目覚め
目が覚めて一番驚いたのは魔力量が倍以上になっている事だった。
魔力の質と言ったらいいのか、馴染み具合もすごい。
ちょっと慣れるのに時間がかかってしまいそうだ。
試しに『防御壁』を顕現してみて驚いた。
こ、これは! 強度が倍以上になり魔力を流す効率も倍以上になっている! これならカスパルの本気の『灼熱の波』も『防御壁』で受け止められそうだ。
次代の妖精王が言っていた魔力の質が上がるっていうのはこういう事か。しかし魔力の質なんて普通では上げる方法なんてないよなぁ。魔法の練度を上げる事と似たような事なのかな。
僕が魔法について考えているとドアがノックされた。
「坊ちゃま、起きてらっしゃいますか?」
「爺や、起きてるよ入ってくれ」
爺やが少し心配そうな顔で入ってきた。
「坊ちゃま、お加減いかがですか? どこか調子が悪いところなどはございませんか?」
「ああ全く問題ない。むしろ魔力の質が上がって調子がいいくらいだ」
「魔力の質ですか? そういえば坊ちゃまの魔力の感じが少しいつもと違う気がいたします」
「またその辺の詳しい話は皆がいる時にするよ」
「かしこまりました。そろそろ朝食のお時間ですので食堂に参りましょうか」
「わかった」
食堂に向かうとすでに皆揃っており僕が一番最後だった。
「遅れてすみません」
「いやいや構わんよ、ティム王子は疲れているだろうから俺が起こすなと言ったんだ」
「さぁ食事をいただこう」
王が皆に食事をするよう促した。
「食べながらで構わんから昨日何があったか教えてくれんか? わしが見たときティム殿はカスパルの魔法に押し負けて弾き飛ばされたように見えたが、気が付いたらティム殿は元の位置にいるしカスパルの魔法は消滅しとるし」
昨日から気になっていたのだろう所長が開口一番そんな質問をする。
「僕も未だに信じられませんが……」と昨日の出来事を話す。
「うむむむ、にわかには信じがたいが確かにティム殿の総魔力は上がっておるし魔力の感じも変わっておる。妖精の囁きがある以上、妖精王という存在がいてもおかしく無い話じゃが……うむむむ」
「爺、そんなに難しく考えなくてよいではないか。おとぎ話と思っていた妖精王は実在した。受肉していないから姿は見えない。それなら妖精の囁きは聞こえるが妖精の姿が見えないことも納得できる」
「それもそうですな」
「あともう一つティム殿が溶岩を『往なす障壁』で往なした時に出た光る羽あれは一体なんじゃ? 『往なす障壁』という新魔法も気にはなるがそっちの方がきになってのぉ」
「所長! 他の人が開発した魔法の事を聞くのはマナー違反ですよ!」
「そうは言うがのイーナ。わしゃどうしても気になるんじゃ」
所長がイーナさんに怒られてしょんぼりしている。
「構いませんよ。どうやらあれは『往なす障壁』が昇華した物のようです」
「魔法の昇華じゃと! わしも長く生きておるが魔法の昇華が実際に起こったのを見たのは初めてじゃ」
「単純な名前ですが『守りの羽』と名づけました」
「魔法名はわかりやすい方がよい。それにしても魔法の昇華か……いやはや長生きはするもんじゃ、ふぉっふぉっふぉ」
「爺! 難しい話はそれまでだ。 さあ食事を楽しもう」
「それもそうですな。ティム殿ありがとう」
「いえいえ、僕も妖精王について皆さんに話そうと思っていました」
僕自身も未だに信じられない気持ちだからな。
「この後の予定だが救国の英雄に対し感謝の儀を開きたいのだが? ようは宴を開くから欲しい物はあるか? といった事だ」
「欲しい物ですか? 特に無いですけどね」
「ガッハッハ、欲がないな。それじゃ最新の魔法馬車とか、結界魔法用の魔法石とかはどうだ」
「それは旅を続けていく上で助かりますね」
「そうだろう、しかし救国の英雄に対してそれだけでいいのかとういうところもあるな……うーむ」
「わたしにいい案があります。わたしが旅についていくのはどうでしょうか? 研究所で作ったアイテムの扱いはわたしが一番うまく使えますし料理も得意です!所長の元で鍛えられましたから雑務も得意です! 旅のお役に立つと思います」
「いや、さすがにそれはティム王子側の都合もあるし爺も困るだろう?」
そりゃそうだ所長はイーナさんに頼りっきりだったし孫みたいなもんだろうしな。
「わしは反対しません。イーナ程優秀な人間は他におりませんが、事前にイーナから相談を受けましてな、今回はイーナの意思を尊重してあげたいんですじゃ。それにまだ若いんじゃから他国で見分を広めるのもいいかと思いましてな」
