マリナの家族
朝食はコメではなく、パンにジャムを塗って食べた。
エルフの国や獣人の国では一般的な食べ方だ。
朝ご飯を堪能した僕達は、野営地の後片づけをすると獣人の国を目指して出発した。
道中は魔物に遭うこともなく順調に進み、その日のお昼ごろに獣人の国エレファランドに到着したが……。
で、でかい、城壁の高さもさることながら横の長さがすごい長い! ここからでは終わりが見えない。
町の規模がかなり大きいことがわかる。
門が近づいてくるとマリナが駆け出す。
門番は熊獣人のようだ。
「マリナ! どこいってたんだぁ~ご両親が探してたぞぉ~」
「旅……」
「そっかぁ旅かぁ、おかえりぃ~」
熊獣人の間延びした声が何とも微笑ましいが、もっと心配しなくていいのか熊獣人よ。
「家こっち……」
マリナに案内され獣人の町を歩く。町はかなり広く種族ごとに住む区画が違うようだ。
円形状に町が形成されており、外側から畑、居住区、商業区、公共区、広場となっているようだ。
畑は町の外にもあるみたいだ。
町の入り口に地図があり、そこにそう書いてあった。
町の造り自体は単純だが広すぎて初めて来た人は迷いそうだ。
街中を歩いていると様々な獣人の姿が見える。
主に猫獣人、犬獣人、鳥獣人、鼠獣人、熊獣人が住んでいるようだ
そのほかにも獣人はいるがさっきの五種の獣人が多いようだな。
獣人以外にもエルフやドワーフやヒューマンの姿も見える。
この国は農業や畜産が盛んだから商品を買いに来たんだろうな。
獣人たちは特にドワーフと仲がいい。ドワーフの国は作物を育てるのに適していない土地なので、獣人の国から大量に輸入しているのだ。
代わりにドワーフの国の技術を提供しているそうだ。
マリナについていくと一軒の立派な建物の前で止まる。
「家……」
ここがマリナの家か結構大きいな、実はいいとこのお嬢さんだったのかな。
「そうか、じゃあ早くご両親に会ってきたらいい」
「みんな一緒……」
僕達が入り口でそんな会話をしていると奥から猫獣人の女性が出てきた。
猫獣人の女性はマリナを見つけると確認するように上から下へとマリナを見つめ、
「マ、マリナ! あなた! あなた! マリナが帰ってきましたよ!」
と叫びながら奥に消えていった。
先程の猫獣人の女性が大きな猫獣人の男性の腕を引っ張りながら、
「ほら! 帰ってきましたよ!」と奥から出てきた。
「ただいま……」
「おおー! マリナじゃねえか! どこほっつき歩いてたんだ。まあいいか。おかえり」
まあいいかって……。獣人らしいけど。
さらに奥から二つの小さい影がすごい勢いで出てきた。
「ねえちゃんー!」「ねぇね!」
二つの影がガバっとマリナの腰辺りにしがみついた。
「マット、リリー久しぶり……」
「ひさしぶりじゃねぇよぉーわーん」「わーん」
どうやらマリナの兄弟のようだな。すごい勢いで泣いている。
「マリナがいるってことはあんたがヒューマンの国の王子か。ヒューマンの国から連絡があったよ。うちのマリナが世話になったなありがとうな。しかしまさか妖精隠しに遭うとはなぁ」
「おっと、俺はガストン・キトランド。マリナの親父で猫獣人の族長をやってる。こっちは妻のアマイア。そっちで泣いてるチビどもはマリナの弟と妹で双子のマットとリリーだ」
「僕はグロリオーサ王国の第二王子の次男ティム・カタプレイト・グロリオーサと申します」
「私はエルフの国の元巫女リリア・クリベリルと申します」
リリアが優雅にお辞儀をした。
「私は坊ちゃまの御付のアルフレッドと申します。お気軽に爺やとお呼び下さい」
爺やもこれまた優雅にお辞儀をした。
「エルフの国の元巫女だって! 王子様もあれだが巫女様とは! 結構な大物と旅をしてたんだな」
こいつぅーとばかりにガストンさんがマリナを小突いている。
「リリア優しい……ティムお婿さん……」
「はっはっはこいつはいいや。娘が旅から戻ったら婿を連れてきたぞ!」
はっはっはいつの間にか婿認定されたぞ。
「あなた、皆さんお疲れでしょうから奥でゆっくり休んでいただいたら?」
