妖精の国へ
しまった! 少し気を抜きすぎていた。以前に感じたただならぬ気配を感じ叫ぶ。
「皆! 何か来る! 来た道の方からだ」
来た道を警戒しながら見ているとギルベルトと裏ギルドのボス、マリス・レヴィナスがいきなり現れた。
「転移魔法か!」
「皆さんお揃いで、改めまして俺は裏ギルドのボス。マリス・レヴィナス」
「お、お前はマリスそれにギルベルトまで」
僕が驚いているとマリスは丁寧なお辞儀をしながら
「先にお礼を言っておこう。ありがとう」
「な、どういうことだ?」
「あれだよあれ」
マリスは封印の扉を指さしながらにやりと笑う
「ふっふっふ。それにしても封印の扉を開けるには指輪の他に王家の人間の体液も必要だったのか。指輪だけじゃ開かないはずだ」
「ま、まさか。以前指輪が消えたのはお主の仕業か!」
「王よ正解だ! 王は勘が良いみたいだな。翌日には返却したがな」
「それにしてもわざわざ竜人の国で派手に竜人の秘宝を奪った甲斐があったな。こうも簡単に封印の扉を開けてくれるとは」
「前に言っていたもう一つってこれの事か!」
「ふふふそれも正解! ティムも勘が良いな。ところで勘が良いティムならこの後の展開はわかるか?」
そう言うとマリスはギルベルトと共に通路の奥へと転移した。
「少し足止めするぞ『気魄』!」
マリスがそう叫ぶと急に気怠くなる。
周りも僕とリリア以外はへたり込んでいた。
「皆どうしたんだ!」
「坊ちゃまどういう技かはわかりませんが魔力の大半を体外に放出されました。しばらくは動けそうにありません」
「むぅ……」
「きもちわるい~」
「私はちょっとだるいぐらいで何とか大丈夫です」
「ティムとリリアが残ったか……ふむ」
「まぁいい。それじゃまた会おう! ギルベルト後は頼んだ」
「了解しました。ボス! お気を付けて」
「うむ。それではな」
そう言うとマリスはギルベルトを残し奥へと消えた。
僕はもう少し思慮深く考えなかった事を後悔していた。
「まさか僕が王に報告したことでこんなことになるなんて……」
「ティムよ。誰にも気が付かれずに城に忍び込む事が出来るのだ遅かれ早かれこうなっていたであろう」
「坊ちゃま私もそう思います。それよりも奴を何とかしましょう」
「お爺様に爺や……ありがとう」
お爺様と爺やの言葉のお蔭で気持ちを切り替える事が出来た。
「さてそろそろいいかな? さすがの俺でも全員は相手にできないがボスが減らしてくれたからな。二人でかかってきてもいいぞ」
「お前の相手は僕一人で十分だ」
「おいおい王子。以前お前の魔法はほとんど俺に効かなかった事は覚えていないのか?」
「以前の僕と一緒にするなよ」
『万物を縛る氷面顕現……範囲指定……確定……縛れ』
「それは以前効かなかっただろう? それに一度見たから避けるのも容易いぞ!」
以前は僕を中心に広がっていた氷が今回はギルベルトの足元から突然現れギルベルトの下半身を凍らせた。
「なに! 以前と起点が違う! なかなかやるじゃないか。まぁいい今回もこんなもの砕いてくれるわ」
「フン!」
「フン!」
「フン!」
「砕けないだとぉ! なぜこんなに強度が上がっているのだ」
「修行の成果だ! 『雷よ……顕現』」
「あばばば」
僕が『紫電』を打ち込むとギルベルトはあっさりと気絶した。
ギルベルトを縛っていると、
「以前苦労して退けたギルベルトをこうもあっさりと……ティムは強くなりましたね」
「男子三日会わざれば刮目して見よ! ってやつさふふふ」
ギルベルトの実力を知っていたリリアも驚いているようだ。
「ティムの実力がこれほどとは……これが他の者に知られると少々まずい事になるかもしれんな。何事にもバランスというものがあるのでな……」
