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第二王子の次男は諸国を巡る  作者: すみませばみを
第一章:エルフの国編
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マリナとの出会い

「爺や、エルフの国まではあとどれくらいかかるんだ?」

「そうですね。このままゆっくり行っても明後日には到着するかと」

「そうなのか。結構近いんだな。所で今日の野営場所は?」

「今日の野営場所はもう少し進みますと川がございますので、

 その近くで行う予定です。明日は村を通るので村に泊りましょう」

「わかった。川があるなら久しぶりに釣りでもするかな。

 爺やにおいしいアマーゴの塩焼きを食べさせてやるぞ」

「うぅ……この爺や坊ちゃまのやさしさに感涙です」

 爺やが涙を拭くしぐさをしながら大げさに言う。

「ふふふ、爺やは大げさだな」

 爺やはアマーゴの塩焼きが大好きだからな、たまには爺や孝行もしないと。



 そんなことを話している間にどうやら野営地に近づいてきたようだ。

「坊ちゃま、少し早いですがここらで野営にいたしましょうか」

 綺麗な川が近くに流れていてとても涼しげだ。

「分かった。野営の準備が終わったらいつもの戦闘訓練をしようか」

「かしこまりました。まぁ準備と言いましても結界魔法で覆うだけですが」

「僕は結界魔法が苦手だから爺や頼む。魔法石は四方に置くぞ」

 僕はマジックボックスから魔法石を取り出し魔法馬車を大きく囲う様に置いていった。

「それでは参りますぞ」

『悪しき者は侵入敵わず……展開……さらに二重に展開……結界発動』

 先程置いた魔法石を起点に霧状の壁が周囲を包む

「これで魔法石の魔力が切れるまでは、我々に害意のある者は立ち入れません」

「よし! ありがとう。じゃあ早速戦闘訓練をするか」

「今日は何に致しますか」

「今日は剣にする」

「かしこまりました。それではいつでもどうぞ」



 ハァハァハァ……木刀が僕の首筋に当てられている。

「参りました。だめだ……まだまだ爺やには敵わないな……」

「坊ちゃまもなかなかいい太刀筋でしたぞ。『清浄であれ……発動』」

「ありがとう。結構汗をかいていたから気持ちいい」

 爺やが体を綺麗にする『清浄』の魔法を掛けてくれた。

「訓練はここまでにして爺やの好きなアマーゴを釣りに行ってくる」

 僕はマジックボックスから釣り道具を取り出す。

「それではわたくしは夕食の用意と火の準備をしておきます」



「よし! 五匹目」

 川虫を使っているせいか二十五センチくらいのアマーゴがよく釣れる

 しばらく夢中になって釣っていると仄かにコメの炊けるいい匂いがしてきた。

 他国の主食は小麦を使ったパンが多いが、初代様がコメを広めた為、グロリオーサ王国の主食はコメだ。

「十匹目! そろそろいいか」

 釣り道具をしまうと爺やの方に向かう。



 パチパチと焚火から乾いた音が聞こえる。辺りはすっかり真っ暗だ。

 釣ったアマーゴは全て串焼きにし焚火の周囲を囲んでいる。

 先程からアマーゴの皮が焦げるいい匂いがしてきている。

「もういけるかな」

 とアマーゴの串焼きに手を伸ばそうとした所、

 向かいに座っていた爺やが僕の後方を指さし驚いた声を上げる。

「坊ちゃま!」

 爺やが僕を庇うように駆け出し前に立つ。

 爺やの背中越しに見ていると、前方に小さな光が集まっている。

「なんだこれは!」

 その光は徐々に人の形を取り始め、一層光ったかと思ったら

 幼い少女が倒れていた。



「こ、これは! 間違いございませんこれは妖精隠しです! 坊ちゃまの時と同じです!」

 爺やが驚いた声をあげた。

 少女は年の頃は十歳前後だろうか、結構珍しい白髪だ。

 顔はヒューマンの少女だが髪の間からピンと尖った耳が見える。