「そうだな積もる話もあるし今日は泊ってってくれ」
おお! ありがたい。
宿もいいけどその国に住んでいる人の家ってなかなか泊る機会がないからな、今回はお言葉に甘えさせてもらおう。
「お言葉に甘えさせてもらいます」
「おう! いいってことよ! ささ入ってくれ」
と僕達はそのまま室内に案内された。
ちなみに双子はマリナの腰に顔をうずめたまま離れようとしなかったので、そのまま移動してきた。
中に入るとさすが族長の家というだけあって広い軽く十部屋はありそうだ。
僕達は客間に通されるとソファに座った。
「改めてありがとう」そう言うとガストンさんが頭を下げる。
「いえいえ誰でも同じ状況になったらそうしますよ。気にしないでください。それに僕らもマリナと旅ができて楽しかったですし」
「そうか、そういってもらえると助かる」
「ところで話は変わりますが、明日で構いませんが族長代表と会うことはできませんか?」
「族長代表?」
「国王の親書をお渡ししたいと思いまして」
「なるほど! 合点がいったぜ! 親書の件は前族長から聞いてるぜ」
「ヒューマンの国の王子も大変だな。まあうちも似たような風習はあるが、よし! 明日の昼頃会えるよう算段をつけとくぜ」
「とりあえず今日はうちでゆっくりしてってくれ! おーい母さん。今日はマリナが帰ってきたお祝いも兼ねて豪勢にいくぞ」
「わかりました。では買出しに行ってきますね」
「私も行く……」
「あらマリナも手伝ってくれるの?」
コクリと頷くマリナ。
「私もお手伝いいたします」とリリアが挙手する。
お客さんに手伝ってもらうわけには……そう言うアマイアさんを町の様子も見たいですしとリリアが押し切ったようだ。
「それじゃあ一緒に行きましょうか」
三人はそのまま買い物にいった。
ちなみにマリナの弟と妹はくっついたまま一緒に出て行った。
ずっとくっついたままだったりしてなどと馬鹿なことを考えていると、
「ティムちゃん。って王子にティムちゃんはまずいか?」
「いえ、表向きは商人見習いの身分で旅をしてますので、お好きなように呼んでいただいて構いませんよ」
「そうか。ところでティムちゃんは奉納音楽祭は見ていくのか?」
「はい! できれば見ていこうかと思っています。いつ頃開催されるんですか?」
「明後日だよ。明後日! ちょうどいい時にきたな! 今年は俺が奉納奏者なんだから是非見てってくれよな!」
「その奉納奏者とは何ですか?」
「ん? ティムちゃんは奉納音楽祭がどんな祭りかしってるのかい?」
「獣人王に音楽と感謝を捧げる祭りで、すごい盛り上がるってことくらいしか知りません」
「大体はそれであってるよ。肝心の祭りの行事だが、王のブブゼッラって呼ばれる獣人王の声を模して造られたブブゼッラっていう楽器を、獣人の代表者一人が祭りの初めに吹くんだ。そいつが奉納奏者って呼ばれてて獣人にとってはすげぇ名誉な役なんだ。奉納奏者は選抜戦の優勝者がなるんだが、そいつがブブゼッラを吹けなくてな。練習しろって言ったんだが、めんどくさいって言って辞退しやがったから、俺が代わりに吹くことになったんだ。俺が選抜戦の準優勝者だったしな。王のブブゼッラを吹くのはすごい名誉な事なんだがなぁ……そいつにとってはあんまり興味が無かったみたいだ」
「なるほど。ところでそんなに名誉な事なら種族間で争いになったり、同じ人が何回も吹くことに不満が出たりしませんか?」
「その辺は大丈夫さ! 一度奉納奏者になった者は、二回目は辞退するのが決まりだし、毎年選抜戦っていって優勝者を一人決めるんだが選抜戦の内容が毎回違って、各種族の得意なことが内容になるのさ、例えば今年は猫獣人の得意な戦いで決めたし、鳥獣人の得意な歌で決めるときもあるし、一番早く計算できたものが優勝なんて鼠獣人の得意なことがあったり、毎年特定の種族に有利な内容に変わるから、実質持ち回りみたいなもんさ。今年はもうちょっとで俺が勝てそうだったんだが負けちまってな……いつの間にか俺より強くなっちまって……」
そう言うガストンさんが感慨深げな表情で遠くを見つめているのが印象的だった。




