リリアの晴れ舞台
僕が警戒態勢を解き周りを見渡すと、リリアが興奮した様子で僕に近寄り僕の手を取る。
「ティム様は幼い頃、妖精隠しに遭っていませんか?!」
おおう! 顔が近いな!
「あぁ、五歳の頃に」
僕がそう答えると。
「なるほど! なるほど!」
そうい言いながらリリアは顎に手をやりながら何やら考え込んでいる。
「この魔力の感じはやはり……」
などと呟いているが、一体どうしたのだろうか。
「あのギルベルトをこうも容易く退けるとはティム殿、あなたは一体……それに爺や殿のあの技は……」
ヴィクター隊長が訝し気にそう言うが、
「ホッホッホ、詮索は無用ですぞ!」
「無用……」
爺やとマリナがお互いを見つめ「ねー」といいながら首を傾けている。
マリナは似合うが爺や……。
その後は魔物や裏ギルドに襲われることもなく無事に村に着いた。
「今日はこのまま宿で一泊し明日出発いたしましょう。ノーラは私と交代で巫女様の警護だ」
そう言うヴィクター隊長に僕は、
「隣の部屋で寝ますので、何かあればすぐ連絡ください」と言い眠りについた。
特に何事もなく朝を迎え、エルフの国へ向かう。
エルフの国へは僕達の魔法馬車で向かう事となった。
また治療院の三人については傷は治ったが、まだ安静にする必要があるみたいなので、後日別の者が迎えに来るそうだ。
先程、通信石で本国と話していたヴィクター隊長がそう言っていた。
いざ出発といった所で、マリナが御者をしたいと言い出したので、僕が隣に座り教えようとすると、僕の膝の上に乗ってきた。
「特等席……」
「あら! いいお席ですね」と言いながらリリアが僕の隣に座る。
ちょっと距離が近いんですけど……。スレンダーだがそれなりにあるお胸が……。
当たっている……。
「巫女様もっとグイグイ行ってください!」
ノーラがリリアの耳元で何やらで囁いている。
エルフの国への道中は何度かゴブリンやオーク等の魔物が襲ってきたが、ヴィクター隊長が軽く屠っていた。
「はっはっは! 次ぃ!」
まさにエルフ騎士団隊長の面目躍如といったところだ。
ゴブリンやオークではお話にならない。
マリナに御者を教えている横からリリアが、
「ティム様少し質問があるんですけどよろしいですか?」
「かまわないぞ」
「では一問目、エルフの女性の印象は?」
い、一問目?
「スレンダーで綺麗な人が多い印象かな」
「二問め、巫女という職業についてどう思いますか?」
「僕の国には巫女はいないけど、なんとなく神聖な職業のイメージかな」
という感じで質問に答えていった。
「三十問め、結婚する相手の年齢はどのくらいが理想ですか? 自分より若い子、年上、同い年」
「同い年かな、ってこの質問何問あるの?」
「あと二十問ですが、何か?」
「い、いやまぁ少しっていうから何問あるのかなぁと……いえなんでもないです」
リリアの目が笑っていない笑顔に、気おされてしまった。
「はい、質問は以上です。ありがとうございました」
おいおい、何だったんだこの質問は何かの役に立つのか?
