晩御飯は豪勢に
アマイアさんが料理を作っている間、僕と爺やとガストンさんで双子のお守りをした。
リリアとマリナは「花嫁修業よ」と言ったアマイアさんに連れていかれた。
マリナは「喰専門……」と言っていたが結局連れていかれたようだ。
双子の男の子のほうがお兄ちゃんでマット、女の子の方が妹でリリーというそうだ。
「兄ちゃん兄ちゃんあのさっきのバキッてやつ教えてくれよ~な~な~」
「う~む、マット君がもうちょっと大人になったらな」そう僕がはぐらかすと、
「ほんとか! やったー絶対だぞー」と喜んでいる。
そんなに素直に喜ばれるとちょっと罪悪感が……機会があれば本当に教えてあげよう。
「むぅマットばっかりずるい!」リリーがそう言うと僕によじ登ってくる。
「よし! リリーちゃんにはこれをあげよう」と飴玉を出す。
大昔は砂糖が金と同じ値段と言われる位高価なものだったらしいが、獣人の国で生産されるようになってからは一般家庭でも常備してある物となった。
甘ーいデザートが食べられるのも獣人の国のおかげというわけだ。
「わーい、ありがとー」そう言うとリリーは僕から降りて、今度はマット君と一緒になって爺やの髭を左右から引っ張っている。
「爺やは獣人なのー? オヒゲ、オヒゲ」
「ホッホッホッ。私はヒューマンですよ」
爺や痛くないのかなどと思っていると、
「コラッ! お前ら止めんか! 爺やすまんな」
とガストンが双子をしかりつけ爺やに謝っている。
「いえいえ、構いませんよ。子供の頃は私もわんぱく者でした。懐かしいです……竜の卵を取りに山を登ったり、オーガやオークの巣を一人で潰しに行ったり」
そ、それはわんぱくの範疇に入るのか?
僕が疑問に思っていると、
「そ、そうなのか。まぁなんだ色々あるな」
ガストンさんも引き気味で返答に困っているようだ。
「みんなーできたわよー」
と気まずい空気を掻き消すようにアマイアさんが客間にやってきた。
「待ってました! さあ、食堂に行こうぜ」
食堂は少し天井が高くテーブルの横には台所がある珍しいタイプの造りだ。
グロリオーサ王国では台所は食堂と別になっている事の方が多い。
「へぇ台所と食堂が同じ空間にあるんですね」
「そうさ獣人の国はこれが標準だ。場所を節約できるし、出来立ての料理をすぐ食べれらるし、後片付けも楽だしいいだろう」
「なるほど! これは素晴らしい仕組みですね。是非我が国でも取り入れなければ!」
台所と食堂を分けなくていいから場所の節約になるし、何より出来立てを食べれるのは堪らないな。
テーブルの真ん中には鶏の丸焼きがデンと鎮座している。
テカテカとした飴色の輝きを放っており食欲をそそられる。
お! これは、今他国で人気のピッツアじゃないか!
僕も実物を見るのは初めてだが、噂通り円形の生地の上に色とりどりの野菜にハム、さらにその上をチーズでコーティングしてある。これを丸いカッターで切り分けるのが流行りらしい、
噂には聞いていたがまさかここで出会えるとは……。
ああ! ちょっと待って! これは! まさか! 僕はテーブルに置かれた茶色の物体に目を奪われる。
これは噂のから揚げじゃないか!
これこそ超最新の調理方法の揚げ物と呼ばれる調理方法で、植物から採れた油を熱しその中に食材をいれ火を通す調理方法だ。
お湯でゆでる方法と似ているがこちらは火を通した食材の表面がサクッと固く仕上がりうまみを中に閉じ込めるらしい。
その揚げ物の中でもから揚げは、鶏肉に下味をつけ小麦粉をまぶし揚げたものだ。
「ア、アマイアさんこれはから揚げでは?」
「あら、ティム君さすがねから揚げを知っているなんて、唐揚げはそのままで食べてもいいし横に置いてあるレモンを絞って食べてもおいしいわよ」
レモンか、あれはかなり酸っぱいけど大丈夫なのか。
そのほかにはパンとスープとサラダがあったが僕の目はから揚げに釘付けだ。
「私も揚げるのを手伝ったんですよ」
「まぶした……」
リリアとマリナがエッヘンとばかりに胸を張る。
「そうか。二人ともよくやったぞ!」
早く食べましょうとばかりにガストンさんを見る。
「よし! 冷めない内に早く食べよう! いただきます!」
いただきまーす! とみんなの食事前の挨拶が響く。
獣人の国でも食べる前にいただきますって言うんだな、
と思いながらあえてから揚げには手を出さずピッツアを先に食べる。
僕は楽しみは最後に取っておくタイプなのだ。
ピッツアを手に取ると上に乗ったチーズがビローンと伸びる。
うむ、うまそうだ。早速ほおばるとトマトの酸味が口に広がり、続いてチーズの濃い味と絡まり何とも言えないうまさを引き出す。
これはうまい! こりゃチーズとトマトは合うな。他の料理にも応用できそうだ。
次に待ちに待ったから揚げに手を伸ばす。まずは何も付けずにいただく。
う~む、これは素晴らしい。かぶりつくとカリっとした食感とともに鶏肉の肉汁が溢れだす。
下味のニンニクがよく効いていて食欲をそそられる。
次にレモンをかけていただく。
うむ、これもいい! レモンをかけることによってさっぱりとした味になる。
もっと酸っぱくなるかと思ったけどちょうどいいな。
このレシピはぜひとも手に入れなければ、そしてうちの国でも広めよう。これはもう決定事項だ!
