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わたしの可愛い悪役令嬢  作者: くん
14/97

14・夢(アイラヴェント視点1)

アイラヴェント側からのお話です。


よかったらお付き合い下さい。




 ああ、またあの夢だ……。





 夢の中の自分は男で今年高校に普通に合格し、普通に学生生活を楽しんで今は丁度夏休み。

 俺は母親と姉貴と三人暮らし。母も姉も働いているので俺が一番立場が弱い。俺もバイトがしたかったが、うちの女帝達はまだ早いと許してはくれなかった。何だか過保護な気がするぞ。


「あんたさ、暇ならこのゲームやって内容教えてくんない?」

 姉貴は俺に封も切っていないゲームを渡してきた。そのゲームのパッケージは可愛い女の子をセンターにしてキラキラした王子様っぽいキャラクターが囲んでいた。『花となりて愛を誓う』?なんだこれ、いかにも女の子が喜びそうなキラキラしたタイトルだな。



「何だよこれ。姉貴ゲーム位自分でやれよ」

「私は忙しくてそんな暇ないの」

「んじゃなんでこんなの買ってんだよ」

 ゲームする暇もないやつが何でゲームなんて買うんだよ。何無駄金使ってんだか。

「私の憧れの先輩がこのゲーム持ってるのよ。先輩と話す切っ掛けにするんだからテキトーにやっちゃダメよ!」

「はぁ?姉貴、ゲーオタの変な男に憧れてんの!?」

「違うわよ!仕事もバリバリ出来る格好いい女性だよ!」

「……ソウデスカ」

「かっこよすぎて用事がない限り話す事なんて出来ないのよ。仕事以外で話するなら共通の趣味があった方が近づけるでしょ!」

「えー?でもその人ゲーオタなんだろ?憧れるか?」

 何だよその理屈。姉貴頑張る方向性間違ってないか?

「ばっかねー!先輩はそういうの表立って話してる訳じゃないのよ。……この間電気屋でこれ買ってたのを見かけただけよ」

「……姉貴ストーカー?」

「違うわよっ!たまたまよ、たまたま!」

 姉貴は焦ったのか怒ったのかわからないが、その辺にあったクッションを俺の顔面にぶつけてきた。……姉貴、ストーカーはよくないぞ。

 とにかく頼んだわよ。そう言って姉は外出して行った。



 会話ならもう少し一般的なネタで頑張りゃいいのに……姉は残念な思考回路をしているな。気に入られたその先輩も災難だ。

 そんな事を思いながら早速ゲームを始めた。




 ゲーム自体はヒロインが学園に入学して1年の間に『攻略対象』のヒーローをゲットするというものだった。

 ヒロインはドジでおっちょこちょいなそれでも皆に愛されている美少女。『攻略対象』はそんなヒロインにほだされて恋に落ちる。まぁよくあるやつだよな。

 1年で両想いになったらハッピーエンド。そこ迄いかなければ友達エンド。気合いを入れて頑張ればハーレムエンドになるらしい。

 ハーレムって何だよ。どの相手とも付き合うって事か!?6股推奨なのか!?ヒロイン怖ぇー。


 帰ってきた姉貴にゲームの流れを伝えると、取り合えずハッピーエンドだけでいいとお許しをもらった。やるべき事が少しだけ減った気がして気持ちは少し楽になった。兎に角俺は夏休みはこれを頑張る事にしよう。





「めっちゃキツい……」





 取り敢えずハッピーエンド目指してやり始めたが、何だよこのキラキラ感!色んな意味でキツかった。なんつーかこう、ハズカシイ。

 台詞もいちいち『美しい可憐な蝶が私の所に舞い降りた』だの『貴女のその瞳に映るのは私だけであって欲しい』とか『花の様に儚い貴女の全てを護る役目を賜る事を許して下さいますか』とか……すげーわ。

 きっとこーゆーのが女の子に喜ばれんだな。俺には絶対言えんけど。





 俺は三週間かけてようやっと六人を攻略した。まるで拷問か罰ゲームの様だった。折角の夏休み無駄に過ごしてしまった感が……。

 しかし俺は姉貴に教えるためにせっせとメモを取り、イベントもそれぞれ頑張った!俺偉い!



 結果としてダントツで王子が甘かった!

 いちいち台詞がキラキラしてる。流石王子だな。次は公爵の息子。その次が隣の国の王子で、宰相の息子、最後に騎士の息子に侯爵の息子かなぁ。

 まぁどれもこれも甘いのには変わりないか。俺にはそんなキラキラは縁もゆかりもないもんな。きっと女の子はこういうのに憧れているんだろう。



 このゲームではどの『攻略対象』もタイトルにある『花』を使ってヒロインを褒めたり例えたりしてるんだけど……俺には全く花の種類がわからない。何か小難しい名前が出るともうお手上げだ。せめてチューリップとか桜とかタンポポとか、俺にもわかる花を使ってくれよ。最近の花は小洒落た名前ばかりでついていけないよ。

 仕方がない、姉貴にはその辺は黙っておこう。説明を求められても俺にはさっぱりだしな。



 それにしても、ヒロインのライバル令嬢がそれぞれ悲惨過ぎて泣けてくる。酷いのだと殺されたり意識が保てない位打ちのめされて死んじゃったり投獄されたり追放されたり……ある意味バラエティーに富んだ残酷さだったなぁ。それを気にしないでヒロインと攻略対象はきゃっきゃうふふと幸せになるって……トンでもないゲームだ。

