20・駄々っ子
近頃何故かセルシュが遊びに来る事が増えた。
別に構わないけどどうしたのだろう。暇なの?と聞いたらそうさと答えられたのでまぁいいんだけどね。
勉強サボって遊びに来てるんだったら、こっちまで怒られる羽目になるからそれだけは避けたかった。
セルシュのお父上、ロンディール様はどこの子でも悪い時には平等に怒る強者だ。
わたしも何度かゲンコツをもらった事があるけど、あれ凄く痛いんだよね。一度王子もやられたらしい。懐かしい日本の親父って感じの、怖いけど頼りになる人なのだ。
セルシュは我が家に来てわたしと一緒になって勉強や剣術の稽古をしていく。自分家の家庭教師は大丈夫なのかなぁ。まぁリーンフェルトは喜んでいるからいいけどね。
今日も朝から我が家で一緒に剣術の先生に付いて稽古をしていた。
「何でうちで稽古してんのさ」
「ひとりじゃつまんねーじゃん」
まぁ確かにそれはあるか。
学校に行くまではみんな家庭教師が教えてくれるから家から出る事もあまりないし、パーティーすら出掛けないとわたしの様に知り合いも少ない引きこもりになっちゃうもんね。
誰かと話すのはやっぱり楽しいし刺激になる。営業職だったわたしは月-金は必ず誰かと話してたしそれはとても楽しかった。
自ら引きこもりになりたいのじゃなかったらひとりはつまんないし寂しいよね。
わたしはセルシュと一緒に剣の稽古をして汗を流しへとへとになった。
セルシュは剣術が得意でわたしはまだまだ足元にも及ばないけど、一緒に稽古をしていると負けたくない気持ちが働いていつも以上に頑張ってしまう。わたしって負けず嫌いなんだなぁと自覚もした。
「セルシュ様は本当に筋が良くていらっしゃいますね」
結構実力のある先生がセルシュを誉めているのを見ると余計に次回こそはと悔しくなる。剣術は好きだから尚更だ。
「クルーディス様も成長はしておられますが、もう少し筋肉がつけば剣先もぶれずに振れるかと思いますよ」
まだなよっちいわたしの筋肉は子供としては仕方がないのかもしれないけど、ひとつしか違わないセルシュの筋肉はわたしと全く違う、努力している人のものだった。
セルシュはきっと見えないところで頑張っているんだろうな。
ちらりと横目でセルシュを見ると、頑張れよと微笑まれた。
くっ!何かムカつく!
腕立て伏せとかしたらいいのかな。なんて言ってみたところで面倒臭いからきっとやらないだろうけど。
「う、頑張るし」
わたしがそう答えて今日の稽古は終わった。
妹のリーンはかいがいしくセルシュのお世話をしている。
リーンも頑張っているようでとても微笑ましい。今はお風呂で汗を流すよう案内をしているようだ。
「クルーディスも一緒に入るか?」
「いーやーだーよっ」
セルシュが笑いながらそんな事を言い出したのはきっと兄貴ぶって筋肉を自慢したいのだろう。そんなのは断固拒否だから!
さっさとわたしは自分の部屋のお風呂に入り、軽く汗を流し着替えてさっぱりした。
「おっそいぞ、クルーディス!腹へったー」
あれ?ここわたしの家だよね。
食堂に入るとセルシュは早々に席についてリーンと共にわたしの事を待っていた。
「なんか我が物顔だし……」
「いーじゃん。俺の別宅だし!」
わたしは早々に文句を言うのも諦めて席についた。両親は出掛けているので三人で食事を摂る。
「なんかいーよなお前ん家って。和むわー」
「別に普通の家だけど?」
「違うんだよ。なんつーか雰囲気がさ、まったり出来るんだよ」
シュラフに以前聞いたけど、近頃のセルシュはお父上の仕事について貴族の家に行く機会が増えたそうだ。きっとそういう時は気を張ってゆっくりは出来ないのだろう。
仕事なんだから当たり前なんだけどね。
「逆にそれはうちに通い過ぎて緊張感が保てないだけなんじゃないの?」
「あー、そうかもな。まぁ気にすんな」
気にするわ!もしかしてそんな事から逃げる為にうちに来てるんじゃないでしょーね。
「大丈夫だよ。ちゃんと親父には断ってあるから」
わたしの心配がバレバレだったようでセルシュは笑顔でそう答えた。
「ならいいけど」
食事を終えるとセルシュはさっさとわたしの部屋に入っていく。
だからここは誰の家なんだってば!
「なぁなぁ最近どうなんだよ」
椅子に座るなりセルシュはわたしを問い詰める。
何となく言いたい事は想像つくけど、わたしはそ知らぬ振りをした。
「何が?」
「ほら、例の令嬢だよ!」
「それね……」
だと思った。まず主語を言ってよね。そんなんじゃ答えてなんてやんないよ。
「今度はいつ会うんだよ?」
何を急に興味持ってんだろう。セルシュに教える義理はないはずだけど?
まぁ別に今は会う予定もないんですがね……。
「さぁ。約束とかしてないし……」
「えー、何だよ俺にも会わせろよ。どんなのがお前の好みか知りたいじゃん」
「知りたいじゃんって……セルシュが知ってどーすんのさ」
「だって俺も見たいし」
ちょっと……何でそんな駄々っ子なんだよ。セルシュには全く関係ないでしょうに。何がそんなに気になるのよ。
「それじゃ会うと決まっても教えない」
「なー頼むよ、クルーディス。俺とお前の仲じゃんか」
「ちょっと……なんの懇願なのさ、嫌だよ」
なんかあの子がセルシュに影響されてスレた子になりそうじゃない。そう思うと余計に嫌だった。セルシュは見た目は爽やかな格好いい男の子のなのだ。
元男の子のアイラはきっと仲良くなれるだろうけど多分に影響も受けちゃいそう。セルシュのこーゆー悪い所に影響なんてされてほしくない。
「あ、そうだ。呼べばいーじゃん」
「なっ何言ってんの!?」
「そーだよ、リーンもいるし二人が友達になっちゃえば問題なく遊びに来れるじゃん」
「だっ駄目だよっ。アイラもリーンも外には出ないし人見知りだし!父上にも母上にも知られたくない!」
謎のセルシュの提案にわたしは大慌てで拒否をする。なに名案思い付いたみたいな顔してんのよ。
「何でおっさんに知られたくないんだ?」
うっ。……知ってるくせに。
両親はわたしが自分で気に入った令嬢を探すのを心待ちにしているのだ。もしアイラがうちに来て両親に会ったらそのまま婚約一直線なんて流れになりそうで怖い。
ゲームの事を考えるとそれは避けたい。
わたしとしてはゆっくりアイラと仲良くなって、その辺の事はアイラの気持ちを考慮したいんだってば。
「しゃーねーな。んじゃこっちから行くか!」
「だから何で!?」
「まぁまぁいいから俺に任せなって」
ちょっとー!?何でセルシュがシュラフに色々指示出し始めてんのよ。
シュラフはうちの子なんですけどー。
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