最終話 苦悩と新しい世界へ
僕が意識を取り戻すとそこは光が無い真っ暗な世界だった。
「おやティムも取り込まれちゃったか」
びっくりして声のした方を向くと弱々しい光を放つ妖精王がいた。
「ご無事だったんですね」
「一応まだ意識はあるってとこかな。それよりティムこれをごらん」
そう言って妖精王が地面を指さすと、地面が丸く光り何やら見えてくる。
そこは夕方なのだろうか少し暗い場所で暗い顔をした人々がひしめき合っていた。
誰も何も発さない。ただ皆が皆不安そうな顔で周りの様子をうかがいソワソワしている。
すると突然その中の一人が苦しみだす。
「ア、ア、ア、アアァァァァァ」
その声は徐々に絶叫となり苦悶の表情を浮かべると、そこには何もなかったかのように消えた。
途端に周りの者たちも同じように絶叫し苦悶の表情を浮かべ消えていった。
「こ、これは一体何を見せられているんですか?」
「ここはどうやら銷魂の国のようだね。その中でも最期の時を迎えた者が集まる所のようだよ。ほらまだ続きがあるよ」
妖精王に続きを見るように促される。
場面が切り替わった。次は誰かの視点のようだな。拳を力一杯握りしめていてあまりの力に血が出ている。
「すまない。すまない。すまない」
地面に血濡れの拳を何度も叩きつけながら誰かがさらに叫ぶ。
「俺は何もできんのだ! 王と言われながら何もできんのだ! 何も!」
誰かが泣いているのだろうか目の前が滲んでくる。
これは誰かの記憶を見ているのか? まさか……。
「ティムも気が付いたようだね。そうこれは銷魂の王の記憶。どうやら銷魂の王は魂を消滅させられた者の最期を見ているようだね」
「なぜこんなものを見ているのですか? こんなものを見たら精神がすり減ってしまう!」
「自分は消滅する者に何もできないからせめて最期は自分が看取ってやろうってことだろうね」
「そ、そんな」
僕が絶句している間も記憶は再生され続ける。
「一定の基準とは何なのだ! 神よ! なぜ魂を消滅させる必要があるのだ!」
マリスは天に向かい叫びながら泣いていた。
僕もいつの間にか強く歯を食いしばっていた。
「こんなのはあんまりだ! 神は僕達に何を求めているのですか?」
「さぁね僕もわからなくなっちゃったよ。だから今僕はここにいるんだけどね」
「ただねここにいてこれを見ていたら、すでに存在を消滅された者たちには何もできないけど。銷魂の王に取り込まれた者たちの魂は元に戻せるような気がするんだよね。銷魂の王を取り込む事が出来ればだけどね」
「僕はやっぱりまだ何が正しくて何が間違っているかわかりませんが、今の現状よりそっちの方がよっぽど良い気がします」
「そうかい。それならティムの力を貸してくれないか? 僕はこの通りだから」
そういった妖精王の光は弱々しかった。
「僕はどうすればいいですか?」
「存在を消滅された者のために祈ってくれ……ただ……それだけでいい」
「はい」
僕は目を瞑り先程見た消滅してしまった者たちの為に祈る。
安らかに、ただ安らかに眠り給え……。
千辛万苦から解放され。ただ安らかに……。
ただ安らかに眠り給え……。
どれ程に時間が経ったのだろうか。
気が付くと目の前には以前よりも光り輝き神々しさが増した妖精王が涙を流しながら立っていた。
「ティムありがとう。行こうか」
妖精王の指さす先には光のトンネルがあった。
僕は妖精王と共に光のトンネルへと駆け出した。
トンネル壁には今まで銷魂の王が目の当たりにしたのであろう魂を消滅された者たちの最期が映っていた。とめどなく繰り返されるその光景に僕は叫びだしそうになるのを堪える。マリスはいつ終わるとも知れないこれを見て来たというのか……。
トンネルを抜けた先は妖精の国でマリスが今まさにリリアを取り込もうと黒い靄を伸ばしていた。
「リリア!」
