奉納音楽祭
次の日の朝、祭りの太鼓や笛の音で目が覚める。
結構盛り上がっているな。
食堂に向かうとアマイアさんとマリナと爺やがくつろいでいた。
「あら、ティム君おはよう。昨日はすごく疲れていたみたいね。ぐっすりだったわよ」
「寝顔……」
「坊ちゃま、おはようございます」
「あの人ほどじゃないけどかわいかったわよ、うふ」
参ったな、寝顔を見られていたとは。
「あれ?ガストンさんはまだ寝てますか?」
「あの人は奉納奏者ですからね。朝早くに最終練習の為に出かけたわ。ところでティム君、お腹は空いた?」
「言われてみれば結構空いてますね」
「奉納音楽祭の日は外で食べるのが慣習となっているから今日は外で食べるわ。色んな屋台が一杯出ているから食べ過ぎないように注意してね」
「屋台ですか、楽しみだな」
「おはようございます」
そう言いながらリリアが玄関の方からやってきた。
「ちょっと散歩してきたんですが、まだ朝ですが人がすごく多かったですよ」
「今日は魔法馬車も運行を休みにしていて、普段は屋台を出してはいけない道も今日は出してもいいから
人がすごい多いと思うわ。ティム君、私は子供達と行くからティム君たちは仲間同士で楽しんできてね」
「わかりました。マリナはどうする?」
「ティムと行く……」
「了解。じゃあ四人で行くか」
外に出ると太鼓や笛の音も聞こえるが、喧騒がそれを掻き消す。
そしてそこかしこからいい匂いがしており、急激にお腹がすいてきた。
「マリナのおすすめ屋台とかあるか?」
「アマーゴの……」「アマーゴ関係以外で」
マリナの返答にかぶせ気味に僕は答える。
アマーゴの塩焼きと言いたかったんだろうが、さすがに違うものが食べたい。
「むぅ……」
マリナが少し不満そうに考え込む。
「串焼き……クレープ……」
「オーガの串焼きにクレープか。クレープは甘い系の物だけじゃないんだな。
うちの国だと甘い系のクレープしかないな」
「坊ちゃまアマーゴをそのまま包んだものもありますぞ!」
「お! 爺さんお目が高いね。そいつ今年の新作のアマーゴ一本包みだ」
店主が爺やの声を聞きつけたのか威勢のいい声をかけてくる。
「店主殿それを二本いだだきます」「私も……」
「あいよ~毎度あり」
二人とも結局アマーゴなのね……。
僕はやっぱり定番のオーガの串焼きにしようかな。
「リリアは何にする?」
「私はこのみたらし団子にします」
「団子かーうちの国以外で見るのは珍しいな」
「兄ちゃんヒューマンの国の出身か、懐かしいだろう? ヒューマンの国の人から教わったんだ。一本どうだい?」
「じゃあ僕も一本もらいます」
確かに懐かしいな、時々おやつとして食べてたな。
うちの国で食べるものに比べて団子が大きく味付けも少し濃いめだな。
けどこれはこれでうまい。
そうして僕らは屋台の味を堪能しながら広場までやってきた。
広場では祭りの始まりを今か今かと待ちわびている人々で溢れていた。
「こりゃ落ち着いて見れそうもないぞ」
「ティムさん~こちらです~」
貴賓席のようなところで族長代表のルバートさんが手を振っている。
「奉納奏者の家族や祭りの関係者はこちらで見れますよ。ティムさんもガストンさんの紹介ですのでこちらでご覧ください」
「こんないい席で見れるんですか? ありがとうございます」
貴賓席は獣人王の像の目の前に設けてあり、ここからならガストンさんの雄姿もばっちり見えそうだ。
いよいよ祭りが始まりガストンさんが白銀の甲冑を着て現れる。
あれが正装なのか、結構似合っているぞ。
ガストンさんが獣人王の像の階段を上っていき、その後ろを鳥族の男女が付いていく。
ガストンさんが獣人王の像の前に着くと、獣人王の像に深々と一礼する。
途端にざわざわしていた広場が急に静かになり、辺りを静寂が包むと同時に演奏が始まる。
ガストンさんが吹く低いブブゼッラの音に合わせて鳥族の男女の歌声が素晴らしいハーモニーを奏でる。
幻想的な雰囲気のまま演奏を終えるとガストンさんが振り返り大声で宣言する。
「建国の王! 獣人王様に感謝しつつ今年の奉納音楽祭開始~!」
ウォォォー! と歓声が響き、
