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第二王子の次男は諸国を巡る  作者: すみませばみを
第三章:ドワーフの国編
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宴と旅立ちと

 地上へ出ると正面に大きな舞台が設置されていた。舞台への道筋の両側にカウンターテーブルが置かれていてその奥で料理人が忙しそうに料理を作っていた。料理はできた傍からカウンターテーブルに並べられて行く。

 舞台への道筋は百メートルはあるのでカウンターテーブルも同じぐらいの長さがありテーブルの上には所狭しと料理が並べられていた。

 それにしてもこんな舞台をいつの間に作ったんだ。舞台へ続く道には民衆が溢れ返っており今か今かとおいしそうな料理を前に手を出さずに待っている。



 舞台に着き所長と共に舞台に上がった。舞台上にはすでに王様とイーナさんと僕の仲間達が集まっていた。

「主役の登場じゃ」

 そう言いながら所長が僕を民衆の前に押し出すと王様が口上を述べる。

「皆の者聞けぇぇい! 此度危うく我が国が溶岩に飲まれる所を救ってくれたグロリオーサ王国のティム王子だ! 王子から一言挨拶がある」

「えー皆さん初めましてグロリオーサ王国第二王子の次男のティム・カタプレイト・グロリオーサと申します。この度はとんだ災難に遭われましたが、今は皆さんが笑顔になられているので僕も少しは皆さんの笑顔に貢献できたのかなと誇らしい気持ちで一杯です。短いですが以上を挨拶とさせていただきます」

「ティム王子ありがとう! 皆の笑顔があるのはティム王子のおかげだ!」

 王様の謝意の言葉と共に拍手と歓声が沸き起こった。


「それでは宴を開始する! 皆好きなだけ飲んで食らうがいい!」

 僕の挨拶の時よりも大きい歓声が起こり、民衆が両脇のカウンターテーブルから我先にと料理に手を出す。

 すごい光景だな。しかしあれだけいい匂いのしている料理を前にお預けを食らっている状態だからそれはそうなるか。



 宴は大きな騒ぎが起こる事も無く無事終了した。途中アマーゴ料理が無くなり材料も無くなるというハプニングも在ったが、僕が以前もらったアマーゴを提供する事で無事解決した。爺やとマリナのアマーゴ好きを侮っていたな。

「ティム王子、宴はいかがだったかな?」

「いや~お腹が一杯になりましたよ。珍しい料理もたらふくいただきました」

「ガッハッハ、それはよかった。ところで出発は明日かな?」

「はい、そのつもりです」

「わかった。明日の朝、渡せる様に最新の魔法馬車と魔法石と親書の返事を用意しよう」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「それとイーナの事よろしく頼んだよ。何かあれば爺が悲しむ。爺が開発したアイテムをこっそり大量に持たせると思うから大丈夫だと思うがな」

「それは国外に持ち出して大丈夫なんですか?」

「まずいが爺を安心させるためには仕方が無い。俺も心配だから目を瞑るよ。ガッハッハ」

 大丈夫なのか? しかし非公式ではあるが王の許可もあるし問題ないか。いや、しかしな…………まぁあまり深く考えないでおこう。



 出発の朝、王に親書の返事をもらい最新の魔法馬車の説明を受ける。

「これはデコイホース無しの魔法馬車じゃ。空調調節機能は簡易だが付けてある。そして目玉はこれじゃ」

 そう言うと御者席にあるスイッチを押す。

 スイッチを押した途端に馬車を覆う様に半透明で半球状の結界が張られる。

「これは結界魔法!」

「少し違うんじゃが効果は似ておる、まぁこれの方が優秀じゃがの。この結界は登録者以外は通さない結界なんじゃ。じゃから悪意があろうがなかろうが登録者以外は出入りが出来ないんじゃ。さらにこっちを押すと……」

 所長が別のスイッチを押すと先程の結界の上から薄い赤色の結界がさらに張られる。

「これは結界に触れた瞬間電流が流れ対象に電流を流す結界じゃ。じゃが開発中の物なので流れる電流の強さが変更できんのじゃ。常にオーガが気絶するくらいの電流が流れておる。また結界内に居る者が外に出ようとして、この結界を発動したままにしておると電流を食らってしまうので注意が必要じゃ。緊急時以外は使わんほうがおすすめじゃ」


