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わたしの可愛い悪役令嬢  作者: くん
60/97

60・告白

 鈍いわたしでも流石に自分のこの気持ちが何なのかは理解できた。だからといってそれを言っちゃってもいいものなのだろうか。

 前の人生でも全くそんな経験のないわたしにはこういう時どうしていいのか全然わからない。



「クルーディス、あのさ……」

「へっ?なぁに?」



 もやもや考えていた時に声をかけられたもので、思わず変な声が出てしった。恥ずかしくて余計に焦ってしまったけれど、アイラはそれには気付かなかったのか、真面目な顔をこちらに向けていた。

 思ってもみなかったその真剣な表情に戸惑ってしまう。

「ア、アイラ?どうしたの?」

「……ぎゅってしていい?」

「へ?」



 何を言われたのか理解する前にアイラはわたしの横に移動して、わたしの事を抱きしめてきた。


 えっ!?何っ!?

 自分の気持ちがわかった今、こんな事をされてしまうと都合よく勘違いしそうになる。


「どっ…どうしたの?アイラっ」

 嬉しいのと困惑した気持ちを隠しながら、わたしはアイラに言葉をふり絞った。

「今日さ…俺多分ずっと嫉妬してたんだ」

「しっと?」



 何を言われているのかわからないままだったけれど、アイラはわたしを抱きしめたまま話をし出した。

「さっきのナンパみたいな事してた時とか、セルシュ様とクルーディスがじゃれてた時とか……すっごい悔しかった」

 悔しい?何が?

 あ、男の子だったから仲間に入りたかったとか?わたしはアイラが悔しがる様な事を何かしたのかな。急にそんな事を言われても、この状態がわたしの思考回路を鈍らせていて、その言葉の意味が理解出来ない。

 この状況は嬉しいけど、こういう時は一体どうしたらいいのか。知識も経験も全くないわたしにはアイラに抱き締められたまま固まっている事しか出来なかった。



「俺は同じ記憶があるクルーディスの事最初は怖かった……けど、今は側にいてくれてそれが当たり前になってたんだ」

 うん。それならわかる。わたしもアイラが側にいてくれるのが当たり前になってる。これからもずっとそうであって欲しいと思える程に。

「でもそれは当たり前じゃないんだなって思い知らされた」

 抱きしめられたままなのでアイラがどんな表情をしているのかはわからない。ただ、とても思い詰めている様な口調なのはわかる。

 でもアイラが何を言いたいのかわからないわたしには何も言えない。

「俺は前の人生は男で、今は女の子で、しかもあのゲームの悪役令嬢のアイラヴェントで……」

「うん」



 アイラは段々涙声になりながらも一言一句をゆっくり丁寧に話をする。何が苦しいのかわからないけれど、わたしにはそんなアイラの背中を優しくさする事位しか出来なかった。

「色々中途半端なんだけど……」

「うん」





「俺きっとクルーディスの事が好きなんだ。だからずっと一緒にいたい」





「え?」




 今何て言った!?



 好き!?アイラが、わたしを!?



 わたしは驚き過ぎてアイラから身体を離す。

 アイラの言った言葉が聞き間違いなのか確認したくて、思わずアイラの顔を見た。アイラは真っ赤になっていて少し涙目だった。

「うわっ!こっち見んな!」

 わたしと視線が合ったアイラはわたしよりも驚いて、その勢いのままわたしの顔面におもいきり自分の手を押し付ける。その手は狙ったかの様にわたしの顔の中心を襲った。

「ぶっ!」

「あっ!ごめんっ!」

 勢いづいて放ったその手がわたしの鼻にクリティカルヒットした事に気付いたアイラは更にわたわたと慌ててしまった。


「大丈夫?痛かった?」

 アイラは先程の告白よりわたしの顔を心配して赤くなった鼻に触れる。

「大丈夫だよ、アイラ」

「良かった……ほんとごめん」

 鼻はとても痛かったけれど、触れたアイラの手が心地良くて嬉しさの方が勝ってしまった。

 




