


 今のサイモンはランディスの事が大好きだから、ランディスを悲しませる断罪なんてないとは思うんだけど……。それでも、今まで苦手だったサイモンと直接話す事になるのはアイラだって怖いだろう。でもわたしがここで出る訳にはいかない。

 サイモンはランディスと友達なんだからこれから何度もこんな機会が出てくるだろうし、最初は辛いとは思うけど、一度ちゃんとアイラにも自分の目でサイモンを確かめて安心してもらいたいと思った。



「なぁ……あいつマジでランディの事気に入ってんのか?」

「うん、そうみたいだよ」

「ふぅん……あいつ、何かランディの言う事は絶対って感じだけど、あれ何なんだよ」

「さぁ。きっとサイモンにとってはランディスが何よりも特別なんなんじゃないの?」

「それってランディが凄いって事か?俺、あいつのあんなに全開の笑顔って初めて見たわ」

「そうだね。なにげにランディスは最強なのかもね」




 わたし達が小声でそんな話をしていると、レイラがアイラを連れて部屋に入ってきた。

 やっぱりアイラも見ただけで彼が誰なのかをわかったらしく、顔に緊張が走った。

 それでもそれを隠しながらぎこちなく笑顔を作っている。ランディスが手招きをするとアイラは少し緊張してランディスの後ろに立った。

 ここでは今自分は部外者なので何も出来ない。それでもわたしはまだサイモンに対して警戒しているアイラをもどかしい気持ちで見守っていた。



「サイモン、私の妹のアイラヴェントです。ほら、アイラ」

「ランディスの妹、アイラヴェントと申します」

 ランディスに促されて型通りの挨拶をするが、アイラの言葉にはまだ固さが残っている。やっぱりまだアイラにはサイモンへの恐怖心が残っているのかもしれない。

「僕はサイモン。ランディスの友達だよ」

「兄がお世話になっております」

 サイモンが優しく言ってもアイラは緊張したままだった。

「ねぇアイラヴェント嬢?僕は怖い?」

「あ、あの……ただ少し緊張してしまって……すいません」

 アイラはさりげなくサイモンと視線を合わさない様にしながらも、失礼にならないようにお辞儀をする。アイラが頑張っているのを見守る事しか出来ない自分がとてももどかしい。

「そっか。……ねぇランディス、アイラヴェント嬢って可愛いね」

「そうでしょう?」

 にっこりと笑ったランディスの言葉にうんうんと頷いたサイモンはアイラに向き直り、アイラの両肩に手をかけた。



 ん?



 ちょっと……何でそんなに簡単にアイラの肩にさわるかな?

 さりげない行動で軽くアイラに触れるサイモンに少し苛立ちを覚える。ムカつくけど、ここは我慢しなきゃ。そんな気持ちを抑える様にわたしは拳を握りしめていた。



「君さ、僕と将来一緒になる気はない?」



「はあっ!?」



 あんた今何て言った!?

 サイモンの言葉にわたしは驚いて立ち上がってしまった。

 アイラは自分が何を言われているのかわかっていなかったみたいで、わたしが急に立ち上がった事に驚いていた。

「駄目だよ!」

 わたしは思わず二人に駆け寄りその手をアイラの肩から離し、自分の後ろに身体で隠した。視界からサイモンが消えた事にアイラが安堵したのがわかった。

「何で?何でクルーディスがダメって言うの?」

「アイラは僕のだから!」

「……えっ?」

 その言葉にサイモンとランディスはきょとんとわたしを見る。視界の端ではセルシュが口を押さえて声を出さずに笑っていた。



 あれ……?わたしやらかした?



 別に婚約してる訳でもないのにこういう事って言っちゃっていいのだろうか?

 そんな事をちらりと考えたりもしたけど、目の前でアイラが誰かに取られそうなのを黙って見ていられるほどわたしは強くないし、そんな事は我慢出来ない。

 その結果、例え公爵家のご子息と対立する事になるかもしれなくても仕方がないか、と思った。それ位自分の中で許せる事じゃないんだもん。

 後ろにいるアイラがわたしの袖口をきゅっと握ってくる。そんなアイラの行動にもわたしは幸せを感じてしまっている。

 わたしはこの子を離したくないし、わたしがずっと側で守りたい。

 そのためにはこのサイモンとでも対立しようと思った。



「あの……師匠?」

「……なに?」

 わたしはあからさまに不機嫌にランディスに返事をした。ランディスはそんなわたしを初めて見たからか少し戸惑いながらもわたしに疑問を投げた。

「アイラは師匠のものなんですか?」

「……そうだけど」

 わたしの言葉に少しランディスは考えて、それからわたしの後ろにいるアイラに優しく聞いてきた。

「アイラ?アイラはそれでいいのかい?」

 わたしの後ろでアイラがこくりと頷いたのが気配でわかった。

「うん……わかったよ」



 ランディスはわたしとアイラに意思確認をしてサイモンに向き直った。

「すいませんサイモン。私にはアイラが一番納得出来る選択しか出来ないのです。だからサイモンにはアイラを渡す事は出来ません」

「……そっか、わかった」

 ランディスはサイモンにランディスらしい理由でアイラへの求婚を断り、サイモンは素直にそれを受け入れた。

 とても深くお辞儀をするランディスの肩にサイモンはそっと手を乗せる。

「ランディスの妹と結婚出来たらもっとランディスと一緒にいられると思ったんだけどね。でももうクルーディスのものなんでしょ?仕方がないから諦めるよ。だから顔をあげて?」

 ふぅと息を吐いて残念そうにサイモンはランディスに笑っていた。




 くっ!ちょっとサイモン?何なのさその理由!!わたしも大概だけどあんたも相当酷いな!!わたしの焦りを返せ!!






読んでいただきましてありがとうございます。

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