「結構多かったな、何かの役に立つの?」
「ええ、まぁ今後の指針と言いますか……女には色々あるのです」
「そ、そうなんだまぁ頑張って」
よくわからないがエールを送ってしまった。
「二人だけイチャイチャずるい……」
マリナが不機嫌ですといった顔でこちらを見上げている。
「ごめんごめん、御者の途中だったな」
そう言うとマリナの頭をなでてあげた。
「まあ! イチャイチャだなんて」
とリリアは頬に両手を当て照れている。
旅路は順調に進み 太陽が真上を過ぎた頃、エルフの国の王都が見えてきた。
「あれです! あれが我が国の王都です!」
ヴィクター隊長が遠くの門を指さす。
エルフの国は森に囲まれていると思っていたけど、実際に見てみると思っていたのとは違った。
一言で言うと湖に浮かぶ城だ。
近づいていくと全貌が明らかになる。なるほど湖に浮かんでいるのでは無く、湖の畔に王都があるのか。王都の周りは立派な城壁で囲まれており、その周りを湖が囲んでいる。
さらに王都の裏には大きな山も見える。
結構攻めにくそうな地形になっているな。
王都に入るには、湖から王都まで橋が架かっており、そこから中に入れる。
橋の横に馬小屋がありここで魔法馬車を預かってくれるみたいだ。
魔法馬車を預け橋を渡っていくと大きな門が見える。
「隊長! 先に王城に向かい、巫女様が戻られた事を王に報告に行ってきます」
と言いながらノーラが駆け出す。
「わかった。我々は工房に寄ってから城に向かう、よろしく頼んだぞ」
門に近づくと屈強な門番が門の左右に立っている。
ヴィクター隊長が門番に巫女様が戻ったことを伝える。
「エルフの巫女様がお役目から戻られた!」
「こ、これはヴィクター隊長、巫女様、お役目お疲れ様であります! 所でそちらの方々は?」
門番が僕らの方をいぶかし気な表情で見ている。
「通信石で知らせていたはずだが? 巫女様のお役目中の護衛をお願いした方々だ」
門番がびしっと背筋を伸ばし敬礼する。
「た、大変失礼いたしました。どうぞお通り下さい!」
まさかこんな若者と爺さんが、護衛だとは思わなかったのだろう。
大きな門を潜ると正面に広場が見える。
広場の周りでは市が開かれており、活気に満ちている。
やはりどこも市場の周りの活気は変わらないな。
町の北が王城で、南が門、東が住宅街になっているそうだ。
ヴィクター隊長に「さ、さ、こちらへどうぞ」とあまり人気の無い西側の地区へ案内される。
工房と書かれた大きな看板が掲げられた大きな建物の横を通り、奥へ進んだ先にドアが見える。
「こちらの裏口から工房の祭壇に向かいます」
「僕たちは部外者だけど入っても大丈夫ですか?」
「さすがに工房の中はお見せできませんが、祭壇は問題ございません。巫女様のお役目を最後まで見届けてあげてください」
リリアもにっこりと微笑み
「ティム様、私の一世一代の晴れ舞台を是非見て行ってください」
「わかった。リリアの晴れ舞台しっかりと見せてもらおう!」
そんなことを言いながらドアの先に進むと立派な祭壇が見える。
リリアが祭壇の前に立ち、頭の花冠を外すと祭壇に捧げる。
「我が魔力とともに花冠を奉ります」
そういうとリリアから魔力の光が溢れる。
こ、これはすごい魔力量だ。それにこの魔力どこか懐かしい……。
花冠が空中に浮かび徐々に上へと上がっていく。
そのまま天井をスッと通り抜けると辺りがキラキラと光りだす。
あれ? このキラキラした感じは見覚えがあるぞ……。どこで……思い出せない……。
一頻り辺りが輝いた後、魔力の光が徐々に収まる。花冠もいつの間にか祭壇に戻っている。
「これにて私のお役目は終了いたしました。あとは次代の巫女に引き継ぎします」
リリアがそう言うと後ろに倒れそうになったので素早く体を支える。
「リリア! 大丈夫か!」
「あぁ、すみません。体から魔力が一気に抜けてしまって……少し安静にしていれば大丈夫です」
しばらく安静にしリリアが回復したところで王に報告しに行く事となった。
王城に向かうとすぐに謁見の間に通される。
武器は持ったままでいいのか?