「何かカッコ悪くなっちゃったな」

 アイラは何かスッキリした様にそう言った。

「今までの人生で初めて告白なんて事したのに……もっとカッコ良く決めたかったんだけどな。…ま、言うだけ言ったらスッキリしたんでクルーディスは気にしないでね」

 アイラはそう言ってちょっと残念そうに笑っていた。

 それは前の人生でも告白した事はなかったという事なのだろうか。何だか凄く嬉しくなった。



「ねぇ、アイラ。わたしの話も聞いてくれる?」

「ん?いいよ」

「わたしもね、前の人生では女だったし今はクルーディスという男の子だし、中途半端な人生を送ってるの」

「うん」

「最初はね、自分が誰かの人生を狂わすのが嫌でアイラに会って確認をしたかったの」

「うん」

「でも今はね、わたしはただアイラに会いたいの」

「うん」

「今日アイラとセルシュが二人で仲良くしてるのを見て凄く苦しかったし辛かった……普段気にしていないのに今日は本当に苦しかった」

 アイラはわたしの話を相づちをうちながらちゃんと聞いてくれている。わたしの言葉はちゃんとアイラに伝わるだろうか。

「わたしもね、今までの人生で初めてこんな事言うけど、アイラヴェントが大好きなんだよ」

「へっ?」

 今度はアイラが驚いてわたしの顔を見上げる。




「男の子でも女の子でもそれを全部ひっくるめた『アイラヴェント』の事が好き」




 今言いたかった事は全部言えたと思う。わたしがアイラの事を好きなんだという気持ちは伝わっただろうか。

「えっと……それは友達の『好き』とは違う?」

「うん。友達じゃなくて恋愛感情としての『好き』だよ」



 ん?



 もしかしてアイラの言う『好き』は友達として?

 うわっ、そうだったらわたしひとりで舞い上がってたって事じゃない?恥ずかしー!




「うわーまじかー!」

 アイラは両手で自分の顔を押さえて下を向いた。

 だからアイラの『好き』はどっちなの!?そのリアクションじゃわからないよ。わたしの方がリアクションに困ってしまう。

「あ、あのねアイラ……」

 アイラはわたしが声をかけたので顔をあげた。当のわたしはどうしていいのかわからなくなって思わず声を出したのだけど、何を言っていいのか思い付かずに困ってしまった。どうなんだろう。わたしの勘違いなのかな。

「ぷっ」

 えっ?何?何で笑うの?

「クルーディス、今下らない事もやもや考えてるでしょ?」

「なっ、何でわかるの!?」

「そりゃあ、いつも見てますから」

 アイラは面白そうに笑っている。やっぱりわたしってそんなに顔に出ちゃうのか。恥ずかしいなぁもう。



「安心して。俺もクルーディスの事、恋愛対象として好きだから」

「えっ嘘だ!」

「嘘って……。俺だってちゃんとクルーディスに告白したつもりなんですけどね」

 アイラはため息混じりにわたしの事を見た。今のわたしにはそれだけでも自分の顔が赤くなるのがわかる。

「だって、あの……その」


 さっきの告白は友達としてじゃない……って事でいいのかな。わたしと同じ気持ちって事でいいのかな。それで間違ってないって事?

「クルーディスの気持ちも嘘?」

「嘘じゃない」

「じゃあ両想いって事で」

 大きくかぶりを振ったわたしにアイラはにっこりと微笑みわたしの手を握りさりげなくわたしの指に自分の指を絡めてきた。

 『両想い』という言葉に嬉しいやら恥ずかしいやら。きっとわたしは今ゆでダコの様に赤くなっている。

「クルーディス可愛い」

 そう言うとアイラは繋がれたわたしの手の自分の口元に寄せ、その甲にそっと口付けを落とした。


 なんだこれっ!


 わたしは驚いてアイラから離れようとしたが、手を繋がれていて逃げられない。展開が早くてわたしの頭が追い付かない。軽くパニックなんだけど!何今の!?手にキスされた!?


「ちょっいやまってまってっ!」

「やだ待たない」

 にこにことにじり寄ってくるアイラから逃れようとしても馬車の中ではそれも限界があった。

 何でそんなに積極的なのよっ!男の子らしさが駄々漏れじゃない!


「ほっほらっ僕達立場逆だよねっ?令嬢が迫るのってどうなのさっ!」

「えー、何で今そーゆー事言うかな」

「だっだってさっ……」

 アイラは動きを止めて少し拗ねてしまった。

 こういう経験した事ないわたしにはもう色んな事が恥ずかしい……キャパオーバーで訳がわからない。

 どうして良いのかわからなくて軽くパニックしてしまった。


「仕方がないですね。わかりましたわ」

 急にアイラは令嬢に戻り、ちゃんと席に座り直した。ほっ。助かった。

「ではクルーディス様からキスしてくださいますか?」

 そう言ってアイラは自分の頬に指を向けて微笑んだ。


「うっ!」


 そんな上目遣いでこちらを見られても……可愛いけど。そう、本当に可愛いよねアイラってば。って、そーゆー事じゃなくて!

 今のわたしは混乱していて、まだそんな勇気は持てないよ!時間を下さーい!



「あ」



 ガタンと揺れて、馬車が止まったらしい。どうやらコートナー家に着いた様だった。

「あーあ残念。着いちゃった」


 アイラががっくりと肩を落とす。その姿は本当に残念そうで思わずちょっと笑ってしまった。それを見て仕方ないなあとアイラは立ち上がった。

「続きは今度の楽しみにしておきますわ」

 そう言うとアイラは繋いだわたしの手にもう一度キスを落とした。


「ではごきげんよう、クルーディス様」

 アイラは呆然としたわたしを馬車に残し、悠然と去っていった。




「どっちが男の子かわかんないよ……」




 わたしはそう呟くのが精一杯だった。





読んでいただきましてありがとうございます。

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