所長とイーナさんとの出会い
三つ目の国はドワーフの国ドンガラム王国。
ドワーフの国は王が治める君主制の国で、色々な研究が盛んな技術大国だ。
とくに有名なのが王立魔法技術開発研究所で、ここでは魔法を応用した技術の開発を行っており魔法馬車、アイテムボックス、通信石、数えだしたらきりがない程の発明品を生み出している。
王立魔法技術開発研究所ができたきっかけが、ドワーフの国は活火山のボルカン山の近くにあった為、国全体がすごい暑かった。
ドワーフの気質として弱音は吐かない、我慢するのが美徳である。といった気質があったので皆、暑いのを我慢していたが、ある代の王が「暑い! 我慢ならん! 何とかして涼しくせよ!」と命令を出したので、王立魔法技術開発研究所が設立された。
元々皆暑いと思っていたが気質の為、我慢していたが王が命令を出したので、暑いの我慢しなくていいのか! といった風潮になり、もともと技術開発は得意な種族なので一気に開発が進み技術大国と呼ばれるまでになった。
僕らもその恩恵に与っているのでその王様に感謝したい。
そんなドワーフの国が開発した魔法馬車に乗りながら旅路を進んでいると、どこからか声が聞こえてくる。
「誰か~イーナ~おらんか~」
「リリアどこからか声がしないか?」
御者をしながら隣に座っているリリアに尋ねる。
「確かにどこからか声がしますね」
辺りを見回すが誰もいない。
「お~い、ここじゃ、ここじゃ」
「あのあたりから聞こえてくるな」
馬車を止め、警戒しながら声のした辺りに近づくと大きな穴があった。
その穴底でドワーフのおじいさんがぴょんぴょん跳ねている。
「お~若いの、助けておくれ、穴に落ちてしまったんじゃ」
「おじいさん大丈夫ですか? 今助けます」
ドワーフのおじいさんを穴から助け出すと、
「いや~助かったわい。あの穴の中で余生を過ごす羽目になるかと思ったわい」
「災難でしたね。なぜあんな穴に?」
「いや~考え事をしていたらいつの間にか落ちてしまってな、それに助手ともはぐれるし参ったわい」
がっはっはと頭髪の少なくなった頭をなでながら豪快に笑っている。
「いやはや助かったわい。わしはドワーフの国の王立魔法技術開発研究所の所長でホルガ―・ナウマンじゃ」
「僕は……」
と自己紹介しようとしたところで横から、
「あー! 見つけたー!」
「所長! どこ行ってたんですか! 急にどっか行っちゃって!」
と白衣に身を包んだ茶色の髪でポニーテールの眼鏡を掛けた女性が現れる。
身長は百六十センチ位で胸が大きく年の頃は二十歳位だろうか。顔立ちはエルフっぽいが耳が短いな。
「おお! イーナではないか。いやいつも通り考え事をしていたらいつの間にか穴に落ちていてな、この若者達に助けてもらったんじゃ」
イーナと呼ばれた女性は、今初めて僕達に気が付いたようでびっくりした顔をしていたが、
「そうでしたか。所長を助けていただきありがとうございます。わたしはイーナ・アメルング。王立魔法技術開発研究所の副所長をしてます」
「ん? そっちに居るのはエルフの巫女様じゃないかのぉ?」
「お察しの通り私はエルフの巫女でリリア・クリベリルと申します。先代の巫女になりますが」
「ふぉっふぉっふぉやはりそうじゃったか。以前エルフの国に行った時に見かけたのでな……。ところでエルフの元巫女様と一緒とはお主一体何者じゃ?」
少しいぶかしげな表情になったホルガ―所長に問われる。
ここは身分を明かした方が安心してもらえるかなと思った僕は、
「僕はグロリオーサ王国の第二王子の次男で、ティム・カタプレイト・グロリオーサと申します。ご挨拶が遅れまして申し訳ございません」
「ホホーッ! これはなんとまあヒューマンの国の王子様であったか、という事は成人の義務かな?」