先程の幻想的な雰囲気とは打って変わり、あちこちで陽気な太鼓や笛の音が聞こえ、それと同時に人々が獣人王の像の周りを囲み好きなように踊りだす。
踊りつかれた者が輪から外れるとその穴を埋めるように人が入り踊り狂う。
さすがにあの輪に入って踊るのは気後れしてしまい僕らは周りから踊りを眺めながら祭りを楽しんだ。
こうして見ていると獣人以外にヒューマンやエルフ、ドワーフなんかもいた。
中にはあの輪に入って踊っている猛者もいた。
どのくらい祭りを眺めていたのだろうか、いつの間にかガストンさんが獣人王の像の前に立っていた。
「今年の奉納音楽祭はこれにて終了! 各自獣人王様への感謝を忘れずまた一年健やかに過ごせるように願う! 解散!」
ガストンさんがそう言い終わると拍手が鳴り響き、
「お疲れ!」「また来年か」「鳥族の歌声もよかったぞ!」
皆が互いに労いの言葉をかけそれぞれの家に帰って行った。
祭りは始まるまではいいけど終わってからのこの寂しさは何なんだろうな。
そんなことを思いながら、僕らもガストンさんと一緒に帰路に就いた。
次の日の朝、親書の返事をもらいに族長館を訪れる。
「ティムさん昨日の祭りは楽しんでいただけましたか? 親書の返事はこちらです。グロリオーサ王に今度は王も是非祭りにお越しくださいとお伝えください」
「はい、おかげさまでとてもいい席で見学させていただきました。ありがとうございます。王にも祭りの事伝えておきます」
ルバートさんにお礼を言い、お別れを済ませると今度はガストンさんの家にお別れの挨拶に戻る。
「ガストンさん、皆さんお世話になりました。マリナも無事家に帰れてよかったな。また獣人の国に寄ったときは会いに来るよ」
「着いていく……魔法の修行……」
そう言いマリナがガストンさんの方を見る。
ガストンさんは腕を組みながら目を瞑りう~んと唸っている。
「マリナもあと一年で成人だし成人になったら外の世界を見ないといけないしな、それが一年早まったと考えればいいか! 母さんはどう思う?」
「少し寂しいけど……それでいいと思うわ。一人で行かせるよりティムさん達と一緒の方が安心ですしね」
「ってことだマリナ! 許可するぞ! ティムちゃん皆さんうちのマリナをよろしくおねがいします!」
なんかいつの間にかマリナが付いてくることが決まってしまったな。
戦力としては十分強いし、ここでお別れするのも少し寂しい気はしてたしまぁいいか。
「マリナ、これからよろしくな。魔法の修行についてはエルフの巫女様もいるし、僕もできる限り教えれることは教える」
「よろしく……」
「マリナちゃん改めてよろしくね。マリナちゃんは筋がいいから教え甲斐がありそうで楽しみだわ」
「ホッホッホ、マリナ様これからは色々なアマーゴについて探求しましょうぞ」
「楽しみ……」
「旅の仲間はいいな!」と後ろでガストンさんが腕を組みながらウンウンと大きく頷いている。
「あ! そういや、さっき警備隊のやつからグスタフが牢から逃げ出したって連絡があったんだった」
「あいつの事だから復讐に来たりとかはしないとは思うが、一応道中気を付けてな」
「わかりました。気を付けます」
「それでは皆さん名残惜しいですがそろそろ出発します」
「ああ、またこの国に来たときは絶対寄ってくれよな!」
「ティムさんマリナの事ご迷惑をおかけしますがよろしくお願いいたします」
「ねぇちゃん!」「ねぇね!」
双子がマリナにすがりついて離さない。
マリナが何やら双子の耳元で囁くと、「ホントか!」「ねぇね!」
二人とも上機嫌でマリナから離れた。
いったいどんな魔法を使ったんだろうか。
「アマーゴ……」
なるほどあの二人もアマーゴが好きなのか。何かアマーゴ関係の事で納得してもらったんだろうな。
ガストンさん達とお別れを済ませた後は、食料や日用品を購入し次の国へと向かうことにした。
「次はドワーフの国だ、技術大国で最新の技術が見れると思うしアマーゴの最新の調理方法なんかもあるかもな」
そう言いテンションをあげた僕達はいよいよ三つ目の国であるドワーフの国、ドンガラム王国へと向かうことにした。




