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第二王子の次男は諸国を巡る  作者: すみませばみを
第一章:エルフの国編
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エルフの巫女様

 あぁうまかったな~。食事が終わり食後のお茶を楽しんでいると、

 何やら外が騒がしい。酔っ払いが騒いでいるのか。


 外に出てみると村の裏門前に人だかりができている。

 何かあったのか。人だかりをのぞいてみると、エルフの男性が腹を抑えながら倒れている。

「だ、だれか、助けてくれ。裏門を出たところで、み、巫女様が裏ギルドの連中に襲われている。救援を頼む」

 エルフの男性はそれだけ言うと意識を失ったようだ。

「爺や行くぞ! マリナはその人へ回復薬を頼む。できるか?」

「得意……」

「よし! 頼んだ」

 そういうと僕は裏門の方に駆け出した。


 裏門を出るとエルフの男性と女性が一人ずつ地面に倒れている。

 まだ息があるな。

「爺や上級回復薬を二人に!」

「お任せください」

 爺やが懐から上級回復薬を取り出し二人に飲ませる。

 回復薬とは軽度の負傷をたちどころに治し、止血することができる液状のアイテムだ、

 上級品になると瀕死の状態の者も治すことができ、失った血液を元に戻す事もできる。

 ただし、部位欠損は治すことができないが。


 二人が倒れている場所から十メートルほど先で、

 エルフの男性が覆面で顔を隠した男二人と対峙している。

 覆面の男達の後方には覆面を被った者が五名倒れている。

 またエルフの男性の背後には、エルフの女性がもう一人のエルフの女性を守るように剣を構えている。

 なるほど。守られているのが巫女様か。


「助太刀します!」

 そういいながら僕は駆け出し、覆面の頭上に剣を振りかざしながら突っ込むが、難なく受けられる。

 これは囮だ! 左手を敵の脇腹に近づけると無詠唱で魔法を放つ。

 バチバチと音を立てながら紫色の雷撃が覆面を襲う、雷魔法の『紫電』だ。

 覆面は白目を剥いてどさっと倒れた。

 唖然としているもう一人の覆面に近づくと素早く『紫電』を叩き込む。

「あぶぶ」言葉にならない声を発しながらもう一人の覆面は泡を吹いて倒れた。


「ふぅ、こんなものかな。大丈夫ですか?」

 気絶した二人を素早く縄で縛りながら後ろを振り返り声をかけた。

「す、助太刀助かりました。ありがとうございます」

 エルフの男性が驚いた表情でそう言った。

「いえいえ御無事でよかったです。僕は商人の見習いでティムと申します」

「しょ、商人の見習いですか!? あぁ失礼、申し遅れました。

 私はヴィクター・ジェンキンス。エルフ騎士団の守護部隊隊長をしております」

 あの有名な守護部隊の隊長だったのか。


「ノーラだ。助太刀感謝する」

 赤髪の女性がこちらに向かいながら安堵した表情で言った。金髪のかたもそれに続く

わたくしはリリア・クリベリルと申します。エルフの巫女をしております。

 助けていただきありがとうございました」

「商人見習いのティムと申します。御無事でなによりです」

 うわ!すごくきれいな子だ。外見上は同じ位の年齢に見えるがいくつ位だろうか? エルフは長命種だから外見からいくつか判断できない。

 それにしても透き通るような金髪に鮮やかなエメラルドグリーンの瞳が美しさを引き立てている。

 彼女に見とれていると、彼女の耳元が薄っすらと光る。

 妖精の囁きか、という事は巫女様は妖精隠し経験者か。


「坊ちゃまお二人は村の治療院に運んでおきました」

「対応完了……」

 爺やの言葉で我に返る。爺やとマリナが怪我人の対応を終え、こちらに来たようだ。

「三人は無事か!」

 ヴィクター隊長が慌てた様子で爺やの肩を掴みながら言った。

「先程倒れていたお二人なら上級回復薬を使いましたので、

 御無事でございます。腹部を切られた方は止血が完了し、今はお三方とも村の治療院で眠っております」

 掴んでいた肩からあわてて手を外し、ヴィクター隊長がばつが悪そうに頭を下げた。

「失礼しました。そうですか。よかった!」

「それにしても上級回復薬ですか……そのような高価な物を、ありがとうございます。お代は後程お支払いいたします」

「いえいえお気になさらず、私は坊ちゃまの教育係のアルフレッドと申します。お気軽に爺やとお呼びください」

「マリナ……」

「アルフレッド殿マリナ殿ありがとうございます。私はヴィクター・ジェンキンス。エルフ騎士団の守護部隊隊長をしております」

「あちらは隊員のノーラに、エルフの巫女様のリリア・クリベリル様です」

 二人がぺこりとお辞儀をする。


 改めてお礼がしたいという事なので、村の宿に行く運びとなった。

 捕縛した覆面二人は村の自警団に引き渡した。

 後日、エルフの本国に移送され厳しい尋問を受ける事になるだろう。

 村の宿の巫女様が宿泊している部屋に通され、

 テーブルに着席するように促される。


 僕の正面に座っている巫女様が、こちらをまっすぐに見つめ頭を下げながら言った。

「まずはわたくしから改めてお礼を申し上げます。先程は助けていただきありがとうございました。わたくしはエルフの国で巫女をしております。リリア・クリベリルと申します。」