「博識な方ですね。おっしゃる通りです。成人の義務で各国に親書を届ける旅の途中です」
「ふぉっふぉ、数年前にお主の兄が来ておったのを思い出してな、王子が国外に居るとなるとそれ以外考えられんじゃろう?」
「さすがは王立魔法技術開発研究所の所長様ですね」
「所長様なんてやめてくれい。爺さんか所長と呼んでおくれ。わしの方こそ王子に敬語を使った方がいいかのう?」
「それこそやめてください。あの有名な王立魔法技術開発研究所の所長に敬語なんて使わせたら皆に何と言われるか……それと一応、旅の身分は商人の息子という設定ですので、王子ではなくティムとお呼びください」
「ふぉっふぉっふぉ、了解したそれではティム殿と呼ぼうかの」
「ところで、ティム殿はこれからドワーフの国へ向かうのかの?」
「そうです、これから向かう予定です」
「それは渡りに船じゃ、わしらもドワーフの国まで乗せて行ってくれんかのう?ちょっと計算間違いで帰る手段が無くなってしまったのじゃ」
「大歓迎ですよ! 是非ともドワーフの国の事を聞かせてください」
「ふぉっふぉっふぉ、交渉成立じゃのぉ。じゃあよろしく頼む」
「所長が図々しくてすみません。でも助かりました改めましてわたしはイーナ・アメルングです。所長共々よろくおねがいします」
「こちらこそよろしくお願いします。残りの僕の旅の仲間も紹介しておきますね」
と爺やとマリナも紹介する。
マリナを見た所長が、「ほほう! マリナちゃんは猫獣人かの?」
「そう……」
「ふむふむ、猫獣人でこれだけ綺麗な魔力の流れを見たのは初めてじゃ。魔力の量もかなり多いのぉ」
所長はそんなこともわかるのか。純粋なドワーフで魔法の扱いに長けている者は少ない。
ってことは所長はハーフなのかな。
「ティム殿わしは純粋種じゃよ先祖返りかも知れんがのぉ。少なくともわしの曾爺さん位までは全員ドワーフじゃ」
何も言っていないのになぜわかったんだと思っていると、
「ふぉっふぉっふぉ、顔に書いてあるわい」
と言われてしまった。思ったことが顔に出やすいのかな僕……。
「こっちのイーナはドワーフとエルフのハーフじゃ。ハーフの女性は身長も高くなって胸もボインボインじゃぞ」
ボインボインじゃぞを小声で僕に言ってくる所長。
確かにイーナさんの胸はボインボインである。そんなことを思っていたらリリアとマリナにわき腹をつねられた……。やはり顔に出ているのか僕は……。
「ティム殿はもてもてじゃのぉ、ふぉっふぉっふぉ」
所長のご機嫌そうな笑い声だけがあたりに響いた……。
そんな成り行きでドワーフの所長とイーナさんが僕達の旅に加わることになり大所帯で旅路を行く。
ドワーフの国まではこのままいけば明日の夜には着くだろう。
そう思いながら御者をしていると、イーナさんが御者の横に来て話しかけてくる。
「わたしデコイホースって久しぶりに見た」
「そうなんですか? うちの国ではこれが標準の馬車ですよ」
「ティム君、敬語はいいよ。わたしもティム君って呼ばせてもらうし」
「そう? じゃあイーナさんこれからよろしく」
「うん、よろしくね」
「ところでドワーフの国の馬車はデコイホースで引かないの?」
「そうね。昔はデコイホースで引いていたみたいだけど今は無いわ、前面に動力があってそれで動く物が大半よ。デコイホースは他国の魔法馬車で見るぐらいかな」
「じゃあ獣人の国で見た奴と同じかな、あれもデコイホース無しだったし」
「ドワーフの国と獣人の国は技術提供し合っているからね」
「獣人の国がうらやましいな。うちの国も最新の技術が欲しい……おもに料理面でだけど」
「ティム君料理するの?」
「するし食べるのも好きだ」
「へぇー男の子で料理できるなんて珍しいね」
「確かにそうかもしれないな」
そんな会話をしながら旅路を進める。