僕の声にリリアとマリスが驚いた顔をこちらに向ける。
「ティム! 良かった!」
「ば、馬鹿な! お前たちは取り込んだはず!」
「銷魂の王よ! 今さらだが魂を消滅された者たちの事は僕に任せてもらえないだろうか」
「はっはっは」辺りに銷魂の王の笑い声が響く。その笑い声はさほど大きな声というわけでもないのにやけに辺りに響いた。
マリスはひとしきり笑った後、突然無表情になると
「お前に! お前に任せろだと! 転生待ちの魂達とのうのうと暮らして居たお前に! 任せろだと! いつ消滅するかわからない絶望の中で暮らして居た者たちの気持ちもわからないお前に任せろだと!」
マリスの中で溜めに溜め込んだ怒りが爆発した。
「確かに僕は君の国の事はまでは考えていなっかった。でも君のやり方は犠牲が多すぎる」
「今更だな、俺がああしなければ今も魂を消滅された者たちは存在の消滅を待つだけだった」
「君の言う通りかもしれない。けれど僕は君に取り込まれた者たちも救いたい」
「あの者たちも納得してくれている!」
「もうよい元々相容れぬ存在同士。どちらかが消滅しなければ決着はつかんか。いいだろうお前を取り込んで新世界の礎にしてくれるわ」
「仕方が無いか。僕も君に取り込まれた者たちを救い新しい世界を創ろう」
マリスから黒い靄が妖精王へと伸びるが妖精王は微動だにしない。
「ははは、諦めたのか」
「よ、妖精王!」
僕の心配する声が届いたのか妖精王がこちらを向きウインクした。
ウインクなんかしてる場合じゃ……。
マリスが伸ばした黒い靄は妖精王を包み込むと黒い渦となった。
「これで! これでやっと!」
マリスが嬉しそうに叫んでいる。
妖精王を取り込むためなのか黒い渦はそのまま速度を増し回転し続けている。
黒い渦はしばらく勢いよく回転していたが突如その回転が遅くなり始める。
「こ、これは一体……」
マリスも驚いた表情で黒い渦の方を見ている。
やがて黒い渦はさらに回転速度を落とし完全に停止した。
停止したと同時に黒い渦は徐々に光り始め、さらに輝きが増すと今度は光の帯が形勢を覆す様にマリスの方へと向かって行った。
今度は光がマリスを包み込む。
「お、俺が取り込まれるだと……だがこれで……」
マリスは光に包み込まれながらもどこか安堵したように呟いた。
完全に飲み込まれる瞬間、僕にはマリスが穏やかに笑った様に見えた。
マリスが完全に光に取り込まれると光る球体となり妖精王の方へと吸い込まれるように飛んで行く。
光る球体が妖精王に触れた途端に辺りが激しい光に包まれる。
不思議な光だ。ただ眩しいだけでなく安心するような癒されているような穏やかな光だ。
光が徐々に収まり目が慣れてくるとそこには神々しい光を放つ存在がいた。
「我は世生王。世界を生み出す存在なり」
僕がその圧倒的な存在感に言葉を失っていると、ボフンと音がして世生王が妖精王に変わった。
「ごめんごめん、ちょっと神々しすぎたかな。まぁ僕もこっちの姿の方が落ち着くな」
「僕もあの姿よりこっちの姿の方がいいと思います。あの姿はあまりに神々しすぎて……」
「私もあの姿よりも今の姿の方がかわいくて好きです!」
かわいくてって……。
「それにしてもティムが黒い靄に包まれたと思ったらいきなり妖精王と現れてびっくりしました」
「あれ? あそこには結構長い間いたような気がするけどな」
「あの中で時間は止まっているからね」
「時間が止まっていたんですか! ほんとにここに来てから驚いてばかりだ」
「私は嬉しい事ばかりです。夢の男の子はティムだったし、ティムが私に好意を抱いていてくれたなんて」
リリアが自分の顔を両手で包み「うふふふふ」と笑う姿が超絶可愛い。
「僕も同じ気持ちだ」
「ははは、お二人さんその続きはまたあとでね」
妖精王が居たことを一瞬忘れていた!