 ライバル令嬢救済措置なんてのはないのだろうか。

 姉貴にその話をしたらヒロイン有りきだからそんなもんなんじゃないの?と流されてしまった。




 まぁそうなんだけどさ……。







 白いカーテンから陽の光が差し込んでいる。その光を感じて外は爽やかな朝なんだと気付く。

 外が爽やかな分、俺は余計に気分が落ち込んでしまう。


 いつもこの夢を見た後は重い気持ちで目が覚める。来るかもしれない嫌な未来の映像が俺の中にはっきりと残っていて俺は身体を起こすのも面倒になる。




 ある時から急に変な夢を見る様になった。何故かはよくわからない。

 この世界にはテレビだってゲームだって無いのに俺はそれを知っていたし使っていた。しかも女の子な自分が男子高生なんて事も何故か当たり前の様に受け入れる事が出来た。逆に今の自分が異質なものの様に思えてきた。

 今までの女の子だった自分を否定するつもりはないけれど、外にも出られない程人と関わり合いたくなかったのは、男だった自分の『死』の記憶がどこかにあったからなのではないかと遠くで思った。



 高校生だった俺はもういない。あの時やっぱり死んじゃったんだろう。



 俺は学校帰りに交差点で信号無視した車に跳ねられた。あの瞬間の絶望感と恐怖と痛みは今でも残っている。もう死にたくない。死ぬなら天寿を全うしてからがいい。


 しかし、俺のこの記憶が嘘ではないならここはゲームの世界。俺は『悪役令嬢』の『アイラヴェント』なのだ。条件が揃えば学校に入った年に死んでしまうかもしれない未来がやって来る。

 それだけは嫌だ。ゲームの『アイラヴェント』の末路を同じ様に歩きたくはない。

 俺は自分でそれを回避するためになんとかしなければならなかった。でも、どうやって……。



 そんな時にクルーディスに会えた。あいつもゲームの記憶と前の人生の記憶があると言った。あいつが将来的に俺を殺す事になるのかもしれないけれど、俺のこの記憶の事を聞いてもらいたかったし、この辛さを理解して欲しいと思った。



 俺はあいつも同じ様に記憶がある事が少し嬉しかった。



 そんな事をつらつらと考えていたら、いつもの侍女がノックをして部屋に入って来た。

「おはようございますアイラヴェント様。本日はお目覚めがお早いのですね」

「んー。動きたくない……」

 もぞもぞとしている俺にレイラが声を掛ける。俺は重い気持ちが身体にまで影響しているようで、ベッドから出るのがとても億劫だった。このまま沈んでしまいたくなる。

「まぁそれではランディス様のお出掛けを放置してよろしいと?」



 そうだった!



 この間のパーティーでクルーディスに会った事をお兄様に話したら、何か勘違いをして浮き足立ってクルーディスに挨拶に行くと手紙を出していた!

 お兄様はクルーディス側の都合で今日出掛けると言っていた。

 あの兄はいつも先走りし過ぎて空回りをしてしまう残念な性格なのだ。何度もクルーディスとはちょっと話をしただけだと言っても全く聞いて貰えなかった。

 あのままの勢いではお兄様は絶対クルーディスに迷惑を掛けるだろうと思って、彼宛に謝罪の手紙を徹夜で書いたのだ。

 是が非でもこの手紙は渡して貰わなければいけない。どうせお兄様は色々やらかすに決まってる。

 手紙で先に謝っておけばクルーディスもそんなには怒らないだろう……怒らないかな……怒らないといいな。



「そうだ!お兄様が出掛ける前にこの手紙を渡さなきゃ!」

 俺は慌ててベッドから飛び起きた。急いで顔を洗うと侍女のレイラは心得たとばかりに俺の身だしなみを整え始める。ドレスから髪型迄完璧に愛らしさを引き立てていく。

 レイラは子供の頃から自分のお世話をしてくれている頼りになる女性で、姉の様な存在だ。男だった時の姉貴程恐くはないが、怒らすと姉貴以上におっかない存在なのだ。


 そうこうしているとレイラの手で鏡の中のアイラヴェントは可愛らしく仕上がった。



「毎日こんな可愛く仕上げるってトンでもないテクニックだよね……」

 俺は鏡に映るアイラヴェントを見て本当に感心してしまう。

 自分で言うのもなんだがアイラヴェントは本当に可愛い。栗色の巻き毛にぱっちりした瞳、筋の通った鼻に愛らしい唇。まるでお人形の様だな、他人事の様に思う。

 こんなに可愛いのに大きくなったらキツい悪役令嬢になってしまうのか……。


 考えたくなくても毎晩のように見るその夢では、ゲームの中でアイラヴェントが悪役として大活躍して、最後には必ず酷い目にあうのだ。

 最初はたかがゲームの夢と思っていたけど、そのゲームに出てくる面々が今の自分の世界に実在しているのだ。たかがなんて言ってられなくなってしまった。




「お褒め頂きありがとうございます。アイラヴェント様、急ぎませんとランディス様が前倒しでお出掛けなさってしまうかもしれませんよ」





 そうだった!まずは手紙を渡さなきゃ!






アイラヴェント視点のお話は暫く続きます。

良かったらお付き合い下さい。


読んでいただきましてありがとうございます。

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