獣人の国へ
次に目指す国は獣人の国エレファランドだ。
マリナの故郷でもある獣人が多く暮らす国で、王政の国ではなく共和制の国だ。
各種族の族長が話し合って物事を決めているらしい。
種族は主に猫獣人、犬獣人、鳥獣人、鼠獣人、熊獣人がおり、その他の獣人も少数ではあるが暮らしている。
容姿については個人差はあるが、猫獣人や犬獣人が顔がヒューマンに近い見た目をしており耳や鼻が動物の物で、胴や腕の他の部位はヒューマンに近くお尻から尻尾が生えているのが特徴だ。
鼠獣人、鳥獣人、熊獣人に関しては動物の顔にヒューマンの体といった感じだ。
鳥獣人は腕とは別に背中から羽が生えているし空も短時間なら飛べるらしい。
鼠獣人はとにかく小さく多産で人数が一番多いのも鼠獣人だ。
熊獣人は鼠獣人と違い大きい。縦も横も大きく巨漢体型だ。
見た目がヒューマンに近いのは猫獣人と犬獣人だけだ。
各種族とも得意なことが違うので、長所を生かしながら国を運営しているようだ。
僕が親書を渡すのは各族長の代表で族長代表と言われる人物に親書を渡す。
エレファランドは農業や畜産の盛んな国で他国に食料を輸出していることでも有名だ。
獣人の特徴の鼻を生かした農業で強い種を選別していった結果、大きく育ち病気に強い作物が大量に作られている。
栄養満点の飼料で育てられた牛や豚や鶏は各国からの評価も高い。
さらにドーン川から水を引いているので干ばつに対しても強い。
ドーン川はエルフの国と獣人の国の間を流れている幅が百メートルはある大きい川で昔は舟で渡っていたが、今ではドワーフの技術で橋が架けられたらしい。
僕も実際には見た事が無いのでどんな橋なのか楽しみだ。
そんなことを考えながら御者をしていると、前方に何やら人の集団が見える。
「おや、何かあったかな」
僕がそうつぶやくと爺やが「見て参ります」と駆け出した。
馬車を止めて様子を伺っていると爺やが戻ってきた。
「坊ちゃまどうやら先日の大雨の所為で川が増水し、橋が一部壊れていて通行できないようです。
川を渡るには舟で行くしかないようで、その順番待ちの列ができているようです」
なるほど、橋が壊れているのか。
マリナを早く獣人の国に連れて行ってあげたいけど、これは舟を待つしかないか。と考えているとリリアが、
「私ひょっとすると橋を直すまではできませんが、通行できるようにする事はできるかもしれません」
「ホントに! じゃあちょっと見に行ってみようか」
そう言うと僕らは橋の方へと向かった。
「参ったな」「早く荷物を届けたいな」「腹減ったなー」「いつまでかかるんだ」
橋の近くに行くと五十人くらいの人が船着き場の前で並んでおり騒がしい。
話を聞いてみると以前はもっと舟が出ていたらしいが橋ができた為、船の数が減り、今では小さい観光船が出ているだけなので、舟での移動にも時間がかかっているようだ。
橋の修理は現在ドワーフの技師が修理に向かっているらしいが、到着は明日になるらしい。
リリアと橋の壊れた部分を見に行く。
橋は幅が十五メートルはある大きいものだった。驚いたことに木製である。
だがその立派な橋の中央が残念ながら十メートルほど途切れており渡れない。
「これなら防御魔法の『防御壁』の応用で、渡るだけなら何とかできそうです」
『防御壁』って身を守る為の小さい結界だよな。そんなのでいけるのかな。
「行きます!」とリリアが集中する。
『身を守りし壁、顕現……範囲拡大……固定……発動』
リリアの前に半透明の壁ができたと思ったら橋の壊れた部分を補う様に伸びていき固定される。
おお! すごいな! こんな大きな『防御壁』は見たことないぞ!
「ここまで大きくすると攻撃魔法などには弱くなりますが、人が乗ったり馬車が通る程度の強度はありますので問題ありません」
さすがエルフの巫女様だな! 僕も『防御壁』は使えるがこんなに大きくするのは無理だ。
人々が固唾をのんで見守る中、僕は馬車で恐る恐る『防御壁』の上を渡る。
大丈夫だとわかっていても半透明の『防御壁』の上を通るのはさすがに怖い。下が見えてるしな。
僕が『防御壁』を渡り終えると、オオー! と人々の歓声が聞こえ、船着き場に居た人たちが我先にと橋に押し寄せる。
「皆様が渡り切るまでは『防御壁』を維持できますので、慌てずゆっくりお渡りください!」
リリアの声があたりに響くと、押し寄せる人々は落ち着きを取り戻し順番に渡り始めた。
対岸に居た人々も同じように渡り終えると、リリアが『防御壁』を解き「ふぅー」と汗をぬぐった。
「助かったよリリア、それにしても『防御壁』をあんなにも大きく展開できるなんてすごいな」
「巫女になるために色々鍛錬致しましたから、皆様のお役に立ててよかったです」
そんなことを話していると、
「いやあ あんたたちのおかげで助かったよ。今朝捕れたばかりの活きのいい奴、もしよかったらもらってくれ」
と漁師達がアマーゴを大量にくれた。マジックボックスがあるからいいけどすごい量だな。
漁師達にありがとうとお礼を言いマジックボックスにアマーゴを入れていると、爺やとマリナの目がきらりと光ったのを僕は見逃さなかった。
「このアマーゴをどうするかはリリアに決めてもらいます」素早くそう宣言する。
爺やとマリナが「しっおやき!しっおやき!」と呟きながらリリアの方に詰め寄る。
「ば、晩御飯はアマーゴの塩焼きにしましょうか」
リリアが二人の迫力に気圧されたように言うと、爺やとマリナが手を胸の前で重ね合わせ、ぴょんぴょん跳ねながら「やったー」と喜んでいる。
じ、爺や年を考えなさい! 爺やは時々お茶目さんになるのだ。
ドーン川を渡りしばらく進むと辺りが夕暮れに染まる。
「そろそろ野営の準備をしようか」
「では私は結界を」と爺やが結界を張ってくれる。
「僕は塩焼きの準備をするか」
「ティム塩焼き格別……」
「ふっふっふ、僕の塩焼きは特別だぞ。塩の振り方と火の当て方にコツがあって……」
と説明しようとすると「早く……」と急かされた。
くっ! 長年の研究の成果を語りたかったのに!