僕とリリアはお互い顔を赤くして俯いた。
僕は話題を変えるためにずっと思っていたことを妖精王に尋ねた。
「妖精王! マリスいえ銷魂の王も救えなかったのでしょうか?」
「無理だったろうね。けど銷魂の王はこうなることを望んでいたような気がするよ。形は違うけど結局僕と銷魂の王は一つとなり魂の行き着く世界が一つとなった。魂が行き着く世界が一つという事は一定の基準が存在しない世界、つまり銷魂の王が望んだ世界の誕生だ」
今思えば僕に消えてもらうって話も本気ではなかったような気もするな。あんなに力がある者が記憶を消せないとは思えない。
「おっと、そろそろ元の世界に戻そうか、ここは生身の者が長居していい場所じゃないからね」
「そうでしたね。妖精王色々とありがとうございました」
「こちらこそありがとうね、ティムにリリア」
「私は何も。それにしてもここでの記憶がすべて消えてしまうのは残念ですね。折角ティムの気持ちも知れたのに」
「ティムは自分の気持ちをなかなか言わないからね」
「元の世界に戻ってもリリアを好きな気持ちは変わらないさ」
「それを元の世界に戻っても言ってください!」
「はっはっは、いやだよ恥ずかしい。……けどまぁその内に」
二人の様子を微笑ましくみていた妖精王が、「これくらいなら」と目を瞑り何やらもごもご言っている。
「それじゃそろそろ元の世界に戻すね。えぇぇ~い」
妖精王の気が抜けるような掛け声を聞いた途端に目の前が真っ暗になり意識を失った。
目が覚めるとリリアの顔が目の前にあって僕を覗き込んでいる。
「うわ!」
「うふふ、おはようございます」
どうやら僕はリリアに膝枕してもらっていたみたいだな。
「お、おはよう」と返した僕にリリアは
「ティムが膝枕して欲しそうな顔で寝ていたので膝枕しました」
なにその恋人同士みたいな会話……僕の気持ちはリリアには伝えていないはずってあれ?……。
ハッキリと覚えている事は少ないけど妖精の国に行って……。
あ……。「元の世界に戻ってもリリアを好きな気持ちは変わらないさ」とかその辺の記憶はハッキリ思い出せる。
「元の世界に戻ってもリリアを好きな気持ちは変わらないさ」
リリアがそんなことをキリっとした顔で言う。
「妖精王が気を利かせてくれてその辺の記憶は残してくれたみたいです」
全身がカッっと暑くなるのを感じる。
「あんのやろおぉぉぉ!」
その時、頭に声が響く。
「ふっふっふ。どうだい僕もなかなか気が利くだろう? 末永く二人で幸せにね」
「妖精王! ま、まぁありがとうとは言っておくことにする」
「ははは」
姿は見えないけど妖精王の楽しそうな笑い声が聞こえた。
改めてリリアの方に向くと真面目な顔で尋ねた。
「リリアここは僕達の世界なんだよな」
「そうですね。私達の世界ですね」
「そうか」
「僕と一緒に生きてくれますか?」
「喜んで!」
僕達は少しぎこちなく手を繋ぎ穏やかな光が降り注ぐ世界で新しい一歩を踏み出した。
その日世界の全ての生きる者に妖精王から妖精の囁きが囁かれた。
曰くグロリオーサ王国の王子が世界を救った。
我、妖精王はティム・カタプレイト・グロリオーサに加護を与える。と
これは妖精王から加護を受けし王の若かりし頃の物語。
最終話までお付き合いいただいてありがとうございました。
完結まで書く事が出来たのは読んでくださる方がいらっしゃったおかげだと思っております。
ありがとうございました。




