神の招待、そして王の宣言
目を閉じると女神の姿。
俺はこの女神を知っていた。
なぜ?
当たり前だ。俺をこの異世界に招待した人物なのだから。
あの何もない白い部屋で一人佇んでいた女性。俺に戦闘のしかたを教えてくれた人物。うっすらと映る女性には顔がしっかりあるのが確認できるが。今までは顔が無く、言葉道理の意味で”のっぺらぼう”だったが俺にはすぐに分かった。なのでここに現れたことに驚いた。そして疑問に思った。
なぜお前が?
<<久しぶりー。元気してた?>>
なぜか軽い口調だな! 俺の質問を無視してきた名前も分からない女性。何度か名前を聞いたことはあるのだが教えてくれなかった。しかし神殿に来る途中でジハードから聞いた名前を口にした。
エレノア、お前がこの世界の神なのか?
<<あれ? 私の名前知ってたの? そうだよー。って言っても私だけじゃないんだけどね。>>
なるほど。やはり神に誓を立てる相手とは、このエレノアに対してみたいだ。しかもその神が俺を召喚した人物。色々とややこしそうだ。
まぁ色々と聞きたい事あるけど今はいい。それより、俺はこれで王様になったってことか?
<<聞きたい事? ん、そうだね。一応この国の王として認めてあげるよ>>
親指を立てて、オッケーと言わんばかりの軽い口調だ。
本当にこれでいいのか? 不安でいっぱいだ。
<<あっそうだ。ついでに神への誓もしちゃう?>>
あー何かそんな事を言ってたけど・・・神って楽しいの?
<<楽しいとかはないかな。特にする事ないし!!>>
なら俺はいいや。
俺の目的は変わってない。それは堕落した楽な生活。それはする事無く暇な生活とは違うのだ。楽しさが無くては意味がない!!
なので神になることにはメリットは無く、デメリットしかない気がしたので拒否した。
<<まぁそう言うと思ってたけど・・・。堕落した楽な生活を目標にするって・・・馬鹿だね>>
なんでお前がそれを知っている!! だ、堕落って言っても、に、ニートとかじゃないからな!!
驚いた。俺の目標をエレノアがなぜ知っているか分からなかった。それにそんな事を人に知られた事に恥ずかしくなってしまった。
<<一応、神だからね。あっそれとお前が王になった事は認めるけど、今のお前の力だと、まだまだ未熟すぎるから忠告だけはしておくね。また何かあればここで祈りを捧げて。そうすれば私とまた会話できるから>>
俺は 了解 とだけ心の中で返事をし閉じていた目を開けた。
「神とは契約できたのか?」
目を開けた俺にエヴァが聞いてきた。
契約? 特にそんな契約っぽいことはしてない気がした。
「女神エレノアとは会えたのじゃろ?」
「会えたし少し会話もしたが・・・契約みたいなものはしてないよ・・・」
少し考え王と認めると言っていた事を思いだしエヴァに伝えた。
しかし、普通は女神エレノアに自身の血を捧げエレノアに飲んでもらうらしい・・・
あれ? 本当に大丈夫なの??
するとまた頭の中で声がする。俺はまた目を閉じるとエレノアが現れ・・・
<<ごめんごめん。契約し忘れてたよ>>
そう言うといきなり、口付けしてきた。そして俺の唇を少し噛み血を飲んだ。
<<これでお前は今日から王になったから。がんばれよ!!>>
すごく軽い・・・女神それでいいのか?
