グロリオーサ城 秘密の地下
グロリオーサ王国に早く帰る為、竜化したゲンゾウ様に連れて行ってもらう事となった。竜化したゲンゾウ様は竜化したイワマルよりさらに大きくその目は理性を帯びていた。
ゲンゾウ様の声があたりに響く。
「急ぐぞ、早くこの竜駕籠の中に入るんじゃ」
ゲンゾウ様はそう言うと抱えている箱の扉を開けてくれた。
箱の中に入るとソファやテーブルが置いてありくつろげそうな空間となっていて窓からも外が見える。
「それじゃあ今から抱えて飛ぶから気を付けるんじゃ」
「抱えて飛ぶ? 落ちたりしませんか! 大丈夫ですか!」
「安心せい竜駕籠は儂が手を放しても落ちぬ様に術がかけてあるし、儂が乗っかっても潰れんほど頑丈な造りじゃ」
「そ、そうですか安心しました」
「なんじゃ! 儂を疑っておったのか!」
「い、いえ決してそのような事は! ただ少し高さがありますので……落ちたらと考えたらその……」
「ふぉっふぉっふぉ冗談じゃよ。坊があまりに怖がっているのが愉快でな」
「坊ちゃまは昔から高いところが苦手ですからな」
爺やが何か懐かしいことを思い出したのか、微笑みと共に僕を見ながらそんな事を言う。
「へー。ティムにそんな弱点があったなんて知りませんでした」
「弱点ではないけどな。苦手なだけだ」
「ふふふ、強がっているティムもかわいいですね」
「かわいいってなんだよ」
リリアの方が可愛いけどな。なんて思いながらリリアを見ていると、
「リリア……ずるい……」
「ティム君! リリアちゃんばっかりかまうからマリナちゃんが拗ねっちゃったよ。イチャイチャするのも程々にね」
「いやイーナさんイチャイチャってそんなつもりは……マリナも僕らはイチャイチャしてないぞ」
「まぁ! マリナちゃんたらイチャイチャだなんて……うふふふふ」
リリアも照れていないで助けてくれよ。
「おーい、イチャイチャもその辺にするんじゃそろそろ行くぞ」
「ゲンゾウ様まで……」
竜駕籠の扉を閉めた途端に浮き上がるような感覚がして驚きの声を上げる。
「わわわ、浮いている感じがする。これが空を飛んでいる感覚か」
「すごいわね! 世界広しといえども魔法以外で空を飛んだドワーフはわたしが初めてかも」
「ふわふわ……」
「魔法で空を飛ぶのとはまた違う感じですね」
皆の思い思いの感想を聞きながら僕は早くこの時が過ぎ去ってくれと目をつぶって祈る。
「坊ちゃまは相変わらずですな。王への連絡は私が行っておきましょう」
「爺やすまんが頼む。僕はもう無理そうだ」
そう言うと僕の意識は途切れてしまった。
「そろそろグロリオーサ王国上空じゃぞ」
ゲンゾウ様の声で目が覚める。
「ハッ! 意識を失ってしまったか」
「坊ちゃま降りるご準備を、王には報告いたしました。到着次第、皆で王の部屋へと来るようにとのことです」
「わかった」
「坊よ、すまぬが儂にはどこか休めるところを頼む。もう魔力が尽きそうじゃ」
「わかりました客間にお連れしますね」
グロリオーサ王国の中庭に無事着陸し竜駕籠から降りると、警戒した様子の兵達やメイド達が待機していた。
竜化から元に戻ったゲンゾウ様は元に戻った途端気絶してしまった。
「出迎えご苦労! ティム・カタプレイト・グロリオーサただいま戻った! こちらの方を客間で寝かせてくれ! 賓客なのでくれぐれも失礼のないようにな」
「かしこまりました」
メイド達が気絶したゲンゾウ様を客間へと連れて行く。
「よし、僕達は王の部屋へと急ごう」
王の部屋へ入ると中には王と父上と母上が待っていた。
「ま~ティムちゃんお帰りなさい。時々しか通信石で連絡くれないから私寂しかったわ」
母上がすぐさま僕に抱き着いてくる。
「ティム、お帰り少したくましくなったな」
父上には頭を撫でられる。
「父上母上お久しぶりです。ただいま戻りました」
「再開の挨拶は後だ。ティムと仲間達よ、ついて参れ」
そう言うとお爺様は足早に王室の横の扉から地下に降りてゆく。
「ティムちゃん~また後でね~」
「ティム気を付けてな」
