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わたしの可愛い悪役令嬢  作者: くん
35/97

35・モーリタス

 予想外の展開にわたしは固まってしまった。




 なんだ今の悪代官と廻船問屋みたいなやり取りは!




 何で大人がモーリタスの行動に絡んで来るんだろう。……これってわたしが思っていたよりも面倒な状況だって事だよね。

 今日はただモーリタスの顔が見たかっただけなんだけどなぁ。どうやらモーリタスを諫めて終わりなんて簡単な問題じゃないみたい。どうしよう……。



「お前どうしたいんだ?」

 セルシュはテーブルに肘をつき、にやにやと笑いながら問いかける。どうしたいもこうしたいも。

「セルシュは知ってたんだね」

モーリタスの現状もその裏も。そしてわたしの行動も。

「さぁ?俺は木陰で休みたいなーって思っただけだから」

 したり顔でそんな事言われても信じる訳がない。

 でもここでは本当の事なんて言ってくれなさそうなのでわたしはそれを諦めて情報を整理する事にした。



 彼らの様に誰かに話を聞かれても困るので、わたしはセルシュの手首を掴み逃げない様にしたまま家に連れ帰った。





「で、セルシュはさっきの情報はどこまで把握してるのさ?」

「ん?」

「とぼけないでよ。モーリタスの現状だよ」

「んー。俺が知っているのはモーリタスの事じゃなくてコランダム侯爵の噂かな」

「コランダム侯爵……」

 さっきの悪代官は侯爵だったのか!

 わたしは今までその名前を聞いた事がなかった。きっと引きこもりの弊害だろうな。


「俺が知ってるのはコランダムがチャルシット騎士団長を失脚させる為に色々画策してるって噂だぞ」

 あれ?わたしとは違う情報って事?でも状況からして根っこの話は繋がってるよねこれ。

「それでなんでセルシュが動いてる訳?」

「これは俺の独断」

「ロンディール様はご存知無いの?」

「別口で親父も動いてるけど、最近あの広場にコランダムが来てるって事を偶然知ったからちょっと覗きに行ったのさ」

 肩を竦めてセルシュは笑った。



「お前は?なんであそこにいたんだ?」

 うっ。それを聞かれると痛い。アイラの憂いを取り除く為なんて言える訳がない。

「……リストを見てさ」

「ああ、あれな」

 やっぱりセルシュもあのリストを見てたんだ。何て説明しよう。わたしはセルシュにも納得出来そうな理由を探した。

「その中のモーリタスの欄の印を見てさ、どういう子なのかなーって……」

 うーん、理由としてこれはちょっと弱いよなぁ。これじゃセルシュもわたしの行動に疑いを持っちゃうよ。

 でもゲームの話をする訳にもいかないわたしにはこれが精一杯だった。

「ふぅん……」

「ほら、ランディスならあんなだからあの印の理由もわかるけど、一般的な対象者の理由ってあれとは絶対違うはずじゃない?」

 ああもう取り繕う程理由が胡散臭くなる。わたしにはもうセルシュを納得させる様な言葉をこれ以上用意できないよ。セルシュも訝し気な表情でわたしを見てるし。

「……ただの興味本位デスヨ」

 わたしにはもうこれ以上の事は言えなかった。この理由も間違ってはいないから見逃して下さいよ。



「……まぁいいか」

 セルシュはこれ以上は追及してこなかった。ほっ、助かった。



「モーリタスは大体コランダムがあそこに来た翌日に従者と一緒に来るぞ」

「そうだったんだ」

 それじゃ今日は待ってても会えなかったって事か。にしても詳しいな。

「何?そーゆー決まりでもあるの?」

「なんでかあのツィードとかいうのがコランダムと会った翌日には必ずモーリタスと一緒に来てるんだよな」

「はい。その通りにございます」

 いやだから何でセルシュはシュラフとそんなに親密なんですかね?しかもセルシュの行動の元はシュラフからの情報っぽくない?シュラフのその情報量の凄さはなんなんでしょうね。



 まぁ、ひとまずその事はおいといて。

 そのモーリタスの行動ってなんなんだろう?それは何かのルールだろうか。

「それじゃ明日は必ずモーリタスがあそこに来るんだね?」

 あの場所が鍵なのかな。きっとあのツィードっていうのが連れて来てるんだよね。あそこに何かあるのかな。ちょっと探ってみた方がいいのかな。

「行かない方がいいんじゃねーの?」

 うっ!セルシュもわたしの思っている事わかるのか!

