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第二王子の次男は諸国を巡る  作者: すみませばみを
第四章:竜人の国編
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旅の息抜きと珍客

 皆が夢中になった晩御飯も終わり久しぶりに爺やと戦闘訓練を行う事にした。

「坊ちゃま久しぶりですので軽くから始めましょう」

「よし! お手柔らかに」



「やはり以前と大分違いますな」

「そうだな体に力がよく入るし動きも早くなった気がする。魔力の質が上がった事が関係しているのかな」

「間違いなく関係しております。坊ちゃまにお教えしていた体の動かし方ですが、実は私が竜神流武闘術をベースに魔法使い用に改良した物ですので動きの随所に無意識下で魔力を使用しております。魔力の質という考え方は一般的ではございませんが、竜神流武闘術では基本的な考え方です。質が上がれば当然動きも良くなります」

「竜神流武闘術をベースに? 爺や使えるの? あれは門外不出の技じゃなかったっけ?」

「おっしゃる通りですが、以前に習得する機会がございまして私は一通り使えます。心苦しいですが私の師匠の許可が無いとこれ以上の詳しい話はお話しできません」

「そうだったのか……まぁかまわないよ。爺やも秘密の一つや二つあるだろうし」

「ありがとうございます」


「それにしても僕も竜神流武闘術を使っていたのか」

「正確には私流の竜神流武闘術ですが、詳しいお話はできませんが、魔法使いの技術と竜神流武闘術は相容れない技術ですのでその辺りを考慮してお教えしております」

「相容れない技術か……どういうことか気になるが詳しく聞くのは止めておこう」


「しかし坊ちゃまがここまで魔法も私の技も使いこなせるようになるとは思いませんでした。基礎的な技術はお教えしておりますがこの先の技術は師匠の許可が無いとお教えできませんのであしからず」


「師匠は竜人の国にいるの?」

「はい、ご高齢ですし偉い方ですので旅に出たりなどはしていないと思います。竜人の国に着きましたら許可を取ってみようと思います。坊ちゃまの資質と心根なら問題ないと思います」

「門外不出なのに大丈夫?」

「対外的には門外不出と謳っておりますが、竜人族以外にも教わった者はおりますので大丈夫かと思います」

「そっか、それは楽しみだな」


「それではそろそろ終わりに致しましょう『清浄であれ……発動』」

「ありがとう、おやすみ」

「おやすみなさいませ」




 朝から快調に馬車は進むが途中から今まで出なかった魔物に襲われるようになった。擬態型の魔物だ。有名なところではデビルツリーやデビルロックなどで、デビルツリーは木に擬態した魔物でデビルロックは岩に擬態した魔物だ。