「そんなにおいしいんですか?」
とリリアがマリナに聞いている。
マリナが足元を指さし「普通の……」
「ティム……」ぴょんぴょん跳ね自分の頭上をさす。
「あらあら、そんなに違うんですか? それは楽しみです」
ふっふっふ、期待してくれ。
アマーゴの塩焼きが焼け皆で食べ始める。
「た、たしかにこれはおいしい……かぶりついた時の皮のパリパリ感に加え素材の持つ淡白な味わいを壊さない絶妙な塩加減さらに身がパサパサせずにジュウシーに仕上がっている焼き具合……神……」
おいおいリリアがちょっとおかしくなってるぞ。
神とか言っちゃってるし。
「無粋……」
「そうですね。言葉は無粋、ただ味わうのみですね」
なんかマリナとリリアが頷き合っている。
その横で爺やが微笑ましいものを見る目で頷きながらアマーゴの塩焼きを食べている。
僕はひたすら焼く作業に没頭した。
何本ぐらい焼いただろうか、もらったアマーゴはまだまだあるが結構な量を焼いたな。
「す、すみません私ばかり食べてしまって」
食事を終えくつろいでいるとリリアが申し訳なさそうにそう言った。
「いやいや僕も結構食べたし、喜んでもらえてよかった」
「ところでリリアは獣人の国はどんなところか知っているか?」
「人から聞いた程度の話ですが、なんでも王政の国ではなく共和制の国だとかあと農業や畜産も盛んですね」
「そうそう、それにもうすぐ一年に一回の奉納音楽祭があるらしいよ」
「奉納音楽祭ですか?」
「ああ、なんでも獣人の国を興した獣人王という伝説の獣人に感謝と共に音楽を捧げる祭りで、国民全員が参加する盛大なお祭りらしいよ。もちろん国民以外でも見学できるらしいから、僕らもお祭りを見学してからドワーフの国に行くのありだな」
「あらあら、それはいいですね! 今から楽しみです」
和やかな雰囲気を堪能しているとマリナがエルフの国でもらった羽のピアスを見せながらやってきた。
「使い方……」
「羽のピアスの使い方か、よし! やろうか」
「マリナは羽のピアスを使うのは初めてか?」
「初めて……」
「魔力認識の練習はしてるか?」
「毎日……」
「そうか、それなら魔力を全身に循環させながら魔力の一部を羽のピアスに送りつつ、羽のピアスには魔力を溜めるイメージで魔力を循環してみて」
マリナが集中して魔力を循環させる。
「結構やることが多いから難しいぞ。ってうまいな! うまく羽のピアスに魔力を送れてるぞ」
「よし! 次は羽のピアスに魔力を溜める」
「難……」
「大丈夫! できてる。よし! そのまま羽のピアスを感じつつ宙に浮くイメージを」
僕がそう言った途端マリナの体がゆっくり浮上する。
「す、すごい才能だわ! 初めてでこんなに羽のピアスを使いこなすなんて!」
リリアがすごい驚いているが、僕もすんごい驚いている。
普通だと宙に浮くまでに一週間はかかるはずだ。
風魔法と相性がいいのかもしれないな。僕も火、氷、雷とは相性がいい。
他の魔法も使えるが、火、氷、雷の魔法を使った時の、「ああ、やっぱりこれだな」という感じが他の魔法を使った時と違う。
「よし! 今日はこの辺にしとこうか」
「浮いた……!」
珍しくマリナが興奮している。
「初めてで浮くなんてすごいぞ。これを続けていくと浮いたまま移動出来たり、素早く移動出来たりする。さすがに空高くは飛べないと思うが、マリナの才能ならひょっとしたらできたりしてな」
「頑張る……!」
ホントにひょっとしたらマリナなら空高く飛べるかもな。
「マリナ様おめでとうございます。魔力の扱いがお上手になりましたね」
爺やがいつの間にか近くに来ていてそう言った。
「ありがとう……」
「さて皆様夜も更けてまいりましたのでそろそろお休みになられるのが良いかと」
そう言いつつ爺やが皆に『清浄』の魔法を掛けてくれる。
「そうだな。明日も早いしそろそろ寝るよ」
それにしてもマリナは将来すごい魔法使いになるかもしれないな……。
僕も負けてられないなと思いながら床に就いた。