晩御飯を堪能した僕はアマイアさんにレシピを教えてもらえないかお願いする。
「アマイアさん今日の料理のレシピを是非教えてもらえませんか?」
「ふふふ、喜んでもらえてうれしいわ。もちろんいいわよ。後でメモして渡すわ」
「やったー! ありがとうございます! うちの国でも広めます!」
「それにしても最新の調理方法やレシピは一体どこから手に入れたんですか?」
「うちの国はドワーフの国と仲がいいから、技術提供の一環で最新の調理方法やレシピが入ってくるのよ」
「こんな野菜が作れないかと向こうから打診されることもあるしな」
「なるほど、ドワーフの国は技術大国ですもんね。日々新しい技術が開発されているとか。そんな国と懇意にしているなんて羨ましいです。僕の国も商人同士はやり取りしていますが、国単位で見るとあまり他国と積極的に関わろうとしませんからね」
「普通はそうさ。皆自国の事で精いっぱいだろうさ、ドワーフの国とうちの国が特殊なだけだ。お互いが支え合わないと今の暮らしは成り立たないからな。よし! 難しい話はここまでにして、風呂入って寝るか!」
「お風呂まであるんですか?」
「おう! ドワーフの技術のおかげで今じゃどこの家庭にもあるぞ」
すごいな! どこの家庭にもあるのか。うちの国では王城にはあるが、町には大衆浴場があるくらいだ。
「じゃあ先に俺たちが入るから、ティムちゃん、爺や、マット行くぞ!」
浴室は石でできた大人が4人くらい入っても充分な広さがある大きなものだった。
ガストンさんがこれこれとドラゴンの顔を模した像をペチペチと叩く、口から水が出ている。
「仕組みはわからないがここを押すと口からお湯が出てくるんだ。不思議だよな~」
「んでここを押すと止まる。お湯が出なくなったらここを開けて魔法石を交換するんだ」
とガストンさんがドラゴンの頭部をパカッとあけると拳大の魔法石を見せてくれた。
「この大きさで三か月に一回くらい交換かな」
あのサイズの魔法石ならゴブリン三匹分くらいだ。意外と安く済むな。
体をさっと洗いゆっくりと湯につかる。
「あ~」皆が同時に声を出す。
こりゃあ最高だな『清浄』でも綺麗になるが、この快感は得られない。
マット君がすぐに上がろうとするが、ガストンさんが「百数えてからだ!」とマット君を湯に戻す。
僕は思わず笑みがこぼれる、どの国もこれは一緒だな。
「九十九、百! よっしゃー」マット君が勢いよく外に出る。
僕もそろそろ上がるか。それにしてもお風呂に入れるとは思わなかったな。
体を拭き外に出るとガストンさんが手招きしている。
ん?何だろう。
「へっへっへ、風呂上りと言ったらこれだろう」と瓶に入った少し黄色い飲み物を渡される。
瓶が冷えていて気持ちいい。
「こうやって腰に手を当てて一気に飲むのがマナーだ」
そう言うとガストンさんは黄色い飲み物を一気に飲んだ。
「カーッ! 風呂上がりのフルーツ牛乳はたまらんわ!」
これがフルーツ牛乳か! よし、僕もガストンさんを真似し腰に手を当てて一気に飲む。
おお~甘い! しかし甘いだけでなく少し酸味があるので甘すぎずすっきりした味わいでうまい!
爺やもマット君も同じく腰に手を当ててうまそうに飲んでいる。
いや~獣人の文化は素晴らしいものが多いな!
「サイコーだろ?」「はい! これはたまりませんね」
「じゃあフルーツ牛乳も飲んだし寝るか」
「客間に布団を敷いといたからそこで寝てくれ」とガストンさんに客間に案内される。ガストンさんは布団派なのか。
僕はどっちかというとベット派かな、王城にはどちらもあるから布団で寝たこともあるけど、
ベットの方がしっくりくるんだよな。
「はい。今日は色々ありがとうございました」
「なに。いいってことよ。それにマリナの件もあるしな、ありがとうな。そいじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言うとガストンさんとマット君は奥の部屋へ消えていった。
僕らも早々に眠りに着いた。
今日は色々刺激的な一日だったな。ずいぶんとグロリオーサ王国と違うな。
何というか獣人の国の方が文明が進んでいるというか。色々便利なものがありそうだ。
明日は町中を観光して回ろう。