 擬態型の魔物はそれほど強くはないが、気配を察知していないと不意を突かれるので注意が必要だ。

 僕も気配を探ろうとするがかなり近づかないとわからない。マリナが一番気配を探るのが得意だったのでマリナに任せることにした。


「右奥……三十……」

「右奥の三十メートルの……あれか『鋭利なる風顕現……切り裂き給え』」

 マリナが見つけ僕が『切り裂く風』で遠距離から倒す。中々いいコンビネーションだ。

「ナイスコンビ……」

「その調子で頼むぞ」

「任せて……」

 街道の近くにいる危険な魔物だけ次々と狩っていく。


 デビルツリーやデビルロックを狩りながら進み綺麗な池の近くに差し掛かったころ前方に大きな山が見えた。

「あれが竜人山りゅうじんやまか結構大きい山だな」

「坊ちゃま少し早いですが、山に登るのは明日にして今日はあそこの池の近くで野営に致しましょう」

「わかった。池で釣りでもするかな」


「結界はいかがいたしますか?」

「今日は電流の結界も試してみよう。そういえばこの結界は登録者は出たり入ったりしても大丈夫なのかな?」

「もちろん大丈夫よ。その辺に抜かりはないわ」

「さすがイーナさん、でもこれじゃあ通常の結界の意味がないような……」

「普通のも同時に張らないと電流の方だけだと電流に耐えれる人なら入ってこれちゃうわ。電流はあくまで嫌がらせよ」

「い、嫌がらせって……。普通のも張っておこう」




「僕は釣りに行こうと思うけど皆はどうする?」

「釣り……」

「私はイーナさんにおやつを教わります」

「リリアちゃんにドワーフ伝統のおいしいやつを伝授するわ!」

「それでは私は坊ちゃまとマリナ様の釣りを見ておりましょう」

「了解、それじゃマリナ、爺や行こうか」


「ところでマリナは釣りをしたことがあるの?」

「無い……」

「よし! じゃあ僕がみっちり教えてあげよう」

「よろしく……」


 まずはミミズを探すか。落ち葉の下をごそごそすると元気なミミズが何匹か取れる。

「これをエサにするぞ。魚はこのミミズをエサに釣るんだ」

「了解……」


 エサ取りが終わったので池にやってきた。

 小さな池だが水深は結構ありそうだ。

「このウキが沈んだらこうやって竿を上げて魚の口に針を引っ掛けて釣りあげるんだ。さぁやってみて」

「うん……」


 二人して池の淵で釣り糸を垂らす。僕はこののんびりした時間が好きだ。

 釣れても釣れなくても釣りはいい、もちろん釣れた方がうれしいが。


 爺やは後ろでマジックボックスから取り出したテーブルセットを出してお茶の用意をしてくれていた。

「お茶はどこでも楽しめるように用意しております」

「さすが爺やありがとう。何匹か釣れたら休憩するよ」


「んん……」

 そんな話をしていると隣で釣っていたマリナに魚がかかったようだ。

「何かな?」そう言いながら網で魚をすくう。

「これはフナだな。二十五センチはあるな結構大物だぞ」

「うれしい……」


 その後もマリナはフナを何匹か釣り今は爺やとお茶を楽しんでいる。

 僕はなぜか全く釣れない……。

 これでは教えている者としての立場が無い。何とか一匹釣らないと……。




 結局僕は一匹も釣れずマリナは八匹と大差がついてしまった。

「坊ちゃまそういう時もございます」

「ドンマイ……」

「ハハハ、ありがとうまた今度リベンジだな」

 フナはあまり食用に向かないので池に帰してやり僕らも戻ることにした。



 野営場所に戻ってくるとドワーフ芋のあま~い匂いがしている。

「ティムお帰りなさい。釣りはどうでしたか?」

「僕は全く釣れなかったけどマリナは大漁だった」

「まぁそうでしたか。ティムが坊主とは珍しいですね。これでも食べて元気出してください」

「ありがとう」

 リリアから差し出されたスイートポテトは少し形が悪かったが、味はドワーフの国で食べた物と遜色がなくおいしかった。

「ドワーフの国で食べた物と変わらないくらいおいしいな」

「ふふふ、形は少し不細工ですが味はおいしく出来上がったと思います」

「すぐに晩御飯ですからあまり食べないでくださいね」

「わかったよ。けどつい手が伸びてしまう味だな」

「そう言ってもらえると作った甲斐がありますね。うふふ」




 晩御飯も終わり皆はぐっすり寝ていたが僕はなかなか寝付けずにいた。

 外の空気でも吸って気分を変えようと魔法馬車から出ると地面に毛布を敷きその上に寝っ転がる。

 星が綺麗だ。こうして星を眺めているとカスパルの事が頭をよぎった。


『星降る夜』(ほしふるよ)はすごい魔法だったなそれに『灼熱の波』は完全にオリジナルの魔法だし、あんなにも力があるのになぜ悪いことに使うのかな。

 あのくらいの力があれば多くの人を助ける事もできるし、名声も思いのままだと思うけどな。

 彼の過去に何かあったんだろうな。彼を歪ませてしまった何かが……。



「あばばばばば」

 急に変な声が聞こえたので、声が聞こえた方に行ってみると倒れているマロンがいた。

「ティムちゃん酷いじゃなーい。何これ」

 恨めしい顔でこちらを見上げながらそう言った。

 気絶していないのかすごいな。


「マロンかそれはドワーフの国でもらった魔法馬車の結界だ。登録者以外は通れないし電流も流れる」

「それで色が少し赤かったのね。いつもの結界と思って通ろうとしたら痺れてびっくりしたわ」

「その電流は痺れるどころか気絶するぐらいの強さはあるはずなんだけどな」

「うふふふふ、わたくしってば少し痛みに耐性があるものでこれくらいなら全然イケるわ」

「そ、そうですか」

 何がどうイケるのか知らないがちょっと引いてしまう。


「ところで何か用事が?」

「そんなに邪険にしないでよ。ティムちゃんに警告をしに来たのよ。カスパルの情報は役に立ったでしょう?」

「ああ、あれは助かったありがとう」

「いえいえ、今回はカスパルよりもたちが悪いわ。ついに我らがボスが動き出したみたいよ。何をしているかはわからないけど、ギルベルトがボスに呼ばれたり、四人目の幹部に何やら指示を出したりしているみたいよ」

「裏ギルドのボスか、それに四人目の幹部って?」

「裏ギルドの幹部はギルベルト、カスパル、わたくしとあと一人で全部で四人いるんだけど、四人目の幹部は竜人で名前は……ど忘れしちゃったわ」

「そこ肝心! けど竜人か、これから行く国も竜人の国だし絶対なにか起こそうとしているよな」

「それは間違いないと思うわ。ティムちゃん気を付けてね」



「ああ、ありがとう。ところでマロン。もう裏ギルドを抜けたらどうなんだ?」

「そうね、そろそろ頃合いかもしれないわね。けどわたくしはお日様の下を歩けるような存在では無いの。私怨で人を殺めてしまったから」

「師匠の仇か?」

「ティムちゃんはわたくしのことなんでも知っているのね。そうよガストンから聞いたの?」

「あぁガストンさんも確信はしていなかったけどな」

「まぁそんなわけで日陰の存在なのよわたくしは」

「そうか、まぁ色々事情はあるだろうけど。抜けたらうちの国に来たらいい。城で働いてもいいし」

「うふふふ、ティムちゃんは優しいのね。考えさせてもらうわ」

「ああ。いい返事を期待している」

「それじゃそろそろわたくしは退散するわ」

 そう言うとマロンは以前と同様に暗闇に溶け込むように消えていった。

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