僕らは名残惜しそうにしている父上と母上を残しお爺様を追いかけて地下に向かった。
地下への階段は螺旋状で薄暗く少し湿った匂いがしている。
「ティムよ、まずは王子の義務ご苦労だった。そして爺やから話は聞いた。まさか妖精の国への扉の鍵が竜人の国にあったとはな。急ぎ開かずの間にある封印の扉に向かう」
「封印の扉ですか?」
「そうかティムは知らなかったな。王子の義務を果たした者には伝える決まりになっているのだが、我が王城にはごく一部の者しか存在を知らぬ開かずの間に封印された扉があるのだ」
「そ、そのような扉が。その扉の先が妖精の国なんですか?」
「いや、封印の扉の先にさらに別の扉があるらしい。それが妖精の国への扉と言われておる」
「らしいというのは?」
「うむ、開かずの間というからわしらも滅多な事では立ち入らん。それゆえ封印の扉の先はわしも知らぬが今回は緊急事態ゆえにその封印の扉を開く。本来は王族のみで行くべきであるが今回は荒事になる事も考え皆も一緒に来てもらった」
螺旋状の地下階段をひたすら降りる。五分以上は降りていたのではないだろうかやっとお爺様が止まった。
「この先に封印の扉がある。何があるかわからぬから皆気を引き締めてゆくぞ」
古びた木製の扉を開けるとその先は奥へと続く通路となっているようだが暗くてよく見えない。
お爺様が扉の先に一歩踏み出すとボッボッボッという音と共に通路の上部に設置された松明に明かりが灯り通路の先が見やすくなった。
通路は狭い通路でヒューマンの大人一人が通れるぐらいの幅しかない。
「ふむ、相変わらず狭い通路だ」
「確かに少し狭いですね」
通路を奥へと進むと小部屋があり小部屋の奥には豪華な装飾が施された扉があった。扉の真ん中にはグロリオーサ王家の家紋が彫ってあり真ん中に小さな窪みがある。
「あれが封印の扉じゃ」
「封印の扉というだけあってなかなか豪華な装飾がされていますね」
「そうだな、見事な装飾だ。だが最近やもっと前に流行った装飾ではないから相当昔の装飾じゃろうな」
古びてはいるが汚さはなく伝統の重みを感じる扉に見とれてしまった。
「道中特に荒らされた形跡もありませんでしたし妖精の国への扉は無事なんでしょうか」
「無事であると思うが念のために封印の扉の先も確認しておいたほうがよいだろう」
「わかりました」
「では封印の扉を開けるとする」
そう言うとお爺様は右手の中指にしていた指輪を外すと、口に含み扉の真ん中のグロリオーサ王家の家紋の窪みにはめ込んだ。
「封印の扉を開けるにはこの指輪と王家の者の体液が必要なのだ」
王がそう言い終わるとゴゴゴゴゴと音を立て扉が真ん中から左右に開いてゆく。
扉が開き終わり中へ進むと先程と同じく通路になっていた。今度の通路はかなり広く幅が五メートルで高さも同じくらいある。通路の壁には先程と同じ松明が設置してあり明かりが灯っていた。
「また通路ですか」
「ふむ、今度はなかなか広いな。先も長そうだ」
「お爺様、先を急がなければなりませんが少し休憩してから向かいましょうか」
「そうだな。降りるだけとはいえあの長い階段は老骨には堪えた」
「王よこちらへどうぞ。お茶をお淹れいたしましょう」
「アルフレッドは元気そうだな」
「ふふふ、私は生い先短いですが、坊ちゃまが成婚されお子様の顔を拝むまでは死ねませんからね」
「はっはっは、それもそうだな。わしはせめてティムの嫁を見るまでは死ねぬな」
「嫁……」
マリナが王の袖を引っ張りながら嫁アピールをしている。
「まぁマリナちゃんずるい! グロリオーサ王、初めまして私はエルフの国の先代の巫女リリア・クリベリルと申します!」
「わたしも参加しとこうかな。 王様はじめましてわたしはドワーフの国の王立魔法記述研究所の副所長のイーナ・アメルングです」
「わっはっは、皆さんよろしく。アルフレッドこれは嫁どころか曾孫の顔が見れそうではないか」
「左様でございますな」
「お爺様に爺やまで……」
皆が朗らかに笑う中、僕だけは居場所がないような気恥ずかしさを感じていた。




