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第二王子の次男は諸国を巡る  作者: すみませばみを
第四章:竜人の国編
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竜人の国へ

 次のリュノール王国で親書を渡す国も最後だ。ドワーフの国でもらった最新式の魔法馬車の具合を確かめながら街道を進む。


 さすがに最新式だけあってスピードが少し早くなっている気がするな。それに揺れがすごい軽減されている今までの魔法馬車はなんだったんだと思うくらいだ。


「ティム君、急に魔力の扱いがうまくなった?なんかあんまり揺れないけど」

「魔力の扱い? 最新式の魔法馬車のおかげだと思うけど?」

「おかしいわね。最新式の魔法馬車だから多少はサスペンションも良くなっているはずだけどここまで劇的な変化は無いはずよ」

「僕は以前と魔力の込め方なんかは変えていないけどな。魔力の質が変わったことが関係しているのかもしれないな」

「魔力の質か……」

 小首をかしげながら「う~ん」とイーナさんが考え込んでしまった。



「ところでイーナさんは竜人の国について詳しい?」

「めちゃくちゃ詳しいわけじゃないけど普通には知ってるわよ。今は女王様が国を治めているわ。あと竜神流武闘術りゅうじんりゅうぶとうじゅつっていう武術で有名よ。国民の大半がその武術を使えるらしいわ。武人が多い国ね」


「竜神流武闘術か、なんかすごそう」

「なんでも魔力を魔法以外に使う技に特化している武術だそうよ」

「魔力を魔法以外に使う? どんな感じなんだろ」

 爺やのえげつない技みたいな技かな?


「門外不出の技術で基本的に竜人族以外には教えないから詳しい技術はわからないわ」

「その技を見たりはできるのかな?」

「竜人の国の途中にある竜人山りゅうじんやまの頂上付近に竜人族の道場が有って見学は許可を取れば出来るわよ。詳しい技術なんかは教えてもらえないけどね」

「見学はできるのか~それは是非見学しないとな!」


「前に竜人がうちの国に来た時に竜神流武闘術を見せてもらったけど、どういった原理かはわからなかったわ。けど今回はこれを持ってきたわ」

 じゃじゃーんとイーナさんが懐から取り出したのはドワーフの国で王様が使っていた魔力の流れや大きさを見れる眼鏡だ。

「前に見たときはこれが開発されて無かったのよね。今回は所長に無理を言って借りてきましたー!」

 自慢げにイーナさんが胸を張る。


「これでじっくり眺めて見るのが楽しみだわ。ぐふふふふ」

 恍惚とした表情を浮かべながらイーナさんが両手で頬を包み何やら妄想している。

 現実に両手で頬を包む人がいるんだなーなどと思いながらイーナさんをこっちの世界に戻す。

「イーナさん! 変な声が漏れてるぞ!」

「ああ、ごめんなさい。わたしったら楽しみ過ぎて妄想しちゃったわ。ぐふふ」

「確かに楽しみな気持ちもわかるけどな」


「ところで武術以外にも何か有名なものとかあるのか?」

「武術以外で言うとヒューマンの国と同じコメ文化で、山を切り開いて作った国だから坂が多いらしいわ」

「コメ文化か! それは楽しみだな」

「ふふふ ヒューマンのコメ好きは王族も変わらないのね」

「パンもおいしいけど、やっぱりコメが基本だからな」

「うちの国もドワーフ芋が欠かせないからそれと似たようなものかしら」


 そんな会話をしていると樹の後ろからオーガが突然現れた。油断していた! だが反射的に無詠唱で『灼熱の輪』を使う。

「ふん!」

『灼熱の輪』に締められたオーガは消し炭になってしまい何も残らなかった。


「ティム君! せっかくのオーガなのに消し炭にしちゃうなんてもったいない」

「ごめんごめん、とっさだったから『灼熱の輪』を使っちゃった。『切り裂く風』にしたらよかったな」


「それにしても魔力込めすぎじゃない? 消し炭よ」

「おかしいな、そんなに魔力を込めたつもりはなかったのにな……魔力の質が上がった事が関係しているのか」

「やけにそれにこだわるわね。魔力の質が上がるかぁ……魔力に質があるなんて聞いたことが無いし、この眼鏡でティム君の魔力を見ても変化はないけどね……「研究者が固定観念で物事を考えるのはいかん!」って所長によく言われているから、否定はしないけどね」



