84・驚き
やっと落ち着いてそれぞれがお茶を飲み、一息ついたところでわたしは話を切り出した。
「二人とも遊びに来てくれるのは嬉しいんだけど、何でそんなに啀み合う訳?」
「こいつは昔から周りに笑顔振り撒きながら、後で叩き潰すのが得意なんだよ」
「そういう君だって裏で色々と画策してるよね?一体陰で何やってるのかな」
先程ほどではないけれど言い合いながらまた二人は感情を表に出して睨み合い始める。それを見てわたしはさっきから何度ため息を吐いているだろう。そろそろ本当に止めてもらわないと。
「あのさ、二人とも相手の事ばかり言ってるけどやってる事は同じなんじゃないの?」
わたしから言わせてもらえばそれは『同族嫌悪』なんじゃないのかと。
「んな事ねーよ!」
「一緒にされたくないんだけど」
二人してわたしの事をギッと睨む。もう、本当にそっくりだ。シンクロする二人の反応につい笑みが溢れてしまう。
「いい?僕にはね、二人とも『爵位とか身分とか振りかざす人が嫌い』なんだろうなって感じてるし考え方が一緒にみえるんだ。だから周りにいい顔するのも裏で何かするのも僕には同じに聞こえるよ」
「はぁ?」
「どの辺が?」
こっちを睨んだまま二人は疑問を声に出す。どの辺も何も、ねぇ?
「きっとサイモンは表でいい顔をして相手を油断させて『画策』するんでしょ?セルシュだって裏でこっそり色々と『画策』するじゃない。取っ掛かりが表か裏かの違いだけ。ほら、やっぱり一緒だ」
「え……?」
「う……!」
わたしが笑顔で持論を展開すると二人は固まり、何も言えなくなってしまった。
二人がお互いを嫌うのは自分がそれをやましいと感じているからで、それを相手から客観的に見せられちゃうのが嫌がる原因になるんじゃないのかなと思ったんだよね。想像だけど、二人の性格からしてその嫌な部分は二人とも誰かの為にやっているんじゃないだろうか。
そう考えると本当に二人とも根っこはどっちも優しくて真面目なんだろうなと思う。わたしの方が何だかよっぽど胡散臭いし腹黒いと思うしね。
「多分どっちも似た様な考え方をしてるんだろうね。鏡みたい」
そう言って笑うと二人は微妙な顔になった。まぁその辺はお茶でも飲んでゆっくり考えてくれればいいよ。
「でもなぁ、やっぱり俺はこいつとは違うと思う」
「僕も違う気がする」
二人はぶつぶつ言ってるけれど敢えてそれを無視した。ずっと啀みあってきた関係なんだから、すぐにはそんな風に思えないよね。でもね、これだけは譲れないよ。
「僕はさっき『仲良くして』って言ったよね?」
「言ったな……」
「言ったけど……」
「少し位歩み寄ってもいいよね?」
「……わーったよ」
「クルーディスがそう言うなら……」
「理解していただけて嬉しいです」
二人の嫌そうな言い草にわたしはにっこりと微笑んだ。
二人はわたしの言葉を納得しないまでも色々考えているんだろう。お陰でさっきまでの嫌な空気は霧散したのでもうそれは放っておこう。わたしは今何となく気になっている事をサイモンにぶつけた。
「そういえば、サイモンはランディスのところには行ったんですか?」
そうサイモンに尋ねると、彼は俯いて小さく首を振った。
「ううん、まだ」
「え?てっきり張り切って行ってきたのかと……」
あんなにランディス大好きを溢れさせていたからすぐにコートナー邸に行ったんだと思っていた。それに対してアイラがどう反応したのか、そこがとても気になっていた……んだけど。
驚いたわたしにサイモンは困った様な笑顔になった。
「だって……急に行ったらランディス驚いちゃうかもしれないでしょ?」
えー……そんな心配そうな顔をこちらに向けられてもさぁ。
「……では何で僕の家には来れたんですかね?」
まだアイラに接触していない事にホッとして、ついちょっと意地悪な質問をしてしまった。だってわたしには平気って事ですよねこれ。
「クルーディスは鋭そうだし何か色々わかってそうだったから別に隠さなくてもいいのかなって……でもランディスにはやっぱりただの僕として会いたいから」
サイモンは素直に思っている事を白状した。
普通なら社交の場で顔位知ってるんだろうし、隠したところで意味はなさそう。まぁわたしはゲームで知っていたから引きこもってても問題はなかったんだけど。
それに、普通は馬車には紋章が付いてるし、どこの貴族のものか皆すぐわかる様になっている。貴族はまず相手をどんな爵位のどんな立場の人なのか探るのが通常だし、相手を形成している全ての物や状況を確認するのは普通の事だ。サイモンの招待の仕方やこんな風にまわりくどく隠そうとする事は殆どないと言っていい。
先日サイモンに会った事は父上には報告しているから、そこからこっそりコートナー伯爵にも伝わっているのだろうと思う。
サイモンの気持ちも大事にしたいと思ったのでランディスには伝わらない様に父上にも話をしている。父上の事だからその辺りはうまくやってくれているはずだ。
肩書きや爵位を気にしないランディスが相手だからこそ、この状況が通じる訳で。サイモンにとってのランディスは本当に特別で大事なんだとわかるんだよね。
そう考えるとこの子は本当にランディスとはしがらみなく対等に付き合いたいと思っているのがわかる。そこはとても好感が持てるんだよなぁ。
「へぇ……お前ランディと本当に仲いいんだ?」
わたし達のやり取りにセルシュは素直に驚いた。そうだよね、普通ならランディスとサイモンなんて接点があるとは思わないもんね。わたしも驚いたもん。
「そうだけど?何か文句あるの?」
セルシュの言葉にサイモンはぎろりと睨む。
だからね、サイモンそんなに喧嘩腰にならないで。
「サイモン?セルシュも僕と同じでランディスの師匠なんですよ」
「えっ!?何で!?」
サイモンは予想もしていなかった言葉に驚いてわたしを見た。セルシュとランディスが知り合いだとは思っていなかったよう
、でわたしの言葉が予想外だったらしい。まぁこっちも普通なら全く接点ない者同士のはずだったもんね。
「セルシュはランディスの剣の師匠なんです。いつも丁寧に指導をしているんですよ。何だったら師匠はセルシュだけだっていい位なんです」
「そうなんだ……」
「ランディスはセルシュの事も大好きなんですから、サイモンも少しは歩み寄ってくださいね」
「ランディスがそう思ってるなら……そうするよ」
少し考えたサイモンはわたしの話に納得をしてくれた様でこっくりと頷いてくれた。
うん。やっぱりサイモンは素直ないい子だね。
わたしはそれに北叟笑み、セルシュはサイモンのその態度に呆然としていた。
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