婿決めの儀式本戦
通路を抜けると先程より少し大きい円形の会場に出た。
なるほど。会場の造りは先程の会場と同じだな。
会場の周囲には観客席が設けられ異様な熱気を放っている。先程と同じように正面には豪華な席が設けられ女王様やゲンゾウ様、仲間の姿も見える。
会場の中心には正方形の舞台が設けられその上で戦うようだ。舞台の周りには魔竹が所々に生えており魔竹の生命力の強さを窺わせた。
本戦出場者が舞台の中央に集められると司会者のアナウンスが始まる。
「皆さま長らくお待たせいたしました! 婿決めの儀式の本戦を行いたいと思います~。早速ですが本戦出場者のご紹介をさせていただきたいと思います」
「まずは時期最高師範との声も名高いフジマル殿~」
「拙者はまだまだでござる」と謙遜した様子で手を振っている。
「そして竜神流武闘術を破門されながらも婿決めの儀式に参加しに来た恥知らず~イワマル殿~。」
「わしの紹介は辛辣じゃな」イワマルはブスッとした顔で司会者を見ている。
「続きまして~フジマル殿の一番弟子~今期待の若手タケヒコ殿~」
「いえ~い皆応援してくれよな!」その場でくるんと一回転するとピースサインを出しながら観客に手を振る。
「そして今回のダークホース! 魔竹を光竹に変えた男! そしてヒューマンで初めての本戦参加者ティム殿だ~」
僕は周りを見ながら軽く手を振った。
意外に歓声が大きい僕も期待されているのかな。
「それでは念のために試合のルールをおさらいしておきましょう」
魔法は使用禁止ただし魔力の使用は可。
武器や薬の使用は禁止。
対戦相手の命を奪う行為は禁止。
相手が降参するか気絶させたら勝ち。
「以上が基本的なルールとなります。また審判の判断で試合を中止させる場合もありますのでその祭は審判の指示に従ってください」
「婿決めの儀式本戦を開始する前に女王様から開始のご挨拶をいただきたいと思います! それでは女王様お願いいたします」
「うむ、皆の者此度は婿決めの儀式に参加してくれてうれしく思う……が! わらわは結婚などせん! クニヒコに無理やり儀式を行う様に言われただけじゃ!! わらわが結婚する相手はアルフ以外考えられん!!! というわけで儀式に優勝しても結婚はせんのであしからず以上!」
「はい! 女王様いつものやつありがとうございました~。優勝者には賞金の他にこちらの王家の秘宝が与えられる可能性がありますので女王様と結婚できなくても落ち込まないでくださいね~」
王家の秘宝は短剣のようだ。装飾はシンプルだが華やかさのある造りで遠目からでも良い品なことが分かった。だが与えられる可能性ってどういうことだ? それに開会宣言もすごかったな……女王様の爺やへの執着が…。
「それでは第一試合はフジマル殿対イワマル殿です~」
舞台の中央でフジマルさんとイワマルが対峙する。
「兄者~成長したわしの力を見てくれよ~」
「どの程度成長したのか確かめてやるでござる」
「それでは第一試合はじめ!」
開始の合図とともにイワマルがフジマルさんの正面に駆け、回し蹴りを放つ。
フジマルさんは回し蹴りを腕で受けると、そのまま流れるような動きで体の背面を使いイワマルに体当たりを仕掛けた。
イワマルはあえて避けようとはせず体当たりをもろに食らっている。なぜ避けなかったのかな。そう思っていると吹き飛んだイワマルが嬉しそうな顔で立ち上がった。
「兄者の鉄山靠か。懐かしいな……」
「まずはお互いお決まりのぱたーんでござるな。では本番と参ろう」
「竜神流武闘術、拳重ね!」
フジマルさんがそう言うとイワマルの前にいきなり現れ速さも力強さもない何てことない突きを繰り出す。
何てことない突きのはずなのにイワマルの表情が変わる。
イワマルが正面からの突きをガードした瞬間、横から殴られたように見えた。
まずいと思ったのかイワマルは頭を守るように全身を使いガードする。
フジマルさんはそれに対しガードの上から殴っているが、明らかに繰り出している拳の数と打撃が合わない。
「出ました~フジマル殿の代名詞! 拳重ね! 一回しか殴っているようにしか見えないのに複数回殴られる技です~!」
ナイス司会! なるほどそんな技があるのか。僕は魔力活性の基本しか習っていないからこの技は知らないな。
「さすがは兄者! こんなに拳の嵐を受けたら常人ならひとたまりもないのぉ」
「ふむ、無傷か少しはやるようになったみたいでござるな」
「今度はこちらからじゃ」
「剛竜牙!」
そう叫んだイワマルが腰を静かに落とし正拳突きを放つとフジマルさんは何かを避けるように横に飛んだ。フジマルさんの後ろからドン、ドンと音が聞こえると観客席の壁に拳大のへこみができていた。
「ほほう、よく練られているでござる。さすがにあれを食らっては拙者も無事では済まなそうでござる」
壁が拳の形にへこんでいる。衝撃波か何かなのか。
「兄者ぁ! 話している暇はないぜ。ほれほれほれ」
そう言いながらイワマルが何度も拳を突き出し剛竜牙を放つ。
しかしフジマルさんは焦った様子もなく冷静に躱していき徐々にイワマルとの間合いを詰めていく。
「よく練られているがまだまだ荒いでござるな」
「竜神流武闘術、要突き!」
フジマルさんが軽くイワマルのわき腹を突くとイワマルの動きがピタッと止まりそのままばたんと倒れた。
後から聞いた話だが竜神流武闘術、要突きは数秒だが外からの衝撃で相手の心臓を止めてしまう恐ろしい技だそうだ。フジマルさんは笑顔で「後遺症とかはないでござる」と言っていたが「……たぶん」と呟いていたのが怖かった。
「イワマル殿気絶! 勝者フジマル殿~!」
イワマルの気絶を確認した審判が司会に合図を送る。司会が勝ち名乗りを上げると歓声が湧きあがった。
あまりの歓声の大きさに気絶していたイワマルも気が付いたのか、「いや~また負けちまったか。兄者にはまだ届かんか」そう言いながら起き上がった。
「おぬしも以前よりはましになっていたでござる剛竜牙の威力をあそこまで上げれる者はなかなかいないでござる」
「へへへ、兄者にそう言ってもらえる日が来るとはねぇ……ところで兄者すまんがわしも役割があるでの」
そういったイワマルの様子が少しおかしい。魔力が異常に膨れ上がっている。
「お、おい! イワマルまさかここで竜化するつもりか! 一体何の真似でござる!」
「兄者すまんな。これもわしの役割なんじゃ! フン!」
異常に膨れ上がった魔力が徐々に体外に溢れ出す。
「まずい! 皆の者逃げるでござる! クニヒコは姫様を安全な場所へ! タケヒコは観客を避難させてくれ!」
「ティム殿今ならまだ間に合うでござるから早く安全な場所へ! ここは拙者に任せるでござる!」
「先にあの魔力の放出を止めないとまずくないですか?」
「もう手遅れでござる。竜化までにはもう少しかかるでござるから今のうちに避難するでござる。竜化してしまったら見境なしに攻撃してくるでござる」
確かに魔力の放出を止めようにも放出される魔力の圧で近づけない。
「フジマルさんもう今からどこに逃げても間に合いそうにありません。このまま二人で抑えましょう」
「うむむむ、賓客を巻き込む訳には……しかしティム殿がいれば……わかったでござる。くれぐれも無茶はしない様にお願いするでござる」
「わかりました!」
そうしてフジマルさんと僕はイワマルと対峙した。