「坊ちゃまあれを!」

 客室にいた爺やが御者室に顔を出すなり前方を指さす。

 かなり遠くに白い人影のような物が見える。

「間違いございませんホワイトオーガです」

「ホワイトオーガ!!」

 僕らの驚いた声が御者室に響いた。


 ホワイトオーガはオーガの希少種で全身が白いオーガだ。全身が白いだけなら珍しいねで済む話だが、ホワイトオーガの肉はものすごく柔らかくものすごくジューシーでうまい。

 しかも滅多に現れないから普通のオーガの肉の十倍の価値はある。普通のオーガの肉は庶民の味方だがホワイトオーガの肉は超高級品だ。

 滅多に現れないこともあって僕も誕生日位にしか食べた事が無い。


「ここはわたくしの例の技で血抜きいたしましょうか」

「爺や、ここは僕に任せてくれ」

 今日はなんだか成功しそうな気がするんだよな。

「ティム君! ホワイトオーガだからね!」

 イーナさんがプレッシャーをかけてくるが僕はそれに任せろと言わんばかりに拳を突き上げて応えた。


 僕は馬車を飛び降りるとホワイトオーガと対峙する。

 普通のオーガより少し小柄だな。白は目立つ色だからここまで大きくなるのにそれなりの修羅場を潜ってきたのだろう普通のオーガより放たれる圧力が強い。


 大きく息を吸いゆっくり吐き自分の魔力が全身にいきわたるのを感じながら、ホワイトオーガを見る。

 素早くホワイトオーガの斜め後ろに移動し丹田から胸、胸から腕、腕から拳へ魔力の流れを感じながら拳をホワイトオーガのわき腹にゆっくりと当てる。


 ゆっくりと拳をわき腹に当てた途端に僕の中で練った魔力がホワイトオーガの中に吸い込まれていくような感覚があった。

 今までに成功したことはあるけれどここまで明確に吸い込まれていくような感覚になったのは初めてだ。


 僕の拳を受けたホワイトオーガはピクリとも動かない。

 まずい! 僕は素早く後ろに下がった。

 後ろに下がった瞬間ホワイトオーガは全身から緑色の血を噴き出し絶命した。

 危なかった! もう少しで全身緑色になる所だ。


「坊ちゃま極めましたな!」

「極めたのかな? なんとなく今日は成功しそうな気がしたんだよな」


「ティム君! 何あの技? 超えげつないんですけど」

「爺やが開発した技で主にオーガの血抜きに使ってる技だ。いつも爺やのえげつない技って言ってる」

「えげつない技って……確かにその通りだしオーガの血抜きにはよさそうだけど……」


「私も……早く……」

 マリナが早く教えてくれと言わんばかりに爺やを引っ張る。

 あれを見ちゃうと使いたくなる気持ちはわかるな僕もそうだった。

「マリナちゃんにはまだ少し早いかもしれないわね」

「リリアの言う通りだと僕も思うけどな、まぁ爺や次第だな」

「マリナ様がもう少し大きくなられてからですな」

「むぅ……」


「さて血抜きも終わっただろうから解体するか」

「ティム君ちょっと待って」

「イーナさんどうしたの?」

 イーナさんが鞄をごそごそしながら袋を出す。


「じゃーん! 自動解体袋!」

「なにその明らかに便利そうな名前のアイテムは」

「お! 気が付いてしまいましたか! お察しの通りこれは入れた物を自動で解体してくれる便利アイテムで、試作品十号よ」

「試作品か。ちゃんと使えるの?」

「試作品ってついているけどほぼ完成品よ。市場に出るのはまだまだ先だけどね」


「どのような仕組みなんですかな?」

 爺やも興味があるみたいだな。僕もどんな仕組みなのかは気になる。

「詳しい仕組みは省くわ。仕組みを説明しているうちに明日になっちゃうわ。機能的にはマジックボックスに解体機能を付けた感じよ。しかも取り出す時に好きな部位を何グラムといった出し方もできるのよ」

「ほほう! わざわざ切り分ける必要が無いですと! 素晴らしいですな」


「これ野菜とかも指定した切り方で出せるの?」

 ちょっと気になった事を聞いてみる。できたとしたらすごい便利だ。

「野菜を? 残念ながらそこまで細かくは指定できないわ。っていうよりその発想はなかったわね。う~ん、出し方を変えれば……けどそうしたら……」

 イーナさんが何やら考え込んでしまった。


 考え込んでしまったイーナさんを置いといて皆と今晩のメニューについて話し合う。

「晩御飯はやっぱりホワイトオーガ肉のステーキかな?」

「賛成……」

「ホワイトオーガのお肉なんて私食べた事が無いです」

「私もホワイトオーガの肉は久しぶりですな」

「決まりだな!」

 考え込んでいるイーナさんは置いといて今晩のメニューが決まった。



 今晩のメニューが決まったところで馬車を進める。旅の楽しみって言ったら食事が締める割合が大きいからな、他に楽しみなこともあまりないし食事は重要だ。うん。


 そんなことを考えながら御者をしていると、「坊ちゃま今日はこの辺で野営にいたしましょう」と爺やが御者室に入ってきた。


「了解、折角だから馬車の結界を試してみるか」

 僕がスイッチを押すと馬車の周りを半透明で半球状の結界が覆う。

「電流の結界はとりあえず今度にするか」

「スイッチ一つで結界が……坊ちゃまこれは素晴らしいですね」

「ああ、楽でいいね」

「それでは私はコメを炊きますので坊ちゃまはホワイトオーガの肉をお願いいたします」

「任せてくれ!」



 晩御飯は今までで一番静かな食事の時間となった。

 みんな口を開くのは肉を口に入れる時だけ、しゃべる時間がもったいないと言わんばかりにナイフとフォークを動かす音だけが聞こえていた。

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