 あれは猫耳か、という事はこの子は猫獣人か。



「お、おい! 大丈夫か?」

「うぅ……ア、アマーゴ……」

 少女は匂いにつられ目覚めたのか、アマーゴの方に手を伸ばしながらアマーゴと呟いている。

 僕はアマーゴを少女に差し出し、

「アマーゴが欲しいのか。アマーゴは逃げないぞ。はいどうぞ」

 と手渡すと、少女はものすごい勢いで食べだす。

「アマーゴは種族の垣根を超えるのです。」

 爺やが頷きながらそれらしいことを言う。



 十匹あったアマーゴの塩焼きを全て平らげて落ち着いたのか、

 少女がきょろきょろと辺りを見渡す。

「ここはグロリオーサ王国とエルフの国の間だよ。君はどうやら妖精隠しに遭ったみたいだな」

 僕がそう言うと少女はいぶかしげな表情を浮かべた。

「僕はティム。旅の商人見習いで、こっちは爺や僕の教育係だ。」

わたくしはアルフレッドと申します爺やとお呼びください」

 僕は手を差し出しながら言うが、握手は空振りに終わった。少女は警戒しているようだ。

 その時少女の耳元が薄っすらと光るのが見えた。

 お! あの光っているのは妖精の囁きだな。

 普通は妖精隠しに遭っても他人の妖精の囁きは見えないが、

 なぜか僕は他人の妖精の囁きを見ることができる。さすがに何を囁いているかまではわからないが。

 光が収まると途端に少女の不安そうな表情が和らぐ。



「マリナ……」

「マリナ?あぁ君の名前か、マリナは獣人の国から飛ばされて来たのか?」

「森で狩り……」

 ふむ、町の近くの森で狩りをしていたのかな。

 こんな小さい子が一人でこんな所に飛ばされるなんてちょっとかわいそうだな。

「爺や、マリナを獣人の国に送って行ってあげたいと思うんだが、どうかな?」

「そうですね。ご両親もご心配されているでしょうし、

 最短でお連れしてあげたいですが、エルフの国にも行かなければなりません」

「一緒に行く……両親は大丈夫……」

 マリナが置いて行かれるのは嫌だとばかりに言う。

 よし! 王城から手を回してもらうか。

 爺や、爺やと手招きしながらマリナに聞こえないように爺やの耳元で囁く

「王城に通信石で連絡して獣人の国に連絡してもらおう」

「そうですな。かしこまりました。後程連絡しておきます」

「頼む」

「マリナこれからよろしく。僕達はエルフの国に寄ってから獣人の国に行く予定だ」

「ティム、爺やよろしく……」

 先程は空振りに終わったが、今度はしっかりと握手をした。



 ぐぅ~と僕の腹の虫がなく。そういえば夕食の途中だったな。

 おかずは無いけどコメがあるからおにぎりにして食べようか。

「マリナおにぎりはわかるか?コメを三角に握った物なんだが食べるか?」

 さっきアマーゴを五匹食べていたが、一応聞いてみた。

「興味……」

 まだ入るのか、マリナは大食漢なのかなぁ……。

「むぅ、デリカシー……」

 マリナが僕の心を見透かしたように頬を膨らませて不満を口にする。

「獣人はよく食べるっていうしな、ちょっと待ってろ」

 僕はごまかすようにおにぎりを握りだす。



 おにぎりは結構あったが、三人でぺろりと平らげた。

「コメすき……」

 どうやらマリナはコメが気に入ったみたいだな

 コメは自国で消費する為、ほとんど他国に出回らないから結構珍しいはずだ。



「坊ちゃま、マリナ様、魔法馬車の方に床の準備ができております」

「ありがとう爺や、爺やとマリナは先に寝ておいて、僕は魔法鍛錬をしてから寝る」

「わかった……」

「坊ちゃま、あまり夢中になりませんように」

「あぁわかった、程々にする」

 いつも魔法鍛錬を始めると集中し過ぎるからな。

 僕は少し離れた場所で行う為、歩き出した。



 魔法と一口に言っても種類が色々あり、生活魔法、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、空間魔法などがある

