ドワーフの国
次の日の朝、朝食を取りながら皆にマロンから聞いたことを話す。
「狂人カスパルか名前は聞いたことがあるな。まったくドワーフの国もとんでもないやつに目をつけられたもんじゃ」
「じゃあ王様にも知らせないといけませんね所長」
「そうじゃのぉ、わし面倒だからイーナ頼んだ」
「研究以外の事となるとすぐ面倒くさがるんですから、わかりましたよ報告書はわたしから出しておきます」
「頼んだぞ、わしはそういう雑務は苦手なんじゃ」
苦手というよりホントに面倒くさいんだろうな……イーナさんも苦労してそうだ。
馬車があまり揺れずに静かに進んでいる。ってことは今日の御者はリリアだろうな、さすがに魔力の制御が上手い。魔法馬車は動かすだけなら誰にでもできるが魔力の制御の仕方によって全然動きが違ってくるんだよな。リリアの場合はほとんど揺れたりしない。僕もそこまではうまく制御できない。
マリナがリリアの隣に座り制御方法を教わっている。
「そうそううまいですよ、そうやって一定の量の魔力を流し続けるんです」
「続かない……」
「そうですね。意外と一定の量を継続して流し続けるのは難しいですからね。こればっかりは毎日続けて鍛えるしかないです」
「頑張る……」
「ふふふ、マリナちゃんは筋がいいからすぐできるようになりますよ」
途中何度か魔物が近づいてきたが『灼熱の輪』で燃やし尽くす。
最近、魔法鍛錬ができていなかったからちょうどいい。
先程までは平坦な道が続いていたが辺りに大きな岩や石が目立ち始めた頃、魔物もゴーレム系の魔物が増え始めた。
ゴーレム系の魔物とは土や石などでできた巨大な人形兵だ。体の構成物質によって名前や特性が変わる魔物だ。
ゴーレム系の魔物には『灼熱の輪』は効きにくいんだよな。
『切り裂く風』に切り替えるが、これも全く効かないゴーレムが現れる。
「あれはアダマンタイトゴーレムじゃ、少し体の色が青っぽいじゃろう? あいつは魔法自体が利きにくいからこれを使うんじゃ」
そう言いながら小さいハンマーを取り出した所長が、アダマンタイトゴーレムに近づきハンマーを振るうと当たった途端に先程までの堅牢さが嘘のように土塊に代わる。
「もう! 所長ったら無茶して!」そう言いながらイーナさんもハンマーを振り回す。
す、すごいなこれじゃ僕の出番はないな。
そう思いながら見ていると、辺りに居たアダマンタイトゴーレム達を土塊に変え終わった所長が戻ってきた。
「むっほっほ、いいじゃろうこれ。最近開発したアダマンタイトゴーレムに効くハンマーじゃ」
「すごいですね! あの固いアダマンタイトゴーレムが一瞬で土塊になりましたよ」
「そうじゃろうそうじゃろう、むっふっふ」
「アダマンタイトゴーレムにしか効かないし、土塊に変えちゃうから戦利品はないけどね」
「これイーナ! それは言わん約束じゃろ!」
「いやぁあまりに所長のドヤ顔が癇に障ったもので」
「ふ、ふんまあいいわい。役に立つのは間違いないからの」
「そこは認めますよ」
「こちらも通常のゴーレムの対応は終わりました」
「完了……」
そう言いながら爺やとマリナがやってきた。
実際にマリナが戦っているのをじっくり見たのは初めてだが、基本的な戦闘スタイルは早さで圧倒しながら手数で削り切る感じだな。そういえばマロンとの闘いでもそうだったな。
けどさすが獣人というかあんな小さな体のどこにあんなスピードとパワーがあるんだろうか。
そう思うほどにゴーレムと戦うマリナは強かった。
その後ドワーフの国への旅路は順調に進み、夕方にはドワーフの国の近くまで来ていた。
「あれじゃ、あれが有名なボルカン山じゃ。あの山の麓にドワーフの国があるんじゃ」
「それにしても暑いですね。出発前と比べて大分暑くなった気がします」
「そうじゃの~あと二~三度はドワーフの国の方が暑いはずじゃ。国の地下は涼しいがの」
暑くなった気温に辟易しながら何とかドワーフの国の目前まで来た。
壁は獣人の国よりは高いが幅はそこまでないな。
門に近づくと門から衛兵がやってくる。
「所長にイーナ様! ご無事で何よりです! イーナ様から連絡を受けた時は肝が冷えましたぞ! ささ、早く王にご無事な姿を見せに行ってください」
「おおげさじゃ! まぁ心配をかけたようじゃの、すまんすまん」
「ふふ、所長は殺しても死なないので大丈夫でしょ」
「コレ、イーナ! わしはばけものじゃないぞ。 まったく」
「ところでこちらの方々は?」
「彼らはわしの連れじゃから気にしなくていいぞ」
「そうでしたか。どうぞお通り下さい」
門を潜ると思ったよりも建物が少なく畑が多いな。
「思ったより建物が少ないんですね」
「ふぉっふぉっふぉ、ここは入り口にも達しておらん。ホレ、あれが入り口じゃ」
所長が指さす方向にドーム状の建物が見える。ボールの上半分だけが地面から出ているような形だ。
さらにその真ん中だけがぽっかり半円型に穴が開いている。
近づいていくと結構大きい事に気が付く、直径で三十メートルはありそうな建物で半円型に開いた入り口から中に入ると、地下に続く大きい階段がある。
大階段を下りていくと徐々に涼しくなっていることに驚く。これが涼風機の力か!