「御高名な巫女様にお会いできるとは光栄です。改めまして僕はグロリオーサ王国から来た商人の見習いでティムと申します。今は修行中の身で各国を巡る旅の途中です」

「なるほど。各国を巡る旅ですか。面白そうですね」


「こちらはアルフレッド、僕の教育係です。」

「お気軽に爺やとお呼びください」そういいながら優雅にお辞儀をする爺や。

「この子は村に来る途中で保護した猫獣人のマリナです。どうやら妖精隠しに遭ったみたいで、獣人の国へ送って行く途中です」

「マリナ……」

「まあ! 妖精隠しに! こんなに小さいのに、大変だったわね」

 そういいながら巫女様は席を立ちマリナを抱きしめた。

「むぅ、苦しい……」

 とマリナが頬を膨らませると、あらかわいい! と巫女様のかわいがりが激しくなった。



「ところでヴィクター隊長、世界に名だたるエルフ騎士団の方々が、なぜあのような窮地に?」

 エルフ騎士団といえばエルフの国で作られる、風妖精の加護を受けた強力な武器を駆使し戦う、世界でも指折りの戦闘集団だ。

 もちろん武器だけでなく強力な風魔法も使いこなす。

 ヴィクター隊長が許可を取るように巫女様の方を見ると巫女様が頷いた。

「お恥ずかしながら……」

 とヴィクター隊長が少し暗い表情で語った。


 エルフの国には武器や防具、装飾品などの特産品を作っている工房と呼ばれるものづくりの施設がある。

 工房には特殊な祭壇があり、その祭壇に一年に一回、風妖精の加護を受けた花冠を捧げると、その工房で作られた製品は風の力を持つ。


 花冠に加護をもらう方法はエルフの巫女が花冠を被り、花冠に魔力を捧げ続け魔力を常に満たした状態で、風妖精の山の祭壇に祈りを捧げると花冠に加護がもらえるといったものだ。


 万が一エルフの巫女が花冠を被った後に魔法を使ったり、花冠を外した場合は、最初からやり直しとなり、花冠を捧げるお役目も次代の巫女に引き継がなければならないといった厳しいものだ。

 エルフの間では花冠に加護をもらう工程をお役目と呼んでいる。

 お役目は複数いる巫女候補の中から先代に一人選ばれた者が巫女となり、巫女となったのち一度だけ行うことができる光栄な行事だ。

 お役目の成功、失敗に関わらず、お役目の後、巫女は次代の巫女に引き継がれる。


 ここ数十年間は危険な目に遭うことも無く、魔物に遭遇する程度だったので、 エルフ騎士団の守護部隊の見習い隊員達の実地訓練も兼ねて、見習い隊員三名と隊員一名、隊長一名の計五名で護衛に当たっていたそうだ。

 ウィルダム村の裏門が見え集中が途切れた所を奇襲され、二人の隊員がやられ村に救援を呼びに行った隊員も負傷してしまった。

「……ということなのですが、この話は他言無用でお願いします」


 え! これ国家機密なんじゃ……特に工房や巫女の話……。

「ティム殿ここまで内々の事情をお話した理由はお分かりいただけますでしょうか?」

 ヴィクター隊長の圧力がすごい。僕はブルンブルンと首を振った。

「できればティム殿にお役目の護衛をお願いしたいのです。もちろん報酬は弾みます」

「僕にですか!」

「はい! 賊を制圧した鮮やかなお手並み、うちの騎士団にスカウトしたいくらいです」

 ヴィクター隊長が興奮した様子で身を乗り出し言う。

 これはまたややこしい事になったな。だけど巫女様のお役目には興味があるな。

「爺や、マリナ、僕はついて行ってもいいと思うんだけど、二人はどう思う?」

 裏ギルドの者があれくらいの強さなら何の問題もないな。マリナは爺やに守ってもらえば大丈夫だろう。

「私は問題ございませんが、マリナ様が国に帰られるのが遅くなってしまいます」

「問題無し……」

 おっとマリナを気遣うのを忘れていたな。さすが爺や。


「報酬はエルフの国に着いてから、風の力を持つアイテムを一つ選んでいただくというのはいかがでしょうか? もちろんお一人ずつです」

 風の力を持つアイテムか、中々他国には出回らない貴重品だ。

 そんな貴重な物を報酬に出すとは、かなり困っているようだな。

「わかりました! 巫女様、ヴィクター隊長、ノーラさんこれからよろしくお願いします」

「おお~! ありがたい!」ヴィクター隊長が大げさなリアクションで喜んでいる。


「ティム様、改めてよろしくお願いいたします。

 それと私の事は巫女様ではなくリリアとお呼びください。敬語も無しで大丈夫です」

 リリアがにこっと微笑みながら握手を求めてくる。

「わかったよ。リリア、よろしく」

 リリアの手を握りながらそう言った。素敵な笑顔だ。

 それにしても巫女様というからもっと堅い人かと思ったけどそうでもないみたいだな。

「爺やさんもマリナちゃんもよろしくね」

「リリア様よろしくお願いいたします」

「よろしく……」

「戦闘力は申し分ないし、隊長が見込んだ男なら安心だろう。よろしくティム、爺や、マリナ」

 ノーラさんとも握手を交わす。

「それでは明日に備えて早く休みましょう。出発は明日の朝です」

 ヴィクター隊長が少し疲れた表情で言った。

「わかりました。それではそろそろ部屋に戻ります。おやすみなさい」

 そう言って僕らは部屋を後にした。


「マリナ、僕の我儘で護衛を引き受けることになってごめんな。爺やマリナをしっかり守ってやってくれ」

「マリナ様の守りは、この爺やにお任せください」

「むぅ、マリナ強い……」

 納得できません! といった感じでマリナが頬を膨らまし腕を組む。

「わかったよ、じゃあマリナもリリアの護衛よろしく!」

 こうでも言わないとマリナは納得してくれなさそうだった。

「任された……」

 ぺたんこな胸をドンと叩いてマリナが言う

 はっはっは、マリナはかわいいな。


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