少し困惑した表情でいるとヴィクター隊長が、
「我が城で武器の携帯は問題ございません。エルフ騎士団は武器など歯牙に掛けないといった、対外的な主張になりますし、詳しくはお話できませんが、敵対行動を止める術もあります」
なるほど、エルフ騎士団の威光を示す狙いもあるのか。
止める術とやらは工房が関係しているんだろうな。
「マリナ、今から王様に謁見するけど謁見の間に入ったら、こうやって膝をつき頭を下げるんだぞ、許可が出るまで顔を上げてはだめだぞ」
僕が膝をつき見本を見せる。
「むぅ、子ども扱い……」
「作法、理解……」
どうやらマリナは王宮の作法は知っているようだ。
「王宮での作法は知っていたか。ごめんごめん」
リリアが先頭となり謁見の間に入る。
謁見の間には両脇に騎士団が整列しており、見るからに上等な服を着た人達も並んでいる。
中央に玉座があり、隣に宰相が立っている。
リリアが膝をつき頭を下げると僕らもそれに倣った。
奥から身なりの整った美青年が出てきた。
「余がエルフの国セントナム王国の王! オルヴァー・バルテルス・セントナムである。皆の者、面を上げぇぇい。楽にしてよいぞ」
オルヴァー王から許可が出たので僕らは立ち上がり楽にする。
「オルヴァー王よ! エルフの巫女リリア。お役目を終え、ただいま帰還いたしました」
「巫女リリアよ、ご苦労であった。先程、工房の方から風妖精の加護が迸っているのが見えたわ。
またヴィクター隊長、並びに巫女の窮地を救ってくれた旅の者にも感謝する」
「ところで巫女リリアよお役目を終えた後はいかがいたす? できる限りの願いはかなえるぞ」
「はい、次代の巫女に引き継ぎをした後は、お役目で助けていただいた分、こちらのティム様の旅に同行し、私も少しはティム様の旅をご助力できればと思っております」
え、そうなの? まぁ僕としては可愛い子と旅をするのは楽しいし、エルフの巫女様と言えば、回復魔法の使い手だから助かるけど……。
「なるほど……。お役目を終えて自由とはいえ、一応巫女は国預かりの身、国が保護しなければならないが、う~む、しばし考えさせてくれ」
それはそうだろう。巫女を助けたとはいえ、いきなり現れた素性のわからない者に、国の大事な巫女を預けるわけにはいかないもんな。
僕は手を上げ発言の意思を示す。
「発言を許す」オリヴァー王がそれに気が付き発言の許可を出してくれた。
「こちらの手紙を是非、オリヴァー王に読んでいただきたい」そういうと僕は手紙を近くの兵士に差し出した。
兵士が宰相に手紙を渡す。
宰相が「中を改めさせていただく」と言ながら、
手紙を読んでいくと「こ、これは!」と驚いた様子でオリヴァー王に何やら耳打ちしている。
オリヴァー王が宰相から手紙を受け取り読んでいくと、
「ふむふむ、なるほど」と何やら納得した様子だった。
「ティム殿、いやティム王子、親書しかと受け取った。後程返事を渡す」
王子……今王子って言わなかったか? 偽物では?
周りがざわざわし、そんな声が周りから漏れてくる。
「静まれぇぇい! この若者はヒューマンの国、グロリオーサ王国のティム王子だ。手紙の紋章は間違いなくグロリオーサ王家の物だ」
「オリヴァー王よ、お初お目にかかります。グロリオーサ王国第二王子の次男ティム・カタプレイト・グロリオーサと申します。王子が旅をしている事を知られると騒ぎになるとはいえ、身分を偽っていたことを謝罪いたします」
「よいよい、当然の事じゃ。ふむ、確かに数年前に訪れた兄上に雰囲気が似ているな」
「さて、巫女リリアよ先程のティム王子の旅へ同行する件、許可いたす。気を付けて行って参れ」
「そしてティム王子よ。うちの巫女をよろしく頼む」
そういってオリヴァー王が頭を下げた。
僕としてはうれしいが、同行していいとは言ってないんだがな。
しかしこの流れで断るのは難しそうである。
まぁ断る理由もないけど。
「はい。こちらこそよろしくお願い致します」
半ば強制的にリリアが同行することが決まってしまったな。
「護衛の報酬の件は、ヴィクター隊長と決めればよい、本日は我が城で疲れを癒し明日出発しなさい。
皆の者! ティム王子が王子という事は口外しないように! それでは妖精の加護を」
そういうとオリヴァー王は颯爽と奥に消えていった。
僕たちも謁見の間を後にした。