「すごいですね。これじゃ私の結界魔法は用無しですね……」

「リリア様、私の結界魔法も用無しでございます……」

 リリアと爺やが落ち込んでいたので慌ててフォローする。

「いやいやリリアは回復魔法もあるし爺やも他の生活魔法もあるだろ。二人の活躍には期待しているよ」

「そうですね私には回復魔法も防御魔法もあります」

 リリアが小さくこぶしを握りながら言う。

「私にも『清浄』がございました」

 二人ともお互いを見つめながら微笑んでいる。

 爺やはリリアを気遣ってああ言っただけだろうが、リリアは意外にネガティブなところがあるんだな。




「ふぉっふぉっふぉ、続きいいかの? ここが赤く光ったら魔法石の交換の印じゃ、中を開けるとこんな感じでここに魔法石をはめ込むんじゃ」

 スイッチの左にある蓋を開けるとこぶし大より少し大きめの魔法石が一つ入っている。

「そしてここには予備の魔法石を入れておる」

 そういいながらスイッチの右にある蓋を開けるとこぶし大より少し大きめの魔法石が三つ入っていた。

「このひとつでどれくらい持つんですか?」

「毎日両方の結界を八時間発動させるとして三十日ってとこじゃの、普通の結界だけじゃと九十日は行けるじゃろう」

 これで九十日もつのか、こぶし大より少し大きめだからゴブリンの魔法石四匹分ってとこかな。

 ちょっと待てよ。これひょっとして移動しながらでも結界が使えてしまうんじゃ……。



「これって移動しながら結界が使えません?」

「いいところに目を付けるのぉ、わしもそれを考えたて試してみたんじゃがのぉ。移動しながら発動はするんじゃが結界の効果がなくなるから全く意味がないんじゃ。どうやら移動しながらだと結界自体が安定せんようじゃ。」