「そうか、爺が反対せんのなら俺が反対するわけにもいかないな。よし、イーナその件はティム王子がいいというなら許可しよう」
皆が一斉に僕の方を見る。さすがにこの流れで反対できる奴はいないだろう……。
「僕は構いません。料理が得意なら色々教わりたいですし、むしろこちらからお願いしたいくらいですよ」
「決まりですね! ティム君みなさんこれからよろしくね!」
「イーナ様よろしくお願いいたします。坊ちゃまにはアマーゴ料理を色々教えてあげてください。それと旅路でのアマーゴ料理にも期待しておりますよ」
そう言いながら爺やとイーナさんがしっかりと握手している。
「ごめんなさい。わたしデザートが得意で他はあんまりなんです。アマーゴはほとんど扱ったことが無いです」
申し訳なさそうに言うイーナさんとうなだれる爺や、そしてアマーゴ料理と聞いて自分も握手をしようとして爺やの後ろに並んでいたが、手を差し出したまま口を開けショックで固まっているマリナ。
仕方がないな。「アマーゴは塩焼きが一番だろ?」
僕がそう言うと、二人とも腕を組みながらそうれもそうだなといった感じで頷いている。
全く二人のアマーゴに対する情熱はすごいな。
確かにアマーゴはうまいがそれにしてもな……。
「リリアさんもよろしくね」
「こちらこそよろしくお願いいたします。私にもデザートのつくり方を教えてください」
「もちろん、とびっきりおいしいの教えてあげるし御馳走してあげるわ」
「それは楽しみです」
「話が逸れてしまったが、欲しい物の件はこれでまとまったか。宴は地上で昼から晩にかけて行う予定だ。ティム王子にも民に一言挨拶してもらうからよろしく頼んだぞ」
「そうなんですか! できればあまり公の場には出たくないのですが……」
「なに一言だけだ、主役の挨拶が無ければ締まらんだろう? 頼む!」
何とか挨拶は避けようと思ったが、王様の言う事も一理あるか。
「そこまでおっしゃるなら一言だけですよ?」
「ガッハッハ、よろしく頼んだ!」
宴までは少し時間が有ったので所長と話をした。
「ティム殿、イーナを押し付けてしまった形になってすまん! じゃが本人がどうしても、と言うもんでのぉ。わしゃ断り切れんかったわい」
「いえいえ、僕も色々イーナさんに教わるつもりですので押し付けられたなんて思っていません。ですがなぜこの旅に同行したいと?」
「わしの口から言っていいもんかわからんが……ティム殿に惚れたようじゃぞ」
「え! 惚れたですか……」
惚れていると言っていたがそれはよくある思春期の女子がかかる王子という言葉に対しての憧れを好意と勘違いしてしまっていて王子本体には全く関心が無い事の事だろうか?それとも王子という役職に対してお姫様という言葉が連想され自分がお姫様になるという幻想を抱き王子の事に全く関心が無い事の事だろうか?それとも王子という立場におどら
「坊ちゃま!」
僕の思考は爺やの掛け声とともに頭に入った手刀によって中断させられる。
「はっ! 僕は一体?」
「坊ちゃまは少し慎重に考えすぎておられたようですので、失礼かと思いましたがいつものように頭に手刀を入れさせていただきました」
「そうかありがとう爺や」
「いえいえ」そう言うと爺やは何処とも無く離れて行った。
「ティム殿の過去に何があったか気になるのぉ……まぁそれは置いといて」
「イーナは、はっきりとは言わんかったがわしの見立てではありゃ惚れとるぞ。ティム殿の魔法の昇華について研究したいと言っていた目が惚れた女の目じゃった」
それは本当に魔法の昇華に興味があっただけなんじゃ……。
「そうですか。まぁ魔法の昇華については僕も解明できればいいと思ってます」
「うーむ、思いなのか練度が関係しておるのかはたまた技術的な要因か」
「練度は関係無さそうですけどね。『往なす障壁』の練度は低いです」
「ほほう! 練度が低いとな、逆にそれが条件かもしれんのぉ。練度が低いなおかつ魔法に込める思いが強いとかかもしれんのぉ」
「確かに練度が低いってことは当てはまるかもしれませんね」
確かにそれならあまり昇華が起きない事にも納得がいくな。しかし練度が低いことが条件か……。その発想は無かったな。さすがは所長だな。
「そろそろ宴の時間のようじゃ。ティム殿地上に向かおうか」
「はい」
リリア達はは先に行っているみたいだな。僕は所長と会場に向かった。