 また属性があり火、水、風、土、雷、氷などがある

 魔法とは簡単に言うと体内の魔力を消費し各現象を顕現する事だ。

 魔法鍛錬とは反復練習で魔法を使う際のイメージを明確にし、

 より威力を上げたり素早く現象を顕現させるために行う。



「今日は火の鍛錬にするか」

『灼熱の炎よ顕現……輪……展開……絞めろ』

 僕の言った通りにに現れた炎が次々と形を変えていく。

 これは『灼熱の輪』と呼ばれる魔法で、炎を敵の頭上に顕現させ、サークル状にして敵を囲み、

 サークルを締めて敵を一網打尽にして燃やし尽くす僕の得意魔法だ。

 顕現させた灼熱の炎をそのまま投げる魔法もあるが、

 これはより高度な魔法で回避される事も少ない。

 さらに僕の場合は締めろを絞めろに変えることによってさらに威力を上げている。

 言葉を変えるのは、人によって言葉の持つイメージが違うためだ。

 人によっては閉めろの人もいるし占めろの人もいる。



 片手をあげると先程と同じ現象が起こる。手を下げると輪が締まる。

 これは無詠唱と呼ばれる技術で詠唱無しでイメージだけで魔法が使える技法だ。

 無詠唱といっても僕はまだ未熟なので、イメージを補強する為、

 動作が必要だが、いつかは自分の全魔法を完全な無詠唱で使いたい。

 その為にこうして魔法鍛錬を行っている。



『デコイ顕現……発動』

 これは囮に使う土人形を作る防御魔法だが、顕現させたそばから『灼熱の輪』を掛けていく。

 デコイが現れては炎で燃やし尽くされていく。

 火の鍛錬の時はいつもこれを繰り返し行い鍛錬している。



 どのくらい鍛錬していただろうか、夢中になり過ぎていて、

 いつの間にかマリナが近くで見ていた事にも気が付いていなかった。

「すごい威力……速くて正確……」

 夢中になりすぎてたせいか、マリナが見ていることに気が付かなかった。

「マリナか、起こしてしまったか」

「眠れなくて……」

「眠れない時は魔法鍛錬にかぎるな……マリナは魔法は使えるのか?」

「猫獣人……」

 猫獣人は比較的魔力が少なく、種族的に殴った方が早いといった気質なので

 魔法が得意な者が少ない。

「妖精隠しに遭った者は魔力が増えるから、試しに魔力を認識する練習でもしてみるか?」

「やりたい……」

「よし! じゃあ早速始めよう」



「まず手を出して、そして目をつぶって手に集中して」

 差し出された手を軽く握る、

「じゃあ僕の魔力をゆっくり流すから感じてみて、いくぞ」

 魔法馬車に魔力を流した時よりも、もっと細く弱い魔力をイメージして流す。

 いきなり強い魔力を流すのはあまりよくないからな。

 ビクッ!マリナの体が反応した。

「どうやら魔力を感じたみたいだな。どんな感じだ?」

「温かい……」

「そう、それをおへその下から僕の方に流してまたおへその下に戻ってくるのをイメージして、

 はじめはゆっくりでいいから、魔力を感じ取る事に集中して」

「すぐにできたな。じゃあ次は僕に流さずに、全身を循環するイメージでやってみて」

「うん……」

「お! もうできたか。マリナはかなり筋がいいな。これを毎日続けるんだ」

 初めてでここまでできるなんて、マリナはかなり筋がいいな。

 鍛え方次第だが、ひょっとして僕より魔法は得意になるかもな。



 しばらく集中しているとマリナがコックリコックリと舟を漕いでいる。

 僕はそっとマリナを抱えると魔法馬車の方に戻った。

「爺やマリナを寝かせてあげて、僕ももう寝る」

「かしこまりました。ごゆっくりお休みください」

 今日は旅の初日だったが色々あったなぁ。

 まさか猫獣人の女の子と一緒に旅をすることになるとは思わなかったな。

 そんなことを考えながら僕は深い眠りに落ちていった。

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