「なるほど、そんなにうまくはいきませんか」

「うむ、しかしそうやって何千の失敗から一つの成功が生まれるんじゃ」

「やはり数々の発明品や発見をしている人の言葉は重みが違いますね」

「所長の場合は失敗が多すぎて他からの突き上げもすごいですけどね」

「イーナ! わしがせっかくいい感じで締めようと思っていたのに」

「事実ですからね!」

「む、むぐぅ」

 所長が苦々しい顔をしているのがなんだかおもしろい。


「ティム殿これを」と所長が最新の結界用の魔法石を僕に渡しながら言う。

「しかしよく考えたらこの魔法馬車があれば最新の結界用の魔法石はいらんようじゃの」

「た、確かに」

「ふぉっふぉっふぉ、まぁ魔法馬車が壊れたりしたらこの魔法石を使えば良い」

「はい」

 最新の魔法石はいきなりタンスの肥やしか……。


「魔法馬車の説明はこんなもんかの。旅に出るまでに時間があるなら物資の補給もしていくとよい。地下一階には店もあるでの」

「わたしが案内しますよ~旅の用意はほとんど終わっていますがちょっとほしい物もありますし」

「よろしく、じゃあみんなイーナさんの案内で店に行こう」


「そういえばドワーフの国をじっくり回るのも初めてか」

「地下にあるからちょっと狭いかも~けど賑やかさは他国に負けないとおもう」

「楽しみだな~ところでイーナさんの欲しい物って何ですか?」

「ふっふっふ、それは秘密よ!」

「そうですか」

「あれ~ティム君興味ないの?」

「そうですねそれよりあそこの金物屋の調理器具っぽい物が気になります」

「リリアちゃん~ティム君が冷たい~」

「ティムは調理関係に目が無いですからね仕方ありません。しばらくは様子を見るしかないでしょう」

「うぅ~」


「親父さんこれは一体何をするものですか?」

「坊ちゃん良い物に目を付けたね。これは野菜の皮をむく器具だ。実演してやろうこうやって野菜を持ってこの刃の所に当てて下にこすると皮がするりと剥ける仕組みさ」

 親父さんがリズミカルに皮を剥いていく。

「包丁で剥くよりすごい楽ですね、それに意外に薄く剥けてる」

「だろう? これは今一押しの商品さ」

 すごいけど買うのは止めておこう。楽をしたら腕が落ちそうな気がする。

 しかしこの構造はうちの国でも作れそうだな……構造を覚えて試作品でも作ってみるか。

「親父さんありがとう。今回は買うのは止めとくよ」

「そうかい。まぁゆっくり見てってくんな」

「ありがとう」



 ふと気が付くと爺や以外はいなくなっていた。

「あれ? みんなどこ行ったんだ?」

「皆さん坊ちゃまがあまりに夢中になっておられたので、坊ちゃまを私に託して旅に必要な日用品などを買いに行かれましたよ」

「そ、そうかちょっと珍しい物ばかりだったから夢中になり過ぎたな」

「ホッホッホ、坊ちゃまは相変わらず料理の事になると周りが見えなくなってしまいますな」

 ちょっと夢中になり過ぎたな、けれどもこれで国に帰っても色々作れそうだ。あとは油なんかも手に入れておきたいな。

「爺や皆を探すついでに油を手に入れよう」

「かしこまりました」



 爺やとふたり通りを歩く。天井には魔法で照らされた明かりが灯っており、地下なのに外と変わらない程に明るい。

 道の両脇には店舗が並んでおり活気があって人も多い。

 人が多いので少し歩きにくいな。リリア達はどこにいるんだろう。

 そう思っていると、なにやら前方に人だかりが見える。

 あれはイーナさんとドワーフ芋屋さんだな。

「副所長もう勘弁してください!」

「勘弁ってなによ! じゃあ後百キロ買うからもうちょっと安くしてよ」

「もうこれが限界ギリギリの値段です。ほんと勘弁してください」

 店の主人だろうか土下座しそうな勢いで頭を下げている。

「だから勘弁てなによ? わたしが悪い事してるみたいじゃない」

「もう! 仕方ないわねこの値段でいいわ」

 店主はホッとした表情で笑顔を見せるが、「おまけに期待してるわよ」とイーナさんが言うと泣きそうな顔になっていた。


「あらやだ、恥ずかしいところを見られちゃったわね」

「イーナさん店主さんが泣きそうになってるぞ」

「うふふふふ、たまにここで値切り交渉するのが私のストレス発散方法なの」

 なんて迷惑なストレス発散方法なんだ。

「迷惑なんて人聞きの悪い。大量に買うから在庫処分になってありがたがってくれる所もあるのよ」

 何も言ってないのに……また顔に出ていたのかな……。

「他所の町では止めてくれよ」

「わかってるわ。その辺はわきまえてるつもりよ」

「ならいいけど」


 少し離れていたリリアとマリナが近づいてくる。

「すいません。恥ずかしくてちょっと他人のフリをしてしまいました」

「恥……」

「ちょっと二人とも恥ずかしいってなによ~」

「あまりに値段交渉がすごすぎて……周りに人だかりも出来てしまいましたし」

「人だかりはいつもの事よ。それより旅に必要なものは買えたの?」

「私はばっちりです」

「完了……」

「僕は後は油だけだ」

「油はどのくらいいるの?」

「そうだなぁ、自国で使う分もついでに買っておこうかな。だから五樽は欲しいな一樽で百六十リットルくらいかな?」

「うん、それくらいは入ってると思う。けど買わなくてもいいわ。マジックボックスに十樽はあるからそこから分けてあげる」

「そうか助かる。いくら払えばいい?」

「王に旅の支度として出してもらえるからお金はいらないわ」

「やった。ありがとう」

「どういたしまして、うふふふふ」



 買い物を済ませると王に別れの挨拶をしに城へと向かった。

「そうでは王様、所長お世話になりました。また今度ゆっくり訪問させて頂きます」

「うむ、ドワーフの国は救国の英雄をいつでも歓迎するぞ」

「その救国の英雄ってやめてください。恥ずかしいです」

「ふぉっふぉっふぉ、わしゃいいと思うがのぉ」

「そうか、まぁ言葉に出さずとも俺達が感謝しているのは忘れないでくれよ」

「はい」


「イーナ体に気を付けてな」

「所長も年だから体を大事に、カツやフライばっかり食べずに野菜もしっかり食べてくださいね」

「わかっておる。大丈夫じゃ」

「それじゃ行ってきます」

「うむ、気を付けて行くんじゃぞ」

「イーナ、副所長の座は開けておくので気兼ねなく行ってくるがいい」

「ありがとうございます。行ってきます」


「ティム殿イーナをくれぐれも頼みます」

「はい。承知いたしました」

 僕と所長はがっしりと握手を交わす。

「皆さんお元気で!」

 僕達は手を振り別れを告げると、いよいよ最後の国、竜人の国リュノール王国へと向かった。

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