お爺様は眉間にしわを寄せて何やら考え込んでいたが、慌てた様子で僕に声をかける。
「ハッ! 今はそれどころではないか。ティムよ急いで裏ギルドのボスを止めるのだ。わしらの事はいいから先を急げ」
「ティム……あとから……」
「ティム君ごめんすぐについて行けそうにないわ。もうちょっとしたらすぐ追いかけるわ」
「坊ちゃま申し訳ございません。魔力回復薬は飲んだのですがだるさが回復するまでもう少しかかりそうです。回復しましたらすぐに追いかけます」
「皆わかった。リリア、仕方が無い僕達だけで行こう」
「わかりました。皆さんも気を付けてくださいね」
リリアと二人で通路を先に進むと奥に木製の扉が見えた。
あの扉が妖精の国への扉には見えないからあの奥に妖精の国への扉があるんだろう。
木製の扉を開けるとそこは少し広い空間となっていた。
床には絨毯が奥へと敷かれていて、絨毯に沿う様に両端に柱が建ててあった。まるで王座の間のような造りになっている。
絨毯に導かれるように進むと四段ほどの階段がありその上にすでに開け放たれた光り輝く扉があった。
あの輝きは……あれが妖精の国への扉なのか。
光り輝く扉の近くに人影が見える。あれはマリスか。
向こうも僕らの存在に気が付いたようだ。
「遅かったな。扉はもう開けてしまったぞ。これはもう用無しだな」そう言うと竜人の秘宝の短剣を地面へと放り投げた。
「今から妖精の国へと向かうところだ。ひょっとしたらお前たちなら中に入ってこれるかもしれんな。それでは」
マリスはそう言うと光の扉の中に入って行った。
「なんてことだ! マリスが妖精の国へと入ってしまった。このままでは世界は悪しき方へと……」
「ティム! 呆けている場合ではありません。今ならまだ間に合うかもしれません! マリスを止めましょう」
「あぁそうだな。まだ間に合うかもしれないしな。よし! 行こう」
「はい!」
僕達二人は意を決して光り輝く扉へと入って行った。
扉を潜る瞬間あまりの眩しさに目を閉じてしまった。
ゆっくりと目を開けると周りの景色の綺麗さにも驚いたが、それよりもこの場所を知っているようななんだか不思議と懐かしい感じがする。
懐かしさの原因を確認しようと周囲を見回す。
周囲は草原でキラキラと光るものがそこら中に舞っている。
どうやらそのキラキラとした光るものは空からゆっくりと降ってきているようだ。
それと遠くの方に森と大きなお屋敷も見えた。
「綺麗……」
僕とリリアはしばらくの間マリスの事を忘れ、その光景に見とれていた。
ドンドンドン! 何やら騒がしい音で我に返る。
音のしている方を見るとそこにはマリナとイーナさんが光る扉を叩いていた。
「入れない……」
「ティム君ここから先に行けないわ。見えない壁があるみたいに進めないの」
「見えない壁か……でも声は通るみたいですね」
僕が試しに通ろうとするとスッと通れる。
「あれ? 僕は通れましたよ」
もう一度戻ってみるとあっさり戻れた。
リリアも僕と同じように行き来できた。
「ふむ、どうやらティムとリリア殿は通れるようだな。理由まではわからぬがわしらは通れぬ」
「お爺様、僕とリリアでマリスを止めてきます」
「それしかないようだな。わしらは何かあった時に備えてここで待機しておくことにするか」
「坊ちゃま心苦しいですがお帰りをお待ち致しております」
「ティム……」
「二人だけに任せるのは気が引けるけどまかせたわよ」
「必ずマリスを止めてきます!」
「ティムは私が守るから安心してください」
仲間たちに別れを告げると僕とリリアはマリスを追うために奥へと進んだ。