 わたしの周りって凄すぎないかい?それかわたしがよっぽど顔に出ちゃうのか。

「うう……そうかもしれないけどさ、気になるよ」

「行けば絶対面倒ごとに巻き込まれる」

 セルシュは重くひと言告げた。

 そうだよね。『かも』とかじゃなく確実に巻き込まれるよね。わかってるよ、わかってるんだけどさ。わたしだって面倒なのは嫌いだし避けたいんだけどさ。

「……それでも行く」

 子供だから大した事はできないけれど報告位なら父上やロンディール様の手伝いにはなるかもしれないし、何よりアイラの為だもの。

「じゃあ明日はもう少し早い時間に行くからな」

「えっ?」

「クルーディスだけじゃどーせ何も出来ないだろうし。俺も付き合うよ」

「あ、ありがとう」

 何だかんだでセルシュは優しいね。本当にありがたいし頼りになるわ。もう拝みたくなっちゃいますよ。なむなむ。




 わたしとセルシュは翌日また『いこいの広場』に来ていた。

 今日はいよいよモーリタスに会える。

 昨日のコランダムと従者のツィード。モーリタスは彼らに何を求められてどんな行動をしているのか。少しでも何かわかれば御の字だ。


「あいつらは昨日侯爵がいたところに座るから俺達はここから見学だ」

「え?そりゃあ顔は見えるけど、ここからじゃ声聞こえないよね?」

 セルシュの指示した場所は少し離れた別の木の下のテーブルだった。これじゃモーリタスの話が聞こえない。

「それは何とかなるから気にすんな」

 そんな爽やかにウインクされても困るんだけど。

「何とかなるの?」

「そ、だから俺らはあいつらに気付かれない様に顔を拝むだけ」


「それも大事だけどさ、やっぱり昨日の場所の方が話が聞けていい様な気がするんだけど……」

「あのテーブルは元の位置に戻したから今はもうないぞ」

 セルシュはわたしの提案に肩を竦めた。

「どういう事?」

「あそこのテーブルは俺がうちの奴らに頼んでこっそり用意したんだ。普段はあんな変なとこにはテーブルなんて無いのさ」

「そうなんだ……」

 わたしはセルシュの用意周到さに感心する事しか出来なかった。



 まぁ納得は出来ないけど仕方がない。わたしはセルシュに言われるがままそのテーブルに腰かけた。顔を知られたくないのは確かだしね。

 暫くすると遠くの方から賑やかな声が聞こえてきた。

「来たぞ」

 わたしはそっとセルシュ越しに昨日のテーブルを見た。するとそこに少年が3人と従者が一人やって来た。多分あれがモーリタス。


 ゲームの面影があるその少年はアイラヴェントより明るい茶色の髪の色をしている。顔はゲームでは元気な可愛い感じだったけど、今は面影はあるのに何か暗いイヤな感じの顔だった。

 環境によって人の顔立ちって変わるんだなぁ、なんて場にそぐわない感想が出てきてしまう。


「向かって右からモーリタス・チャルシット、ヨーエン・ソニカトラ、ダルトナム・メルリスだな」

 しまった。他の二人は気にしてなかったな。

 でも何か何処かで聞いた事が……あ。


「あれ、もしかして三人とも同じだっけ?」

「そう。議会のチェック対象者」

 って事は他の二人も侯爵家って事か。

「三人は元々仲がいいのかな」

「そうだな。俺もパーティーでつるんでるの何度も見てるし」

 三人はあのテーブルを囲み楽しそうに話をしている様だ。


 あんた達がくだらない事するから大変な事になりそうなのに!なんて、呑気に話をしている彼らを見て愚痴りたくなっても仕方がないよね。

 それは兎も角、その横に立っている従者……多分あれがツィードだよね。彼は横で時々話に加わり一緒に笑っていた。



 暫くすると彼らは席を立ちその場を後にする。わたし達は見過ぎないようにしながらもずっと目で追っていた。三人が去り、その後に従者が去る。

「あれ?何してんだろ?」

 ツィードは何かをポケットからさりげなく足元に落とし、足早に去っていった。

 それが何か気になるが、セルシュはまだ動くなと言うので仕方なくわたしは座ったままでいた。

 暫くするとそこに広場の警備員が見廻りに来た。その警備員は先程ツィードが落とした何かを拾いポケットにしまって何事もなかったかの様に去っていった。

「……拾われちゃったけど」

「そうだな……シュラフ」

「かしこまりました」

 いつの間にかわたし達の側に来たシュラフはセルシュに一礼をしてまたその場を去った。

「何?どういう事なのさ」

「さぁ帰ろうぜ。クルーディスの家でシュラフの結果を待とう」

 何かよくわからないけどセルシュはシュラフに何かを頼んでいるって事なのかしら。なんで二人はそんな阿吽の呼吸で動いているのよ。わたしは置き去りですか。そーですか。




 何度も言うけどシュラフはうちの子なんですけどね。





読んでいただきましてありがとうございます。

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