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わたしの可愛い悪役令嬢  作者: くん
74/97

74・聞きたい事

「入れ」



 扉を開けると父上は机に書類を広げ何やら書き物をしていたが、顔を上げてわたしに気付くとにっこりと嬉しそうに微笑んだ。

「おおクルーディスか、少し待ってろ。すぐ終わらすから」

「いや、お忙しいのであれば後でも構いませんが……」

 流石に父上の仕事の邪魔をする訳にはいかない。社会人経験があるから余計にわたしの感情の話で仕事を遮る事はしたくなかった。

「いやすぐ終わるからそこに座って待っててくれ」

「……はい」

 念を押され仕方なくソファーに腰掛けた。

 父上はまた書類に視線を落として先程と同じ様に仕事に戻った。



 忙しそうだな。



 父上はわたしやリーンの前では仕事の大変さを一切見せない。家ではいつも子供大好きな甘い父親だ。でもこうして仕事をしている姿はいつもと違い、真面目で勤勉な『エウレン侯爵』なんだと再認識する。


 改めてわたしは父上の事を全然知らないんだなと気付いた。

 それこそセルシュやヒューレットの様に少しは父上の仕事を学んだ方がいいのかもしれない。それをわかってはいるんだけど、今までの怠惰な生活が楽だったからつい面倒だなんて思ってしまう。

 いつかは父上の跡を継いで当主にならなければいけないんだもんね。いきなり全部は無理だけど少しずつ覚えなきゃだよねぇ。

 セルシュもロンディール様の仕事に随行したりするんだっけ。今度どんな感じか聞いてみようかな。



「クルーディス?」

「へっ?」

 気付くといつの間にか父上は対面に座っていた。



 色々考えていたから全く気付かなかった。

「……すいません父上。ぼーっとしてしまいました」

「構わないよ。あんなに大きなパーティーに出た後だしな。パーティーは楽しめたか?」

 父上は先程とは違い、今はもういつもの子供を慈しむ親の顔になっていた。


 ごめんなさい父上。ぼーっとしていたのはパーティーは関係ないんです。今まで色々サボっていた事の再確認なんです。

 ……なんて事は顔には出さずに父上に微笑んだ。


「そうですね。あれほどの集まりは初めてで疲れたのは確かですが……まぁ色々とそれなりに学べたかと」

「タランテラス殿下にも会ったそうだな。お前から見て殿下はどうだった?」

「殿下は相手に対してきちんと礼節を重んじる方だと思いました」

 少し話をしただけだけどわたしやセルシュに対しても王子らしく毅然とした態度だったんじゃないかな。その上で相手をきちんと見て話す気遣いがあったと思う。

「そうか」

 父上は何か考えている様だったがわたしには何を考えているのかはわからなかった。


「他には誰と会ったんだ?」

「ヒューレット・ポートラーク殿と会いました」

「宰相の息子か。何を話したんだ?」

 うーん……それを聞かれるとなぁ。喧嘩したなんて話せないでしょ。

「まぁ色々と……」


 わたしは敢えて言葉を濁した。だって話せば悪い子ではないのにわたし目線で詳しく話すとヒューレットがどうしても悪い印象になってしまうんだもん。あんな風になってた理由もわかったし、彼もそれは反省して落ち着いたからそんな事言わなくてもいいんじゃないかと思うんだよね。

 落ち着いてからはナンパの指南をしてたなんて……それこそ父上に話す事では無いよなぁ。

「ふぅん……そうか」

 良かった。突っ込まれたらどうしようかと思った。わたしは心の中でほっと胸を撫で下ろした。


「済まないな。お前の方が用事があったんだよな」

 あっ、そうでした。にっこりと優しい顔で話す父上の言葉で大事な話を思い出した。

「で、話したい事があるのか?聞きたい事があるのか?」

「どちらもです」

「お前はどちらを優先したい?」

「ではまず聞きたい事を。それ次第で話す内容も変わってくると思うので」

「何が聞きたいんだ」

「コートナー伯爵家の事です」



 わたしやアイラのこれから先を左右する大事な話だ。わたしはひとつ深呼吸をして父上を見た。

「コートナー家がどうした」

 父上は怪訝な顔でわたしを見た。普段わたしがよそ様の家の話なんてした事は無いから不思議ではあるわよね。

「父上にとって……と言うか、エウレン家にとってコートナー家との付き合いは問題はありますか」

 色々考えたけど父上に取り繕った質問をしたところで、すぐに綻びを見つけられてしまうだろうと思った。なので直球で質問をぶつけてみる事にしたのだ。

「問題とは?」

「僕はセルシュと一緒によくコートナー邸に行っています。それがエウレン家に何か不都合な事にはならないのか確認をしたかったのです」

「今更だなぁ」

「……はい。今更なんですが」

 わたしの言葉に父上はくすりと笑った。まぁ、今更っちゃ今更なんだよね。普通はきっと真っ先に考えなきゃいけない事だろうしな。

「不都合ねぇ……あると言えばあるし、ないと言えばないかなぁ」

 ん?ちょっとぉ、父上?なんなのその半端な答え。そんなんじゃどう受け止めたらいいのかわからないよ。

「だってなぁ」

 一体何があるのだろう。わたしはこの後続く言葉に何があるのか息を飲んで待った。すると父上は少し拗ねた様な顔をしてわたしを見た。



「だってお前コートナー邸ばっかり行って、たまの休暇にも全然相手してくれないじゃないか」



 へ?そこですか!?コートナー家がどうこうではなくて?

「……父上?」

 わたしはつい冷めた目で父上を見てしまったけど、それは悪くないと思う。何ですかねその寂しそうな目は。

「小さい頃はいつも俺の後をついてきてくれたのになぁ」

 そんなぶつぶつ不満を言われても……。子離れも大事だと思うんですがね、父上。

「……ではコートナー家には何も問題はないって事でいいですね?」

「特にはないぞ。クライアス・コートナーは俺の下にいる文官だしな」

「えっ?そうなんですか?」

「……お前ももう少し俺の仕事に興味を持ってくれたらなぁ」

 ため息をついて残念そうにわたしを見る父上の視線が痛い。うぅっ、わかってますよ。少しは興味はあるんですよ、これでも。

「……その話はまた後日でいいですか」

 もうこうなったら勢いで話を終わらせたかった。不安要素がなくなったから少し気持ちも軽くなったし。ごめんね父上。父上の脱線話は今度ちゃんと聞きますからね。

「むぅ、仕方がないな。この話は後でゆっくりしよう」

 助かった。父上の寂しい視線が痛すぎてとっても気まずいよ。父上はため息を吐いてはいたが、この話を終わらせてくれた。


「聞きたい事はそれだけか?」

「はい」

「では次は言いたい事だな」

「はい」


 父上は先程の拗ねた様な視線からこちらの心の奥を見透かす様な鋭いものに変え、わたしもそれにしっかりと視線を合わせた。





読んでいただきましてありがとうございます。


次回の更新は19日になります。

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