異世界への召喚
周りを見渡せば、広大な大地、青い星空、そんな中に俺はいた。
世界へのリンクを行い異世界へと来たのだが、まさかのシチュエーション。周りに町はなく、道らしいものもなく、しかも夜ときた。
いきなりの放置プレイ。右も左も分からない異世界での初日だ。
しかもこの4年間、食事も睡眠もトイレさえも必要なかったのにいきなり腹からグゥ~、と音がした・・・そう腹が減っているのだ。
いきなりのピンチに動揺を隠せない、とりあえず今の状況を整理し所持品などを確認することにした。
心の中で“宝物庫”と念じて中を確認する。
入っている物は、双竜の魔剣、ベルト・・・のみだった。一応、双竜の魔剣を頭の中で取り出すイメージを浮かべてみた。
すると両手に、漆黒と純白の日本刀が手に収まり現れた。そしてまた頭の中で刀をしまうイメージを浮かべると、刀は両手から消え去った。
いったいどうすれば・・・そこで自分の特殊スキルに次元移動があることを思い出しすぐさま心の中で“次元移動”と念じてみるが・・・何も起こらない。
なぜ?理由が分からない。きっと特定の行ったことのある場所にしか行けないとかそんな設定なのだろう。
しかたがないので辺りを探索すると、小さな洞窟を発見んし入ってみることに。洞窟とかと思ったがただの穴倉みたいな場所だったがなんとか寝れそうな広さはあったので現実逃避的な感じで寝ることにした。
(いったいこれからどうなるのか)
心配を胸に寝ることができ、翌朝。
青い空、まばゆい太陽、そして、“ぐぅぅぅううう”鳴り止まない腹の音。
昨日以上に腹が減った、喉も乾いた、いきなり絶望的な状況だった。しかしここに留まっても餓死するだけだと思い、当てもなく歩くことにした。
2時間ほど歩きしかし腹が減り極限な状態で足元がふらつきまさかの崖へとダイブしてしまい意識が途切れる。
ガタン、ガタン、そんなどうしようもなく乗り心地の悪い物に揺られ目が覚める。
いったいここはどこ?
辺りを見渡せば、女性や少女が10名ほどいた、しかも美女、美少女だ。しかし何かが違う、そう耳が明らかに尖っている。おぉぉぉ、エルフ族と呼ばれる種族、しかもいきなりの出会いだった。
しかしこのエルフの女性達は、手枷、足枷がされており確実におかしな状況だ。いやな予感しかしない・・・あれ?俺も手枷、足枷ついてるがな!!!
昨日に続きまたもや状況を整理しよう。
現在、馬車のようなものの中、手足には枷、周りの女性たちは綺麗なエルフ、しかもエルフ達にも枷が嵌められ首輪みたいな物も付けられている。しかも周りは鉄格子で固められており出られそうにない。
ん~・・・・・・これは確実に売られる。そう奴隷にされそうな気がする。
そんな感じで考え一人で驚いている、見た感じかわいそうな俺にエルフの女性が話しかけてきた。
「すいませんあなたは?」
「あ、ごめんなさい、一人でテンパってました。俺の名前は大塚博文。ただの旅人みたいなものです。」
「そうですか、私はエレン・ソーサリーと申します。」
「エレンさんですね。ところで俺はなぜここにいるのです」
分からないことはすぐに聞くのが俺のモットー
「すいません、わかりません」
(え!!分からないの??)
驚愕な表情をしていると
「いきなり馬車が止まり運ばれてきました。あとこちらに多少の果物と飲み物がございます。」
俺は目を輝かせた。エレンさんの最後の言葉、食べ物と飲み物があると、すぐに食べ物などがある所に移動しむさぼり食って飲んだ。もう必死にだ。
ようなく生気を取り戻しエレンさんに問いかけた。
「この馬車はいったいどこに向かっているのです?」
「ベル王国の奴隷商です。」
やはり奴隷として売られるみたいだ。
いきなりの異世界で奴隷にされるっていきなりエンディングなんじゃないのか?など絶望的な状況に肩を落としたが、そこでふとあることを思いついた。
異世界に来て右も左もお金もない。なら条件のいい奴隷になり情報、お金、食べ物にありつけば、もし用済みになればいくらでも逃げ出せるだけの力はあると自負している。
そんな事を考えていると他のエルフの少女が話しかけてきた。
「大塚さんは人間ですよね?」
少女は不思議な顔をしながら話しかけてきた。何が不思議なのだろう。
「人間かぁ、まあそうだね。それが何かあるのか」
一応、魔人については隠しておこうと何となく思って人間だと言ってしまった。その質問に対してエレンさんが口を開く。
「ベル王国は人間の収める王国なので人間族を奴隷にすることは禁止されております」
え?いきなり計画が丸つぶれになった気分だ。しかも人間か?疑問を問いかけられたのにも引っかかり
「エレンさん、種族を鑑定できる魔法などあるのですか?」
「種族を鑑定?いえ、そういった魔法やスキルは聞いたことはございません」
無いのか、ならなぜ枷が嵌められているのか。見た目は完全に人間族なのに奴隷扱いに疑問を感じた。
そんなことを考えていると馬車が止まり大きな城壁に囲まれた街に入っていくところだった。
町を初めて見て感動した。見た目人間族なのに枷が嵌められ、奴隷になるかもしれない事なんかは、すでに頭の中から抜けてしまい、町の観察(馬車の中からだが)をしていた。
