62・癒し2(アイラヴェント視点2)
さて。
そろそろ聞いてもいいよね?
「クルーディス、セルシュ様?あの人達と一体何があったのかな?」
俺は二人に疑問を投げ掛けた。すると二人は俺の言葉に身を竦めた。俺は笑顔で聞いたつもりなんだけどおかしいな。
「あー…ホント、悪いとは思ってるんだ。急にあんなの連れて来て……」
「僕達も断ったんだけどね……」
ため息をこぼす二人は来た早々に疲れ切っていた。
ああ、もしかしてあの三人の押しに負けて連れて来たんだろうか。彼らもお兄様みたいに二人にしつこく頼み込んだのかもしれない。二人とも優しいからなぁ。断りきれない辺りがこの二人らしい。
そう思うと何だか少しだけ可哀想になってしまった。
「二人とも結構疲れてるみたいだし、今日はゆっくりお茶でもしたら?」
さっきからお兄様とモーリタス達は何だか盛り上がってるみたいできゃっきゃしていた。これはもう今日は弟子の交流会かなんかにして、ほっといてもいいんじゃないのだろうか。
「そうさせてもらえたらほんとに助かるんだけどな……」
セルシュ様は大きなため息をついて呟いた。
「……うん、セルシュは無理だよね」
クルーディスも諦めた様にそう言う。
「はぁ…だよなぁ」
二人の視線の先にはいつも剣の稽古をする中庭に張り切って向かう彼らがいた。
……うーん、そうだね。ありゃ無理そうだ。
彼等を見ていたセルシュ様はひとつ大きく深呼吸をして、仕方ねえなぁと言いながら中庭に向かっていった。何だかんだで本当に真面目なんだよなぁこの人。
「クルーディスは?どうすんの?」
「僕は『何もしない』って宣言済みだから、アイラとのんびり見学でもするよ」
相変わらずクルーディスはちゃっかりしていた。
中庭でお茶をしてる俺達の視界の先にセルシュ様、お兄様、あのモーリタスと、モーリタスの友達のヨーエンとダルトナム。みんなで仲良く剣の稽古をしているのが見える。
……ほんとこれどんな組み合わせなんだよ。
将来もしかしたら俺はそこの少年に断罪されるかもしれないんですけど?お兄様は弟子仲間が出来た事でとても楽しそうだ。
おーい、お兄様?可愛い妹の危機かもしれないんですけどー。
「で?なんだよこの状況」
「なんなんだろうねぇ……」
俺の質問にクルーディスは時折ため息をもらしながら遠い目をしていた。
クルーディスとモーリタスの接点が何かはわからないけど、俺の知らない何かがあったんだろうって事はわかる。でも何が?
「あのモーリタスが何でクルーディスとセルシュ様に弟子入りしてんの?」
俺は一応理由を聞いてみた。
「そうだよねぇ。おかしいよねぇ」
吐き出すように呟くその言葉には疲弊しか見えない。
クルーディスってばマジで疲れ切ってるよ。大丈夫?
でも俺が心配さたところで、何があったかは多分話してはくれないんだろうな。
出会ってからクルーディスはいつも俺が酷い目にあわない様に色々考えてくれている。
どうするとかどうしたいとかはあまり言ってくれないから、そこは少し不満だけど、クルーディスが俺の事を気遣ってくれてるのは知っているし、それはとても嬉しい。でも俺にも何かクルーディスにしてあげられる事があればいいのにとも思う。
クルーディスは疲れた表情のままぼんやりと稽古を見ていた。俺も何となく一緒にその光景を見る。
あぁ、モーリタスは騎士団長の息子だけあって基礎は出来てるのか。他の二人も同じ位の実力かな。こう見るとお兄様って基礎以前に本当に体力ない。まぁ、元々剣術なんてやってなかったし仕方がないか。兄弟子なんだし地道に頑張れ。
地道に頑張っているお兄様の横でモーリタス達はセルシュ様の剣の構えや振りの動きを揃って習っていた。離れて見ていても彼らはとても真面目に取り組んでいるのがわかる。
でも同じ様な動きをしている様に見えるのに、何だかその動きに違和感を感じた。
三人は剣を構えた時の角度がセルシュ様と違い微妙に曲がっていた。振る時にはそのズレが大きくなり、それを無理矢理修正しようとして変な力が入っている様に見える。
うーん!見ていてじれったい!
本人達は気付いてないけどセルシュ様は気付いている様な顔をしている。なんで教えてあげないのだろう。
あ、モーリタスって騎士団長の息子だから団長に剣を教えてもらってたって事か。団長直々の指導なら今直してる最中って事もあるのか。もしそうだったら下手な指導はやりづらいのかもしれない。
セルシュ様も何だかじれったそうだ。
こうやって改めて見るとセルシュ様って本当に気遣いの人なんだよね。凄いなぁ。きっとそれを本人に言ったら嫌がるだろうけど。
そんな事をつらつらと考えていたら、クルーディスがこちらを見ていたことに気が付いた。ん?なに?
「おかしい状況ではあるけどさ。今のモーリタスだったらアイラに何かする様なバカな事はしないと思うよ」
そう言ってクルーディスは笑っていた。でもその笑顔には疲れが残っている。やっぱり俺のために何か無茶したんじゃないのだろうか。
「うん……そだね。ありがと」
申し訳なく思いながらもお礼を言った。
「クルーディス疲れきってるけど大丈夫?その疲れはわたしのせい?」
だって何だか憔悴してるし元気がない。今日も無理している様で心配になる。
クルーディスは俺のせいじゃないと言いながら俺の髪を撫で始めた。するとその顔からは少し疲れが取れて笑顔になる。それを見て俺も少しほっとした。
黙々と髪を撫で、幸せそうな顔をするクルーディスが何だかちょっと可愛く思えた。
クルーディスは本当にこれ好きなんだなぁ。
一瞬、朝考えていた恥ずかしい事を思い出したけど、クルーディスが元気になるならどっちでもいいかと気にしない様にした。
「はぁ癒されるわー」
「クルーディス、言葉遣い」
「う、ごめんアイラ」
「……いいよ。わたしにしか聞こえてないし」
女の言葉になったクルーディスに注意はしたけど、よく聞くとなんだか温泉に入ったおっさんみたいな感じにもとれてちょっとおかしかった。
俺の髪が温泉の効能位効くならまぁいいか。それでクルーディスが元気になれるなら、俺も少しは役に立てている気がして嬉しいからね。
「……今日はクルーディスが満足するまでいくらでも撫でていいから」
「本当に?」
俺がそんな事を言ったらクルーディスは急に目を輝かせて、何を思ったか張り切って俺の髪をわしゃわしゃしまくった!
ちょっ!それ、思ってたのと違うんだけど!
これ『撫でる』って言わないよね!?
折角レイラが調えてくれた髪がすんごい事になってしまった。
なにされてんだ俺。
するとクルーディスは俺の髪をいそいそと手櫛で調え始めた。
……何がしたかったんだか。
でもクルーディスが本当に幸せそうにしてるからあんまり注意も出来なかった。
読んでいただきましてありがとうございます。