階段をそのまま降りると五メートルほど平坦な道になっているところがあり、そのまま左右に道が広がっている、大階段はさらに下に続いているが、ここが地下一階なのかな。
「ここが地下一階じゃ。全部で地下四階まであるが、地下一階には住居と市場が、地下二階に公共施設、研究所、鍛冶場がある、地下三階が王城となっており、地下四階は秘密じゃ。関係者以外は降りれん」
「外から見るよりかなり中は広いですね。」
「地下一階が一番広いんじゃ、地下に降りるほど狭くなる構造じゃ。地下一階はそうじゃのぉ獣人の国の半分ぐらいはあるんじゃないかのぉ」
獣人の国の半分ってかなり大きいな! それを地下に作るなんてかなりの年月がかかったんだろうな。
はるか昔のドワーフの国に思いを馳せていると、
「とりあえず面倒じゃが王の所に行くぞ」
面倒って王様の扱いがぞんざいだな。
「もう! そんなこと言うと王がまたへそ曲げちゃいますよ!」
へそを曲げる王って……。
地下をどんどん降りていくと、衛兵が立っている階段がある。
「あの下が秘密の地下四階じゃ、あそこには用事がないからわしらは右の道から王城に行くぞ」
右の道を進むと衛兵が立っているドアが見える。
「これはホルガ―所長とイーナ様、連絡は受けておりますどうぞお通り下さい。お連れの方々もどうぞ」
衛兵が敬礼をしたのち、ドアを開けてくれる。
ドアを通り抜けるとそこはレッドカーペットが敷かれた部屋になっており奥に玉座が見える。
玉座の前には身長が百四十センチ程の筋肉質な中年男性が、王座の前を行ったり来たり落ち着きがない様子で歩き回っている。
こちらに気が付くと、
「爺! 心配したぞ!」と所長めがけて一目散に走ってくる。
「王よ心配いらないと通信石で事のあらましは伝えていたじゃろうに」
「それでも心配なもんは心配だ! いや~顔を見て安心した! 俺の相談に乗ってくれるのは爺だけだからな!」
「王よもうちょっとしゃんとしてくだされ他国の者も居ますゆえ」
「そうだったな! いやはや皆さん初めまして俺がこの国の王、ベルンハルト・ルーツ・ドンガラムだ」
「王よお初にお目にかかります。僕はグロリオーサ王国の第二王子の次男ティム・カタプレイト・グロリオーサと申します。我が国の王からの親書をお持ちいたしました。ご確認よろしくお願いいたします」
「ヒューマンの国の王子はどの子も礼儀正しいね。俺は堅苦しいのは苦手だからこんな感じだけどよろしく」
「そっちは巫女さんに噂の獣人の娘か、どれどれ失礼するよ」
そういうと王は懐から眼鏡を取り出しマリナを眺める。
「ほほう! こいつは確かに爺の言った通り綺麗な魔力の流れだ、魔力の量も多いな」
僕らがこの人は急に何言ってるんだろう? といった視線に気が付いたのか、
「ん? ああ、皆この眼鏡に興味津々か! こいつは爺が開発した魔力の流れや大きさを見ることができる眼鏡だ。もちろんこのメガネでも見えないやつはいるが、大抵見えるので便利な道具だぞ」
そんな便利な物も開発しているのか、これがあればどこに人がいるかわかるから暗殺なんか防ぐのにもいいし、新しい才能の発掘にも便利そうだ。魔法が使える人でも皆が皆、魔力の流れや大きさを見ることができるわけでもないしな。
「今日は城でゆっくり休んで行ってくれ。丁度もうすぐ夕食だから皆で食べなながら話でもしよう。とりあえず各自に客間を案内しよう」
王がベルを鳴らすとメイドさんがどこからともなく現れる。
「客人を客間にご案内してくれ。また夕食の用意ができたら呼びに行く。それじゃあ後程」
そういうと王座の奥から出て行った。
僕らもメイドさんに案内され各々個室に案内された。
案内された個室は豪華ではないが綺麗に整理整頓されておりソファやベッドは品が良いデザインで傷一つ無く新品と見紛うほどであった。
綺麗なベットに横になり夕食まで待つことにした。