すると馬車がとある豪邸の前で止まった。
「全員外にでろ」
兵士っぽい格好の男が檻のカギを開けそういうと、エルフ達はみなその指示に従い外へと出ていく。もちろん俺も一緒にだ。
そのまま歩いて豪邸の中に入っていくと、若い女性とその周りには騎士(明らかにさっきの兵士とは格が違う格好をしている)が3名、そして真ん丸に太った男性1名がいた。そして若い女性は俺を見るなりこちらを指さして何かを太った男性に指示していた。
「おい、そこの黒髪の男をこっちに連れてこい」
すると先ほどの兵士が俺の枷に着いた鎖を引き連れてこうとするがビクともしない。俺はいったいなにをしているのか分からず、しかしいきなり鎖を握られて引かれれば誰って不快な気持ちになる。
そう俺は少し抵抗してみたのだ。
まあ抵抗といってもその場から動かないといった抵抗なのだが、どうも太った男性の気に触れたみたいで、棒のようなものを持ってこちらに来た。
「奴隷風情がさっさとこんか」
その棒を俺に叩き付けてきた。
さすがにブチ切れそうだ。少し殺気を込めて睨んでみる(この場合ビビッて動けなくなるのが落ちだよな)そう思い口元を少し吊り上げ笑みをこぼしたのだが・・・
さらに殴られた・・・こちらの世界ではお約束は通用しないようだ。
しかたがないので叩かれながらも歩いて少女達の元へ向かった。
少女はかなり美人だ。身長は160㎝前後、髪の毛は金色縦ロール、目は空を連想させるほどの青、スタイルも少女としてはかなりいいと思う、出るところがしかっり出ている感じだ。(服の厚みで正確にはわからないが)
そこでふと自分のスキルを思い出し心の中で念じた。
そう ”透視” と。
結果は吹き出しそうになった。
理由は簡単だ、下着まで透かして見てしまったからだ。
さすがに罪悪感が半端なく、しかしいいものが見れた眼福とも思いつつ複雑な気持ちだった。
そんな少女をまじまじと見ていると少女からいきなり言葉をかけられる。
「おぬしは人間か?」
「はい」
いったい俺がどう見えるのか。
「まあいい、喜べ、おぬしは童の奴隷として買ってやる」
「いや、結構です」(この人馬鹿なの?)
奴隷にしてやると言われ喜ぶ奴がいるだろうか?いやごくわずかにはいるかもしれないが、俺は断じてそんな変態でもなければ、性癖もない。常識人だ。
そもそも奴隷になるのは俺の今の考えからするといいことだ。しかし、今目の前にいる女性は確実に面倒くさい性格をしていそうだ。
つまり俺の、情報、お金、食べ物この3つの調べたい条件以外に自分の異世界生活理念”楽な生活”からかけ離れた生活になりそうな気がしたのだ。
しかしここで後ろから棒で叩かれた。痛くはないのだが、鬱陶しさはある。
「姫様のありがたいお言葉に反論ししおって」
また叩かれた。てか今姫様って?
「え?姫様?お姫様かよぉ」
そこでもう一つのスキル”鑑定”を使ってみた。(自分の能力について後でしっかり復習しよっと)そんなことを同時に考えてみたが、とりあえず”鑑定”の結果。
エヴァ・ルイ・ベル
年齢・17
種族・人間
装備・豪華なドレス、守りのイヤリング、守りのハイヒール
ステータス
レベル5
HP(体力) ・250
MP(魔力) ・250
筋力(攻撃力)・100
耐性(防御力)・350
速さ(スピード)150
俺のステータス壊れてるんじゃね?
初めて他人のステータスを見た俺は、少し驚きを隠せずにいた。
しかしお姫様のエヴァは話を続けた。
「そうじゃ、童の奴隷としてよく働くのじゃ」
「いやぁ、働くのかぁ」
俺は異世界に来てまで働くのは、嫌だった。
むしろ異世界にきて堕落した人生を楽しむと心に決めていたのだ。
しかし、お姫様のもとに行けば裕福な生活ができるのでは?との疑問も生まれた。
しかも情報、お金、食べ物は確実に手に入る。(最悪盗んで手に入れてしまえば・・・)
まあしかし交渉は大事なことだ。人間話し合いで解決できることが山のようにあるのだ。
「お姫様の奴隷になったらなにかいいことがあるのか?」
直球で聞いてみた。
太った男が「無礼にもほどがある」など言っているが、お姫様がそれを止た。
「童の生活すべてと一緒にできる、無論、寝る時も同じ部屋じゃ。」
「いやぁ少女趣味ではないので」
「童は今年で17じゃ」
「十分子供では?」
「よいか、ベル王国では16歳で成人となる。それに食事も風呂もあるのじゃぞ」
食事に風呂か、俺の中で3つの条件から1つ追加された。
「食事は3食付か」
「そうじゃ、しかも残飯みたいなものではなく王国の料理人が作った最高級の食事じゃ」
「お願いしまーーーーーす」
完全に食事につられた。
これは罠だ、巧みに考えられた罠、もしくは魔法で操られている。
そんなことを思いつつ口には涎が・・・おいしい食事につられるのはしょうがない。
最終的にこの結論がでた。
「そうかそうか、童の名は、エヴァ・ルイ・ベルじゃ」
「俺は、大塚博文よろしくな」
こうして俺の奴隷生活が幕を開ける。
ちなみに言葉使いを指摘されたのは言うまでもないことかもしれない。