再び目を開け、エヴァに今血を飲んでもらった事を伝えると、ほっとした顔をした。
すると他の皆は膝を地に着き頭を下げ、ジハードが口を開く。
「おめでとうございます。我らの忠誠をお受け下さい」
そう言うとグレンが剣を抜き丁重に俺に差し出した。
仕来りなのだろう。エヴァが小声でやり方を教えてくれた。
グレンから剣を受け取り天に剣を突き上げ宣言した。
「ここにいる皆の忠誠、確かに受け取った。俺は宣言しよう。皆の忠誠を裏切らず、このベル王国に幸を、祝福を授けると。バッカス・ローレン・ベルの名の元、ここに誓う」
そう言葉にした途端に水晶に光が宿り俺の名が浮かび上がった。
これで俺が王となる儀式が全て終わった。
その後、王室と呼ばれる部屋に全員で行き、これからの事についてまた話合いを始めたが、さすがに夜も遅くすぐに解散となり寝る事となったのだ。
ちなみに従者はと言うと。さすがに五人全員がエヴァの部屋で寝る事は出来ないとジハードが言い出し、(俺は全然、いやむしろ一緒の部屋のほうがよかった)各個室を用意することになった。その発言に対し従者(俺も影から)文句がでたが、ジハードもそれは了承できないと断として意志を曲げず、渋々割り当てられた部屋に帰って行った。
翌朝、俺達は忙しく、自分がやるべき事を朝早くからやり始めた。
一組づつ簡単に状況を教えよう。
グレンとエレナは町にでて、騎士団の入団希望者を募った。
こちらは順調なようで、(主にエレナの見た目に釣られた希望者みたいだが・・・)昼頃にはある程度の数の希望者を確保し面接に移っている。
夕方には人選も終わり、当初の予定数五十の半分ほどを入団させる事ができた。
ジハードとモエも町に出向き貴族になる者の希望者を募っていた。
貴族希望者は多く、かなりの数の希望者が集まった。しかし貴族になるのは誰でもとはいかず、テストみたいな事をしていた。
結果はほぼすべての人が落選。さすがに貴族となれる素質を持つ者は中々いないみたいで苦戦していた。
しかし皆頑張っていたのだが・・・ここで困った一組が現れた。セレナとクレアだ。
この組はメイド、城の雑用を確保する為に奴隷商に行ったのだが・・・。
帰ってきた二人は何と、四十人程の奴隷を連れてきた。その奴隷に使った金額は何と、国の持つ金の約半分にも上った。
当たり前に使える者だけを、俺とエヴァが選別し残りは奴隷商に返す事となった。
当の俺はと言うと・・・。
勉強だ。
王としての勉強。ベル王国について、同盟国について、他国の情勢、その他諸々をエヴァが付きっきりで教えてくれた・・・かなりハードだった。
覚えた事は後程教える機会もあるだろう。
そんな勉強が朝から晩まで続く。たまに帰ってきた組の報告を聞いたりして休息をとるが・・・ほぼ缶詰め状態だ。しかもそんな日々が一週間も続いた。
その日の朝俺達は王室にいた。
俺の前にはジハード、グレン、従者、騎士団、メイド。そして俺の隣にはきれいなドレスに身を包んだエヴァ。
総勢百を超えるメンバー。さすがにこの多さに腰が引ける。
俺はここでまた王の宣言をするのだ。しかもこの後は民の前にでて宣言・・・緊張で腹が痛くなった気がする。現実逃避したく、従者を鑑定して以外にレベルが上がっている事に気がついた。
すごいな・・・森に入ってるのは知ってたけどここまで!? てか時間とまんねーかなー
しかしそんな願いも虚しく、時は残酷にも過ぎて行った。
「バッカス陛下、そろそろお時間です」
ジハードから告げられた。
もうなるようになれだ!! 俺は意を決し宣言する。
「私がベル王国の国王となったバッカスだ。知らない者のほうが多いとは思う。・・・。私に従え、さすれば繁栄を、祝福を皆に約束しよう。」
どうだ!! この無茶苦茶な宣言は!!
こんな宣言でいいのかとは思ったが・・・一人、騎士団の男性が立ち上がる。
「陛下、あの日私は陛下に助けられました。陛下は悲しんでおりました、助けられなかった命があったと。そんなお優しい陛下だからこそ、私は忠誠を陛下に捧げます」
町で最初に話しかけ、お礼を言ってきた男性だった。騎士の男性が話した後、次々と立ち上がり「私も・・・」「俺も・・・」と忠誠をそしてお礼を言ってきた。
それは俺が助けた人々。そんな人々が騎士、メイドなど志願し、俺に忠誠を捧げた。
俺は素直な皆の気持ちを受け止めると、照れ臭くなり口元がつい綻んでしまうが、エヴァに軽く膝蹴りを食らい表情を引き締めた。
その後は、グレンが代表の騎士団の忠誠、ジハードが代表の貴族の忠誠、セレナが代表のメイドの忠誠などがあり、王室での王の宣言が終わった。
しかし王室での宣言が終わってもまだ民への宣言が残っている。
民の元に向かっている途中、エヴァから紙を渡された。中を読むと宣言の文章が書かれていた。
エヴァとジハードがもしもの時の為に用意していた物らしいが・・・どうも王室での宣言がお粗末な物と思われているらしい・・・。
民への宣言をエヴァに渡された紙を分からない様に読みながら終わらせ、このベル王国全体に俺が国王になった事を周知させた。
これで俺は立派? な王様になり、この国を統治していく事となった。そして俺の国王就任は同盟国、他国に伝令が回った。
俺が新国王になったことで、これから色々と問題が起こる事は露知らず、俺は余韻に浸っていた。
明日から第二章。
とりあえず明日は、二章のプロローグ的な物から始めていきたいと思います。